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コラム

COLUMN

ホワイトカラー犯罪と刑事手続

コンプライアンス・内部統制

2021.07.01

執筆:弁護士 松浦駿

1. ホワイトカラー犯罪

 ホワイトカラー犯罪とは、企業の経営者や管理職等の事務労働に従事する人々が行う犯罪をいい、横領罪や詐欺罪という聞き慣れた(?)犯罪のほか、独占禁止法違反や少し前に世を騒がせた、有価証券虚偽記載罪等が含まれるものと解されています。そして、ホワイトカラー犯罪の一つの特徴として、組織的犯行がなされ、事件の発見及び証拠の収集が困難であるということが挙げられます。このような特徴を有するホワイトカラー犯罪の追及等を目的として、昨年の6月より、協議・合意制度、いわゆる日本版司法取引制度の運用が開始されています。以下では、同制度の内容を概説した後、同制度の運用開始を踏まえた企業対応について説明いたします。

2. 協議・合意制度の概要

協議・合意制度とは、一定の類型の犯罪(特定犯罪)の被疑者等が、他人の特定犯罪について、一定の捜査協力を行うのと引き換えに、検察官との間で自らの犯罪につき有利な取扱いをする内容の協議を行い、両者でその合意をする制度をいいます。

検察庁は、同制度の運用に関し、有利な取扱いをする旨の合意をするか否かにつき、協議の際になされた捜査協力の重要性・信用性を吟味するという立場を採っていますので、捜査に協力をしたとしても、不利な証拠を提供するだけになってしまうリスクが存在します(法律上、協議の際にした供述は証拠となりませんが、供述に基づいて得られた証拠は証拠として用いられることがあります。)。

したがって、企業内部で行われた犯罪につき、企業が同制度を利用して刑事責任を免れるためには、弁護士のアドバイスを受けつつ、適時・適切に検察官と協議を行う必要がございます。また、同制度の運用が開始されたことによって、役職員や従業員に告発(虚偽の告発を含みます。)をするインセンティブが働きますので、皆様には、以下に述べるとおり、再度コンプライアンス体制の構築・運用を徹底していただく必要がございます。

  • 企業対応
  • 情報の記録・保存の徹底

検察庁の立場を前提とすると、協議・合意制度を利用して刑事処分上の利益を得るには、重要性・信用性が認められる捜査協力をしなければならないため、客観的な証拠が必要不可欠となります。そのため、平時より、意思決定過程の記録化、メール監査等の方法により、役職員や従業員のやりとりを記録・保存することを徹底しなければなりません。また、やり取りを記録化することは、役職員等の虚偽の告発から企業を守ることにもつながります。企業を守ることは、その従業員や株主を守る大前提となるものですので、従業員を信用していないと思われるのではないかなどと心配することなく徹底して行うことが重要です。

  • 内部通報制度の拡充

外部に犯罪行為が露見した後では、対応が後手にまわらざるを得ず、企業に甚大な被害を及ぼすことになります。この点、内部通報制度を整備することは、企業において犯罪行為が行われることを防止するとともに、外部通報がなされる以前に、犯罪行為を認知することを可能にします。そして、早期に犯罪行為を認知できれば、協議・同意制度の利用を視野にいれた幅広い選択を可能とすることにつながります。したがって、犯罪行為の防止・犯罪認知時の選択肢の確保のため、通報者への処分免除制度を含めた実効性ある内部通報制度等を導入することも重要です。

  • おわりに

犯罪など関係ないと考えておられる方も多いかと思いますが、協議・合意制度の運用開始により、刑事事件への対応が必要となることも増えてくると予想されます。刑事事件に適切に対応するためには、平時からの備えが極めて重要となりますので、少しでも興味をお持ちになられた場合には一度ご相談いただけますと幸いです。

(2019年7月)

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