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コラム

COLUMN

デザインによるブランディング

知的財産

2022.02.03

執筆者:弁護士・弁理士 原慎一郎

1 知的財産を用いたブランディング戦略として最初に検討されるのは、商品等のネーミングである「商標」ですが、製品のデザインである「意匠」に着目したブランディング戦略もあります。
 令和元年に、保護対象の拡充や存続期間の延長等を目的として意匠法の改正が行われました。その中でも「関連意匠制度の拡充」は、企業のブランディング戦略に大きな影響を与えるものとなっています。
 そこで、今回は新しい関連意匠制度の概要についてご紹介したいと思います。

2 デザイン開発においては、ひとつのデザイン・コンセプトから派生する多くのバリエーションの意匠が同時期に創作されることがあります。関連意匠制度は、このようなバリエーションの意匠群をすべて同等に保護し、それぞれの意匠に基づいて権利行使できることを目的として、平成10 年の意匠法改正において導入されました。
 もっとも、関連意匠として意匠登録を受けるためには、①本意匠(バリエーションの意匠群から選択した基本となる一つの意匠)と類似する意匠であること、②本意匠の意匠公報発行日の前日までに登録出願することなどの要件が加重されていました。さらに本意匠の意匠公報は出願から8 か月ほどで発行され、また本意匠に類似しない意匠
は関連意匠として登録できませんでした。
 そのため、自動車、タブレット端末、GUI デザインなど、デザイン・コンセプトの基本は維持しながら毎年のようにモデルチェンジを繰り返す製品については、市場の動向に応じて進化するデザインを長期的に保護することができないという指摘がなされていました。

(出典:特許庁第16回意匠審査基準WG資料4)

 このような事情を踏まえて、今回の意匠法改正では、これらの登録要件が次のように改正されました。

(1)関連意匠のみに類似する意匠も登録できるようになったこと

 従来の関連意匠制度では、本意匠に類似せず他の関連意匠のみに類似する意匠は、保護の無限連鎖を生じ得ることから、登録はできないとされていました。しかし、現場においては市場動向を見ながら基本デザインに少しずつ改良を加えていくというブランディング戦略が増えてきました。これを受けた今回の改正により、本意匠に類似しなくとも他の関連意匠に類似していれば意匠登録が可能となりました。
 つまり、基本となる本意匠の類似範囲を超えても、関連意匠として連鎖的に類似していれば、一群のバリエーションの関連意匠として、すべて意匠登録を受けられるようになっ
たのです。これは従来の意匠制度の枠組みからすると、かなり大胆な変化となります。

(出典:特許庁第16回意匠審査基準WG資料5)

(2)関連意匠として出願できる時期

 また、従来の関連意匠制度においては、関連意匠として出願できる期限は、本意匠の意匠公報発行日の前日までとされていましたが、改正によって本意匠の出願日から10年を経過する日の前日までとなり、大きく期間延長されることとなりました。
 これによって、毎年のようにモデルチェンジを繰り返すバリエーションのデザインを、相当長期にわたって広く保護することができるようになりました。

(出典:特許庁第16回意匠審査基準WG資料5)

3 以上のように、今回の意匠法改正における関連意匠制度の拡充は、かなり大胆な内容であり、製品デザインに基づく企業の長期的なブランディング戦略を手厚く保護しようとする明確な姿勢がみてとれるものとなっています。

(2021年7月執筆)

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