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コラム

COLUMN

中国会社法改正草案(パブリックコメント版)について

国際ビジネス

2022.09.08

執筆者:弁護士 森 進吾

 近時、中国会社法の改正草案にかかるパブリックコメント募集手続が行われました。中国会社法は、1993 年の制定後、複数回の改正を経ていますが、今回の改正は、2005 年以来2 度目の大きな改正といわれています。本稿執筆時点で改正内容は確定していませんが、改正の方向性は見て取れるため、以下では、日系中国企業への影響が特に大きいと思われる、①会社組織設計の柔軟化、②従業員300名以上の会社における従業員代表董事の設置義務、③経営者及び支配株主の責任強化の3つのトピックについて、改正草案の概要をご紹介します。

①会社組織設計の柔軟化

 現行会社法は、株主会を最高の意思決定機関としたうえで、株主会の決定に沿って董事会が具体的な意思決定を行い、董事会が任命した総経理等が業務執行を担う仕組みを採用しています。これに対し、改正草案では、董事会が、株主会の職権以外の全ての職権を有すると定めています。この改正について、日本の取締役会設置会社のように、株主会の権限を限定化させて、董事会主導の会社運営を促すものであると評価する見解もあります。いずれにせよ、会社組織間の権限配分の自由度が上がることになると予想されており、現行会社法に比べて定款の定め方がより重要になります。

 また、改正草案は、董事会の中に監査委員会を設置する会社類型を新たに認めています。監査委員会設置会社の場合、従来の監事又は監事会(日本の監査役又は監査役会に相当)の設置は不要です。監査委員会は、監事と異なり董事会での議決権を有することから、より実効的なガバナンスが期待できます。

 ただし、このように柔軟な会社組織の設計が可能になる反面、定款記載の情報を企業情報公示システムで公開する義務が新たに設けられる見込みです。

② 従業員300名以上の会社における従業員代表としての董事の設置義務

現行会社法では、董事のうちの1 名を従業員代表から選任する義務は国有独資会社(中国政府系100%の
会社)のみに課されています。これに対し、改正草案では、従業員が300 名以上の会社にも、従業員代表董事の設置義務が課されています。日系中国企業でも、特に製造業では従業員が300 名を超える企業は一定数存在すると思われるところ、この場合、日本親会社の役員等のみで董事会を構成することができなくなります。そのため、従業員が300 名以上の日系中国企業では、改正法の動向を注視する必要があります。

③経営者及び支配株主の責任強化

現行会社法の特徴の一つに、出資額の払込がないまま会社設立が可能であるという点があります。この点に関し、改正草案では、株主が期限に従い払い込みしない場合、会社の請求によって払込未了の株
式を喪失させることができる制度が新たに創設されています。また、出資額の払込期限が未到来でも、
会社財産をもって取引債務等を弁済できない場合には、債権者等の要求に応じて払込期限前に払込義務
が生じ得ることが明確化されています。そのほか、支配株主が董事等をして会社財産に損害を与えた場
合、支配株主は、当該董事等と連帯して会社又は他の株主に対して賠償責任を負う旨の規定が新設され
ています。このように、経営者及び支配株主の責任が強化される見込みです。

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