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【中国】「上海市就業促進条例」施行

国際ビジネス

2023.03.03

執筆 フォーリンアトーニー 姚 綺

 就業促進するため、2023年2月25日、上海市第十六回人民代表大会常務委員会会議で、「上海市就業促進条例」(以下、「条例」という)を議決した。条例は、2023年3月1日より施行する。これは、2006年3月1日「上海市促進就業若干規定」の施行以来、上海が17年ぶりに就業を促進するための地方性規定を公布した。

 条例は全部で全八十一条があり、就業政策や、創業育成、平等な就業、職業教育、就業援助等たくさんの規定が含まれる。「中華人民共和国立法法」の規定によれば、地方性法規定は裁判所が事案を審理する際の根拠とするから、上海市範囲で、条例はすべての使用者に対して拘束力がある。

 そのうち、外資企業にとって、かかわりやすい条文を挙げて、説明する。例えば、

第三十一条
 「法律、行政法規に別途定めがある場合を除き、使用者及び人力資源サービス機関が採用する際に、若しくは人力資源サービスを提供するにあたって、労働者の診断歴、医学検査報告、犯罪記録等の情報を検索することができず、また、労働者に対して、労働契約履行に関係のない情報の提供を求めてはならない。
 衛生健康、公安等部門及び市のビッグデータセンターは法に従い前項に定められる情報の検索、公開を厳格に規制する。」

この規定は、「中華人民共和国個人情報保護法」等の規定に対応して定めるものだと思われる。採用の際に、労働者に関する個人情報を厳格に保護する規定である。条文は、「採用する際に」(招用人员)と定めているので、採用後、実際労働契約履行期間はこの規定の規制範囲外と解することができる。要するに、労働契約履行中なら、労働者に対して、病欠を裏付けるものとして、診断歴の提出を求めることはまだ可能である。


 また、犯罪記録について、この規定によれば、労働者本人の同意がない限り、使用者側はそれを照会することができない。なお、「中華人民共和国刑法」第百条1項は、「法に基づき、刑事処罰を受けた者は、軍隊に入隊する際に、就職する際に、事実通りかかる組織(部隊、会社)に対して自分が刑事処罰を受けたことを報告する必要があり、隠匿してはならない。」と定めるから、労働者は自ら報告する義務があり、会社はそれに関する資料の提出を求めることができると解される。

第四十一条 
「本市は就業に関する保険加入登録の一体化改革を深化する。
 使用者(法人及び個人)は法に従い、事実通り就業に関する保険の登録手続きを行い、架空な雇用情報でかかる手続きを行ってはならない。」

この規定に反する場合、罰金等の罰則がある。

つまり、雇用関係が存在する以上、使用者名義で労働者のための社会保険等の登録手続きを行わなければならない。現在、外資の一部は、第三者機関に従業員の社会保険の納付等を依頼しているが、この条例によれば、第三者機関に手続き処理を依頼しても、登録名義者はなお使用者である外資企業である必要がある。

 就業促進するための条例だが、企業に対して一定の要望を定めているから、一読して、それに応じて、企業の人事制度を見直すことをお勧めする。

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