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コラム

COLUMN

「いきなり!ステーキ」 ~ものの売り方と特許~

知的財産

2021.07.04

執筆:弁護士 堀田 明希

1 ステーキの売り方が特許?

 突然ですが、「いきなり! ステーキ」というお店をご存知でしょうか。座ってゆっくり食べるというスタイルが定番であったステーキ業界に、「立ち食い」「量り売り」というスタイルを持ち込んだ飲食店です。この立ち食いスタイルが受け、今では多くの場所で目にするほど、店舗も急激に増加しています。
 この「いきなり! ステーキ」の運営会社が、2014 年にある特許権を出願しました。それは、ステーキの売り方です。概要は、「立食形式のテーブルにお客を案内する、ステーキの量を聞く、聞いた量に肉をカットする、カットした肉を焼く、焼いた肉をテーブルまで運ぶシステム」、つまり「いきなり! ステーキ」の提供システムそのものについて特許権の出願を行ったのです。
 この特許権は、いわゆるビジネス方法の特許と言われるものですが、一般的に特許権としてイメージされる内容とは少し違うと思いますので、今回は「いきなり! ステーキ」を例にして説明させていただきます。

2 特許権とは

 簡単に説明すると、特許権とは、発明のうち、新しいもの(新規性)、これまでの技術より進んでいるもの(進歩性)の発明者等に付与される権利です。そして特許法では、発明には「自然法則」を利用しなければならないと定めています。数学の公式等人が決めたルールは、人為的なものであるため自然法則に含まれません。
 仮に、風力発電が現在存在していなかったとして、風力発電の方法を閃いた場合、風の力で羽が回り、発電するという自然法則を利用した風力発電は、この「発明」にあたり、また、新しくこれまでの技術より進んでいるものと言えますので、特許権を取得できることになると思われます。

3 ビジネス方法の特許

 「いきなり! ステーキ」に話を戻すと、「いきなり! ステーキ」のステーキの売り方は確かに新しいのですが、結局は人の動き方ではないのかと思われ、発明の要件である、「自然法則」を利用していないのではないかと疑問が残るところでした。
 そこで特許庁も、一度は特許権の登録を認めない(拒絶)と回答したのですが、その後運営会社は、計量器や、他の客と混同しないための印という、「自然法則を利用する物」も一緒に使うシステムという訂正を加え、人の動き方のような人が決めたルールではなく、自然法則を利用しているのだと主張し、特許権の登録を受けることができました。

 このように、一見発明の要件を満たさないように思われるビジネス方法についても、出願の方法を工夫し特許権を取得することができたのです。

4 特許を出願するメリット

 ビジネス方法の特許は金融業界や保険業界も注目し出願も多くなっていますし、有名なラーメンチェーン店の店舗システムも特許権として登録されています。
 特許権を取得すれば、その特許権の内容を自分だけが実行できる、他人に真似された場合にも特許権を行使し他人の行為を取りやめさせることができるという効果があります。
 特にビジネスモデルは真似されやすいため、これを権利化して守ることは重要な戦略と言えます。
 そして、出願中は「特許出願中」、登録されれば「特許登録済み」と銘打って広告することができるという点は、特許権を出願する大きなメリットです。

5 おわりに

 実は、「いきなり!ステーキ」の特許権は、登録後になされた異議申し立てを受けて取り消されました。現在は、会社が知財高裁に訴訟を提起し、その取消決定を争っている状況です(2018 年4 月現在)。
 特許権が取り消されることはビジネス方法の特許だけのリスクではありませんが、権利として登録されやすく出願する、登録された特許権が取り消されにくくするには、弁護士や弁理士と協議し、工夫して進めていくことが必要不可欠です。
 「新しい仕組みを考えたけど、これは特許になるのか?」といったご相談も多くいただいておりますので、気になられる方がおられましたらお気軽にご相談ください。

(2018年8月執筆)

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