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コラム

COLUMN

ケーススタディ 家族信託 ~事業承継の場面での利用~

事業承継・相続・家族信託

2022.03.18

執筆者:弁護士 鶴利絵

【跡取り長男Aさんのご相談】

 私の父は、高齢にもかかわらず、元気いっぱいで、現役の不動産会社の代表取締役をしています。父は、長男である私に会社を継がせたいと考えているようですが、自分の目の黒いうちは会社の経営に携わりたいと言っています。しかし、父の年齢を考えると、私としては、先々は、父の認知症等の病気が心配です。父が、認知症等の病気になってしまったら、会社の代表者として法的に必要な手続を行えなくなってしまうからです。
 私としては、父の意向を叶えつつ、会社の経営に支障がない形で引き継げたらと考えていますが、どうしたらよいでしょうか?

【ご提案】

 お父様のご意向を踏まえつつ、Aさんの心配するように会社の経営に支障がない形にするために、家族信託を利用しての事業承継が考えられます。

 具体的には、100%株主であるお父様を委託者兼受益者とし、Aさんを受託者として、株式を信託財産とします。そうすると、株式の議決権は受託者であるAさんに移転しますので、会社の経営に必要な判断は、Aさんが行うことができるようになります。そこで、万が一、お父様が認知症等の病気で経営判断に支障が出てくる場合は、Aさんが議決権を行使して、代表取締役になることができます。

 他方で、お父様には、ご自身がご健在である間は会社の経営に携わりたいというご意向があります。そこで、お父様がご健在である間は、議決権行使や株式の売買等の処分行為について、お父様が指図権(受託者に信託財産の管理や処分方法などを指図することができる権利)を有することを、信託契約の内容に含めます。

 このようにすることで、お父様がお元気なうちは、実質的な経営者であり続けることが可能となり、お父様に万が一のことが起きた場合には、受託者であるAさんの判断で、会社の経営を引き継ぐことが可能となります。

 なお、家族信託の利用は、遺言や後見制度を併用することで、財産を遺される方の権利を最後まで守りつつ、他の相続人との相続争いを防ぐことも可能です。

 事業承継や相続には様々な対策がありますので、比較検討して、よりよい方法を選択されることをお勧めします。

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