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コラム

COLUMN

パワーハラスメントへの対応策

コンプライアンス・内部統制

2021.07.15

執筆:弁護士 柏田剛介

1 2019 年5 月29 日、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)を防ぐため、企業に防止策を義務づける改正労働施策総合推進法が成立しました。義務化の時期は早ければ大企業が2020年4 月、中小企業が2022年4 月の見込みです。改正法は、防止策を企業に義務づけ、従わない企業には、厚労省が企業名を公表する場合もあります。
 全国の労働局・労働基準監督署へのパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の相談は、労働分野の各種相談の中でも6 年連続で最多であり、労働問題の中でもパワハラの問題は非常に重要なテーマです。
 本稿では、企業経営者様向けに、会社がとるべきパワハラ防止策やパワハラ発生時の対応の注意点等を解説させていただきます。


2 職場のパワハラについては、まず、会社としてパワハラを絶対に容認しないという強い姿勢を従業員に対して示すことが不可欠です。万一職場内でパワハラが起こっていた場合に、被害者である従業員が会社に相談し、問題を解決するために、会社が被害者の味方であるというメッセージを当該従業員へ届ける必要があります。また、そうした会社からのメッセージは、加害者によるパワハラを抑止する効果を生みます。
 具体的には、「パワーハラスメント防止指針」を策定し、会社はパワーハラスメントを許さないこと、万一発見された場合は、会社は、加害者に対して、懲戒処分等を含む厳正な対処を行うこと、相談窓口を設け、相談を受け付けることなどを定め、これを社内に周知します。また、パワーハラスメント防止規定を策定し、周知するという方法も有益です。


3 また、社内で発生するパワハラを早期に発見し、これを適切に解決する社内体制の整備も重要です。上述した相談窓口の設置は、パワハラの早期発見に有効です。当事務所が企業様向けに提供させていただいている、外部通報窓口においても、パワハラは、最も多い通報内容の一つです。


4 また、パワハラの申し出があった場合、事実調査を実施する必要があります。会社は、パワハラ問題の対応責任者を予め決めておき、責任者の指揮のもと、プライバシーに厳に配慮しつつ、ヒアリングを中心とする調査を実施します。ヒアリングは、可能であれば特定の2 名で実施し、通常は相談者(被害者)→第三者→加害者の順に実施します。但し、プライバシーの問題があるので、第三者への聞き取りを実施するかどうかは、相談者の意向も踏まえつつ慎重に判断する必要があります。
 相談者からのヒアリングの際には抽象的な訴えを聞くだけで終わることがないよう、いつ、どこで、だれが何をしたのか、時系列に沿って具体的に聞いていきます。また、被害者の説明を裏付ける証拠の有無についても確認します。

 加害者とされる従業員からのヒアリングは、事前の予告なくヒアリング日にいきなり呼び出して実施するなど、真実を聞き出すための工夫が必要です。他方、加害者とされていても、話を聞いてみた結果、相談者からの申し出が事実に反する場合もあり得ます。そのような場合、加害者とされた従業員は会社への不信感を持つ可能性があります。調査者は、特にヒアリングの初期段階では、中立的な立場で調査を実施していることを説明するなどの配慮が必要です。
 ヒアリング調査の結果、パワハラの事実を確認できれば、懲戒処分等を実施します。パワハラの事実を確認できない場合でも、職場環境改善のため、配置転換を実施することもあり得ます。
 なお、パワハラの申し出の中には、適正な業務の範囲内の指導をパワハラと訴えたり、従業員同士のトラブルをパワハラとして申し出るケースが含まれていることも多くあります。調査者はその点にも注意が必要です。


5 パワハラを生まない職場環境を実現するには、会社としてのしっかりした取り組みが不可欠です。当事務所でも、企業様の取り組みをサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。

(2019年8月執筆)

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