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コラム

COLUMN

【解説】スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針 ~非スタートアップ側企業の視点~

スタートアップ

2022.12.22

執筆者:弁護士 松浦駿

1.指針の策定

 令和4年4月1日、公正取引委員会と経済産業省が共同してスタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(以下、「本指針」といいます。)を策定しました。

 本件指針の策定により、スタートアップと提携し、又はスタートアップに出資する企業は、これまで以上に契約に規定する条項が独占禁止法等の法令に違反しないかについて検討する必要性が高まりました。

 本稿では、本件指針の概要を解説するとともに、スタートアップと提携する企業側が契約締結前に検討しなければならない事項について説明します。

2.本指針の目的・内容

 本指針は、一方的にスタートアップと提携する大企業側に有利な契約が締結されていた実情に鑑み、長期的な成長・相互協力関係を築く観点から、一定の類型の契約等について、独占禁止法違反となることを示唆しています。

 同法は行政法規ですので、同法違反を理由として直ちに契約が無効となるわけではありませんが、同法違反が露見した場合には法的・社会的制裁を受けるおそれがあり、また、公序良俗違反等民法の解釈を通じて契約・規定が無効となるおそれもあることから、企業側は単に自社の利益を確保するために有利な規定を設けるだけでは足りず、今後は、自らが得たいと考える利益と、同利益を実現する手段である契約について、より精密な検討を行う必要が生じました。

 特に、本指針においては、NDA、PoC契約、共同研究契約、及びライセンス契約の4つの契約類型及び出資に関する契約について、独占禁止法違反となる典型例が例示列挙されていますので、少なくとも各契約における典型的な類型については該当しないよう留意した上で、自社の利益を実現するための方策を検討しなければなりません。ここで注意いただかなければならないのは、本指針における違反類型はあくまで例示ですので、同類型に該当しなくとも、独占禁止法違反となるおそれはあるということです。

 本指針自体は読みやすい内容ですし、それほど大部のものでもないため、ご担当者の方におかれましては一度お目通し頂きたく存じます。

3.非スタートアップ側企業の対応

 従前、企業間契約においては、私的自治の原則が広く認められており、法的リテラシーの差異による契約の不平等は自己責任となっていました。しかし、本指針により、スタートアップとの契約においては、独占禁止法違反となり、また、私的自治が制限され、契約が無効となるおそれが高まったといえます。

 このような状況においても、企業側の皆様におかれましては、自社の利益を実現するための契約条項を設けることは必須であり、単に本指針に掲載されているような契約書のひな形を利用するだけでは自社の目的を達成できない可能性がございます。

 そこで、スタートアップとの提携可能性、又はスタートアップへの出資可能性がある企業の皆様におかれましては、本指針の内容を踏まえ、少なくとも下記ご対応をお取りいただくべきかと存じます。

【事前準備】

  • 役員、担当者による本指針の読解
  • 社内セミナー、資料配布による知識の社内共有

【契約検討時】

  • 契約締結目的の精密な分析

 → 上記目的を達成する手段の多元的検討
 → 上記手段のうち、本指針抵触リスクの分析
 → 手段毎の目的達成可能性及び本指針抵触リスクの大小検討
 → どの手段を講じるか決定
 → 決定した手段を契約書に規定

4.結語

 上記のとおり、非スタートアップ企業の皆様におかれましては、従前は問題視されなかった事項について、今後は独占禁止法違反となり、また契約が無効となる可能性が生じていますので、少なくとも本指針を無視することは出来ません。

 もっとも、本指針の目的は単にスタートアップを保護しようというものではなく、実際に行われてしまっているスタートアップからの搾取を制限し、中長期的な協力関係を築くことで、スタートアップ側、非スタートアップ側の企業それぞれが持続的な成長・発展を遂げることにあり、この目的自体は理想的なものです。

 非スタートアップ側の皆様におかれましても、これまで以上に詳細な検討を行う必要性が生じますが、かかる検討を通して、自社により大きな利益をもたらす取引可能性がないかをご検討いただければ幸いです。

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