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日本と中国におけるステマ規制の概観・比較 ~近時の処分事例を踏まえて~

企業経営・販売・広告

2025.05.20

執筆者:弁護士 森進吾
    フォーリンアトーニー 张婧婧
    フォーリンアトーニー 夏惜墨

 日本及び中国の双方において、近時、ステルスマーケティング(ステマ)に対する行政当局の取締りが活発化しています。そこで、日本と中国におけるステマ規制の近時の動向を踏まえたうえで、両国の法規制の相違点などを解説します。

 ■日本におけるステマ規制の近時の動向

1 日本におけるステマ規制の内容

 日本では、2023年10月1日から、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」に該当するステマは禁止されています(景品表示法第5 条第3 号、消費者庁告示)1 。つまり、実際は事業者(ブランド企業)の表示であるにもかかわらず、外形上、第三者の表示のように見える表示が違法なステマとされています。

 消費者庁が公表している「ステルスマーケティングに関するQ&A 2 」(ステマQ&A)によれば、インフルエンサーが企業から報酬を受けたり又は無償で商品の提供を受けたりしたうえでSNSを通じて当該ブランドを紹介する場合、外形上は第三者であるインフルエンサーによる表示に見えるものの、通常は、企業が表示内容の決定に関与したと認められ、違法なステマと評価される可能性があります 3 。他方で、街頭において不特定多数の者に対して試供品として自社の商品を無償で配布したうえで、「よろしければ使用後の感想をSNSに投稿してください。」と声掛けすることは、投稿内容についての指示は行っていないため、違法なステマとは評価されません 4

 また、予約サイトの口コミ投稿を行うことを条件にサービスを割引価格で提供する場合については、口コミ投稿の表示内容に関与しない限り問題ないとされているものの、他方で、「星5(☆☆☆☆☆)」を付けることを条件として割引価格を提供することは違法なステマとされています 5

 他にも、商品を使用した消費者の感想等に関するアンケートの回答の一部を引用(抜粋)して「お客様の声」として自社ウェブサイト内に掲載する場合については、無作為に選んだ回答を引用して掲載することは問題がないとされています。他方で、商品について好意的な評価をしているものだけを選んで引用する場合や、商品の「良い点」・「悪い点」を挙げている回答の「良い点」の部分だけを引用する場合は、いずれの場合も、違法なステマに該当するとされています 6

2 日本におけるステマ規制に関する処分状況

 消費者庁は、ステマ規制に違反する行為が認められた場合、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」(行政処分)を行うことができます(景表法第7条)7 。違反のおそれのある行為が求められた場合には、「指導」(行政指導)が行われます。

 現時点までで、消費者庁が措置命令を下した案件は以下の5つです。

  1. 医療クリニックのグーグルマップレビューが問題になった事案 8
  2. RIZAP(chocoZAP)の自社LPで「お客様の声」と書かれたInstagram投稿が問題になった事案 9
  3. 大正製薬の自社LPにおけるInstagram投稿が問題になった事案 10
  4. 診療所が星5を投稿することを条件に5,000円分のQUOカードを提供する等が問題になった事案 11
  5. ロート製薬の自社LPにおけるInstagram投稿が問題になった事案 12

 上記の案件のうち、①と④は、「Googleマップ」「クチコミ」で星5と評価することを条件に、代金の割引や「QUOカード」提供などをしていた行為が、事業者が表示内容に関与したと評価されている点が共通しています。

 ②、③及び⑤は、自社ウェブサイトにて掲載した第三者のInstagram投稿について、事業者が当該第三者へ依頼した表示であり、事業者が表示内容に関与していたにもかかわらず、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言が明示されていなかったことが共通しています。また、同様の事案において、東京都が措置命令を下した案件もあります 13

 ■中国におけるステマ規制の近時の動向

1 中国におけるステマ規制の内容

 中国では、2015年に大きく改正された広告法上の規制として、広告には識別性を持たせて、消費者がそれを広告であると識別できるようにする必要があります(中国広告法第13条)。

 ただ、「広告」の定義について、法律上の規定がないことから、インフルエンサーマーケティングがそもそも規制対象となる「広告」に該当するのかという問題についてやや不明確な状況が続いていたところ、2023年5月1日から施行されているインターネット広告管理規則(互联网广告管理办法 14)によって、ブランドから報酬を受け取ってブランドのために情報を発信するMCN(マルチチャンネル ネットワーク)やインフルエンサーが明確な規制対象とされています。

 特に、「知識の紹介、体験の共有、消費者レビュー等の形式で商品又はサービスを販売促進し、かつ購入先(ショッピング)リンク等の購入方法を付加する場合は、目立つように『広告』と明記しなければならない」と定められています(インターネット広告管理規則第9条3項)15

 なお、インターネット広告管理規則に関するガイドラインとして、2024年8月22日に施行されているインターネット広告識別性法執行ガイドライン(互联网广告可识别性执法指南 16 )においても、購入先(ショッピング)リンクの付加が広告該当性の一つの判断基準とされています 17

2 中国におけるステマ規制に関する処分状況

 中国におけるステマ規制違反を原因とする行政処分事例としては、以下のような事案があります。

  1. インフルエンサー(达人)がブランド(商家)のために小紅書(RED)、抖音(TikTok)のライブコマースプラットフォーム上で「体験の共有」を発信したものの、「広告」と表示していなかった事案において、マーケティング会社が2万人民元の罰金処分を受けた事案 18
  2. wechatアカウントを通じて健康情報について発信を行う企業が当該アカウント内の画面欄に商品販売ボタンを設置していたにもかかわらず「広告」と表示していなかった事案において、同企業の行為が違法であると評価された事案 19

