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コラム

COLUMN

「下請法」について

一般企業法務等

2021.08.23

執筆:弁護士 早崎裕子

 企業の公正かつ自由な競争を促進するための法律としては、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法理」(通称「独禁法」)が存在します。独禁法は、「不公正な取引方法」として、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商習慣に照らして、不当に一定の行為をすることを禁じており(同法2 条9 項5 号)、この優越的地位の濫用行為については、課徴金の納付命令などの法的措置が講じられるほか(同法20 条の6)、警告(公表)、注意(原則非公表)などの行政指導がされるため、違反企業に対する大きな制裁効果があります。

 しかしながら、独禁法が禁止する「優越的地位の濫用」については、公正取引委員会が定めるガイドラインのほかには法令上の明確な基準がないため、慎重な判断がされ、手続の迅速性に欠けるというデメリットが存在します。このような中、「下請代金支払遅延等防止法」(通称「下請法」)は、下請取引の公正化・下請事業者の利益保護を目的として、「優越的地位の濫用」について、形式的な法規制を行い、簡易迅速な処理をするために制定された法律であり、独禁法の簡易手続法として独禁法を補完する機能を有しています。

 上記で述べた下請法の趣旨から、同法の適用については、①資本金要件(親事業者・下請事業者)と②取引内容要件(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)が形式的に判断されることになります。

 ①の資本金要件は、②の取引内容要件によって異なりますが、問題となることが多い製造委託及び役務提供委託についていえば、㋐資本金が3 億円超の法人事業者が親会社(発注者)となる場合は、資本金3 億円以下の法人事業者(又は個人事業者)が下請事業者となり、㋑資本金1000 万円超3 億円以下の法人事業者が親事業者となる場合は、資本金1000 万円以下の法人事業者又は個人事業者)が下請事業者となります(資本金が1000 万円以下の法人事業者については、いずれの取引においても下請法の適用がありません。)。

 ②の取引内容要件は、上記の4 類型が定められています。なお、「建設工事」そのものに係る下請取引には建設業法が適用されため下請法の適用はありませんが、建設工事といっても、例えば、建設業者が販売する「建設資材」の製造を他の事業者に委託することは製造委託に該当し、施主等に提供する「設計図」の作成を他の事業者に委託することは情報成果物作成委託に該当するため、いずれも下請法の対象となります。

 下請法の親事業者に該当する場合、親事業者には、下請代金の支払期日(2 条の2)、注文書の作成(3 条)、遅延利息(4 条の2)書類の作成・保存(5 条)の4 つの義務が課され、同法4 条が定める11 の行為が禁止されます。そして、この禁止行為のうち、下請法の制定当初から規定されている受領拒否(1 号)、下請代金の支払遅延(2 号)、下請代金の減額(3 号)、返品(4 号)については摘発件数も多く、公表対象となる勧告もされやすい傾向にあります。なお、規制当局の行う「勧告」は行政処分ではないため、必ずしも従う必要はないのですが、法的に取消しを求めることができないため、公表された場合の企業のダメージは極めて大きいといえます。

 下請法違反は、例年6 月に規制当局により実施されるアンケート調査により発覚するというのが特徴で、平成27 年度は九州地区において親事業者2,351 名及び下請事業者10,500 名に対して書面調査が実施され、344 件の指導(非公表)がされています。

 このように、下請法は、企業にとって、極めて身近で大きな社会的影響力を与える法律であり、親事業者及び下請事業者それぞれの立場でうまくつきあうことが必要とされますが、その解釈適用には専門的な知識を要しますので、企業間の取引でお困りの際には、ぜひ弁護士にご相談ください。

(2017年1月執筆)

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