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コラム

COLUMN

「ファスト映画」に見る著作権の考え方と海賊版対策について

知的財産

2022.02.28

執筆者:弁護士 堀田明希

【ファスト映画を公表等した者に有罪判決】

報道によれば、2021年11月16日、映画を10分程度にまとめた「ファスト映画」をYouTubeにアップロードし広告収入を得ていたとして、仙台地方裁判所は被告人3人に対し著作権法違反で有罪判決を下した。主犯格の被告人に言い渡された刑は懲役2年、罰金200万円、執行猶予4年であり、他の被告人も懲役及び罰金刑に処されたとのことである。そして、上述の判決言い渡し後も、ファスト映画に関して逮捕されたという報道が散見される。

【ファスト映画の何が問題か】

ファスト映画とは、映画を10分程度にまとめたものであり、一般的に2時間程度ある映画をすべて見なくとも、映画のポイントや伝えたかったところを理解させ、キービジュアルを把握できるように編集された映像である。ファスト映画は、摘発が本格化する2021年6月時点において約2100本分の映画がアップロードされており、視聴再生会数も約4億7000万回[1]に及ぶ。

ここで著作者は、著作者人格権として同一性保持権[2]を有するとともに、翻案権[3]及び著作物を公衆に送信(アップロード[4])等する権利[5]を専有しているため、著作者に無断で著作物の内容を改変したり、これをアップロードしたりする行為は違法行為となりうる。なお、著作権法上一定の場合には他人が著作権を有する著作物を引用することが認められるが、要約について正面から認める規定は存在しない。

ここで、著作権を侵害した場合、10年以下の懲役若しくは/及び1000万円以下の罰金に処される恐れがあり、著作者人格権を侵害した場合には5年以下の懲役若しくは/及び500万円以下の罰金に処される恐れがある[6]

留意しなければならないのは、これはあくまで刑事罰に関する規定ということである。つまり、著作権法違反により有罪となり支払う罰金はあくまで罰金であって、著作権者への損害賠償は別途行わなければならないのである。

そして、これはファスト映画固有の問題ではなく、「ネタバレサイト[7]」や小説の要約サイトなど、著作者に無断で他の著作物を改変等してアップロードする行為も同様に違法行為となる可能性がある。 本コラム作成時点で上述の仙台地方裁判所で言い渡された判決の判決書は不見当であるが、報道によれば被告人らは起訴内容(公訴事実)を認めており、各争点について正面から司法の判断を受けた可能性は低いが、他人の著作物を改変等する行為は基本的に「アウト」であり、極めてリスクの高い行為である


[1] 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構調べ

[2] 「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」(著作権法20条1項)

[3] 「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」(著作権法27条)

[4] 公衆送信化権等の表現としては不正確であるが、理解の便宜上アップロードという文言を用いる。

[5] 「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」(著作権法23条1項)

[6] 著作権法119条1項、2項1号

[7] 「ネタバレ」が問題ではなく、著作物である文章等を改変したり、アップロードしたりする行為が法に触れる可能性があることに留意されたい。

ことは理解していただく必要がある。

【海賊版対策】

あえて述べるまでもなく、デジタル技術の革新により電磁的複製及び頒布が容易に行えるようになったこと、スマートフォンの普及、ECサイト経由での個人輸入の増加等により、海賊版(本コラムでは第三者の権利を侵害したコンテンツや有体物を指す)の作成及びアクセスは以前と比較して極めて容易になっている。文化庁や経済産業省その他各種事業団体が啓発活動を繰り返しているが、海賊版根絶の道のりは残念ながら遠く、世に出てから対策を行うモグラたたき、いたちごっことならざるを得ないところがあるため、現時点で海賊版の流通を確実かつ事前に阻止することは困難である。

しかしながら、権利侵害を発見した場合には断固たる措置をとることをWEBサイトや当該製品に付記する等の方法で明確にすること、実際に海賊版を目にした際には、各ECサイトが準備する知的財産権侵害申告プログラムや水際差止制度の活用、刑事告訴、損害賠償請求等の対抗策を講じつづけることの効果は高い(報道によれば、上述のファスト映画の事案においても、被告人らは著作権侵害申告の実績がない映画会社が著作者となる映画を狙ってファスト映画を制作していた[8]ようである。)。

知的財産権に限るものではないが、どうしても権利主張しない権利者が狙われやすい傾向は否めないため、自己が権利を有する作品や製品を公表、発売等する際は、そして公表等した後は、「モノ言う権利者」であることをきちんと示し続けることが重要である。


[8] 「『ファスト映画』投稿者に初の有罪判決 著作権侵害申告の実績ない映画会社狙い組織的犯行」(谷井将人、ITmedia)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2111/16/news156.html

(2022年2月執筆)

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