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コラム

COLUMN

不貞相手への離婚慰謝料請求

一般企業法務等

2021.08.04

執筆:弁護士 小栁 美佳

1.はじめに

 今回は、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者(不貞相手)に対して、原則として、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないとした平成31年2月19日付最高裁判決(以下「本判決」いいます。)をご紹介します。

 まず、不貞による慰謝料請求については、判例は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、・・・他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある。」(最高裁第二小法廷昭和54年3月30日判決・昭和51年(オ)第328号事件)と述べています。この不貞慰謝料請求の法的根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求ですので、不貞行為を知ってから3年の消滅時効にかかります。

2.本判決について

(1)本判決の事案の時系列を抜粋します。

・平成6年3月にXとAは婚姻し、その後子をもうけた。

・平成20年12月にAがYの勤務先会社に入社した以降、XとAは性交渉がない。

・平成21年6月以降、YとAの不貞行為開始。

・平成22年5月頃、Xは、YとAとの不貞行為を知った。その頃AとYは不貞関係を解消し、AとXは同居継続。

・平成26年4月頃、AはXと別居開始。

・平成27年2月、XとAの離婚成立。

・その後、XがYに対し、慰謝料請求訴訟を提起。

 このように、Xは、YとAの不貞行為を知ってから3年経過後、かつ、Aとの離婚が成立した後に、Yに対する慰謝料請求訴訟を提起しました。

(2)Xからの請求に対し、Yは、

 ① YとAの不貞行為だけがXとAの離婚原因ではない。

 ② Xが不貞行為を知った平成22年5月から消滅時効が進行し、訴訟提起時には3年が経過している。

等の主張をしました。

(3)これに対し、Xは、

 ① YとAの不貞が夫婦関係悪化及び離婚の原因になった。

 ② 慰謝料請求は、離婚を余儀なくされた精神的苦痛をもその対象とするから、消滅時効の起算点は、離婚が成立した平成27年2月である。

等の反論をしました。

(4)一審、控訴審はXの主張を認め、慰謝料請求が認容されました。

(5)しかし、Yが上告し、上告審(最高裁)は、Xの請求を退けました。その理由を抜粋します。

 ①「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は・・・一様ではないが、・・・離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破たんして離婚するに至ったとしても、・・・不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない。」

 ②「第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉があるなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる。」

 以上の①②から、「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」との基準を示したうえで、本件の個別事情を検討し、

 ③「Yは、・・・Aと不貞行為に及んだものであるが、これが発覚した頃にはAとの不貞関係は解消されており、離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって、Xは、Yに対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができない。」

3.本判決の影響

 これまでは、夫婦の一方からの他方の不貞相手に対する慰謝料額は、当該夫婦が離婚に至っていれば、離婚に至っていない場合に比べて高くなる傾向がありました。

 しかし、本判決では、「特段の事情がなければ当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない」との判断が示されています。

 本判決の射程が、不貞行為を知ってから3年以内かつ離婚成立後の慰謝料請求の場合にも及ぶのか、仮に及ぶとしてもそのような結論が妥当なのかは気になるところですので、これからも裁判例の行方を追っていきたいと思います。                                 

                                   (2019年7月 弁護士 小栁美佳)

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  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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