 ただし、②の事案では、同企業の初めてのステマ規制違反であったところ、速やかに違法行為を改善して、当局に積極的に協力したこと等を理由にこの点では処罰は受けていません。

 ■日本と中国におけるステマ規制の違い

1 規制の対象者

 中国法と日本法のステマ規制の違いとして、まず、日本法では、事業者(広告主であるブランド企業)のみが規制対象となっているのに対し、中国法では、上記のとおり、広告主から依頼を受ける立場のマーケティング企業やメディア運営企業も規制対象となっている点が挙げられます。

 このような中国法の構造上、マーケティング企業やメディア運営企業が「広告」の表示を付記しないことを理由に違法なステマと評価された場合であっても、広告主であるブランド企業には違反が存在しないという場合があり得ます。そのため、中国にてインフルエンサーマーケティングを利用する日本のブランド企業は、マーケティング企業やメディア運営企業と契約を締結する場合には、自社が違法なステマに関与していないことを示すためにも、「中国の広告法等の関連法令を遵守する義務」を課しておくことが重要になります。

 なお、広告主から依頼を受ける立場のマーケティング企業やメディア運営企業を規制対象とはしない日本法については、口コミ代行者やインフルエンサーに対する規制の有効性として不十分であり、規制対象を広げるべきであるとの見解も示されています 20

2 違法なステマにならないための措置(広告である旨の表示方法)の違い

 日本では、違法なステマにならないための措置として、第三者(インフルエンサーや口コミ代行者)の表示中に、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言を表示する方法が認められていますし、これらの文言以外であっても、表示内容全体から見て、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていれば、違法なステマには該当しないと考えられています 21

 他方で、中国では、インターネット広告識別性法執行ガイドライン(互联网广告可识别性执法指南)によると、広告の識別性が問題となり得る表示に対しては、違法なステマにならないための措置として、「広告」という文言の表示が明確に要求されています(ガイドライン6)22 。この点、「広告」ではなく、「プロモーション」、「PR」、「スポンサード(赞助)」、「推广」や「AD」などの文言でも代替が可能であるか問題については、今後の中国の行政当局による運用を注視する必要があります 23


  1. https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/public_notice/assets/representation_cms216_230328_07.pdf ↩︎
  2. https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/stealth_marketing/#q5 ↩︎
  3. 脚注2ステマQ&Aの「Q5」のAや「Q19」のAをご参照。ただし、ステマ運用基準では、「事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合」には、当該表示(投稿)は、「事業者の表示」に当たらないとしている点には留意が必要です。 ↩︎
  4. ステマQ&Aの「Q4」のA ↩︎
  5. ステマQ&Aの「Q6」のA ↩︎
  6. ステマQ&Aの「Q10」のA ↩︎
  7. ステマ規制違反は、課徴金納付命令の対象にはなりません。ただし、違反行為の内容に優良誤認表示又は有利誤認表示が含まれる場合は、当該行為が課徴金納付命令の対象となることがあります。 ↩︎
  8. 2024年6月7日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/038178/ ↩︎
  9. 2024年8月9日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/038980/ ↩︎
  10. 2024年11月13日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/039990/ ↩︎
  11. 2025年3月18日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/041364/ ↩︎
  12. 2025年3月25日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/041488/ ↩︎
  13. https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/03/2025032839
    なお、都道府県知事に対する権限の委任については、景表法施行令第23条が根拠となっています。 ↩︎
  14. https://www.gov.cn/gongbao/2023/issue_10506/202306/content_6885261.html ↩︎
  15. 一方、もし、購入先(ショッピング)リンク等の購入方法等を付加していない場合、そのインフルエンサーマーケティングが広告に該当するのかは明確ではないものの、「商品またはサービスを宣伝する行為」に明らかに該当する場合は、広告と認定される可能性があるため、留意する必要があります。 ↩︎
  16. https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202408/content_6970377.htm ↩︎
  17. 原文:五、互联网平台用户利用平台信息服务发布广告的,该用户是广告发布者。
    互联网平台经营者发布互联网广告,或者利用人工、算法等方式干预自然排序、影响展示效果、附加购物链接并构成广告的,互联网平台经营者应当认定为广告发布者。 ↩︎
  18. 処分日:2023年8月9日 青市监罚〔2023〕03005号 ↩︎
  19. 処分日:2024年8月2日 沪市监黄处〔2024〕012024000515号 ↩︎
  20. 村上政博「景品表示法における残された課題」国際商事法務Vol.53,No3(2025)290、291頁 ↩︎
  21. 消費者庁「事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック」14頁の事例などhttps://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/assets/representation_cms216_200901_01.pdf ↩︎
  22. 原文:广告发布者(或者自行发布广告的广告主,下同)可以通过文字标注、语音提示等方式,增强互联网广告的可识别性。通过文字标注方式的,应当显著标明“广告”。通过语音提示方式的,应当通过清晰的语音提示其为“广告”。 ↩︎
  23. 中国法の専門家の間においても、インターネット広告識別性法執行ガイドラインに対する解釈は確定していません。
    中简律所·解读|软文、探店视频、网红种草,需要标注“广告”吗?——《互联网广告可识别性执法指南》解读
    https://mp.weixin.qq.com/s/wTy0f0WMIYi5kYX8KnYv8w
    “可识别性”的边界终现——评《互联网广告可识别性执法指南》
    https://mp.weixin.qq.com/s/GSsm_wAtxe84N_Ys33GkMQ ↩︎

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