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中村屋の書類送検ケースに見る外国人労働者を雇用する場合の落とし穴 ~不法就労助長罪と資格外活動~

人事労務

2022.03.04

執筆者:弁護士・弁理士 田中雅敏

2021年12月に、カレーや和菓子の老舗として有名な中村屋とその従業員が、出入国管理及び難民認定法違反(不法就労助長)の容疑で警視庁に書類送検されました。人材会社から派遣されたネパール国籍の6名を、通常はエンジニアや通訳等の専門技術や知識を持つ業務を対象とした「技術・人文知識・国際業務」(以下、「技人国」といいます。)という在留資格であることを知りながら、資格外活動である和菓子の製造などをさせたというものです。

1.在留資格の種類と就労(活動)制限


在留資格には、日本国内で仕事をすることが認められるかどうかによって、以下の三つに大別されます。
 ① 職業や業務内容によって就労が認められる在留資格
   (例)「教授」「医療」「報道」「教育」「技人国」など
 ② 身分や地位に基づくものであるため活動に制限のない在留資格
   (例)「永住者」「日本人の配偶者等」など
 ③ 就労が認められない在留資格
   (例)「短期滞在」「留学」「家族滞在」など

身分・地位に基づく在留資格は活動の制限がないため、就労の種類にも制限がありませんが、職業や業務内容によって認められる在留資格は、その在留資格に属する活動をすることを前提に在留資格が許可されているため、これと異なる活動に従事した場合には、許可なく資格外活動をしたとして出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」といいます。)の違反となります。

国はこれまで、専門的・技術的分野の外国人労働者の受け入れを積極的に推進しており、単純労働などに関わる外国人の受け入れには消極的でしたが、近年、一定の産業分野での人手不足の深刻化に伴い、2019年4月には建設業、製造業や外食業など、人手不足が深刻化する業界を対象に、「特定技能」という在留資格を創設するなど、新たな人材確保の取り組みも開始されています。

2.資格外活動(留学生等の就労時間制限違反)

入管法違反としてよく問題となる「資格外活動」の違反には、次の種類があります。


(1) 就労が認められる在留資格をもって滞在している外国人が、現に有する在留資格で認められた活動とは異なる仕事に従事した場合(入管法第19条1項1号違反)
(2) 就労が認められない在留資格をもって滞在している外国人が就労をした場合(入管法第19条1項2号違反)
(3) 現に有している在留資格で認められる活動の遂行を阻害しない範囲内で特別に許可を得て就労していたが、その範囲を超えて就労した場合(同法第19条2項違反)

このうち(3)については、よく留学生が認められた時間を超えてアルバイトなどをしていたとして摘発され、報道等もされていますので、ご存じの方も多いかと思います。
留学生や家族滞在者がアルバイトをする場合に資格外活動の許可を受けて就労するときは、原則として1週間に28時間以内の就労が認められます。したがって、この決められた制限時間を超えて仕事をすると、上記に違反する違法行為となります。週28時間というと、週7日働くと1日約4時間の計算になりますが、これを超えると現に有する在留資格の遂行が妨げられることになり、日本に滞在する目的が違うのではないか、という疑いが生じるため、もともと許可を受けていた留学や家族滞在の在留資格の更新の際に不許可となるパターンが多く見受けられます。
実際に当事務所にも、このような理由で在留資格の更新が不許可になった、ということでご相談に来られる方が多くいらっしゃいます。

3.実際の資格外活動の事例と処分(刑事罰を含む)

(1)現に有する在留資格で認められた活動とは異なる仕事に従事した場合(上記2(1))の摘発例をいくつかご説明しましょう。

① 2019年8月に、ダンサーや俳優などに許可される「興行」の在留資格で入国したフィリピン人の女性たちをホステスとして働かせていた日本人の飲食店経営者が入管法違反(不法就労助長罪)で逮捕され、ホステスとして働いていたフィリピン人の女性3名が入管法違反(資格外活動)で逮捕されています。
このような事件は、頻繁に発生しており、しばしば報道等もされていますので、ご存じの方も多いかと思います。

② 「技能実習」の在留資格で来日していたベトナム人が、資格外活動の許可を受けずに県外の派遣会社から派遣された会社で働いていたケース(2019年10月)や、「家族滞在」の在留資格しかないにもかかわらず、建設会社で働いていたケース(2021年6月)があります。

(2)次に、就労が認められない在留資格をもって滞在している外国人が就労をした場合(上記2(2))の摘発例としては、以下のようなものがあります。

①「短期滞在」の在留資格で入国した中国人、タイ人の女性を売春婦として働かせていた疑いで風俗店経営者と店長が逮捕された事件(2020年11月)など、観光目的で入国した外国に対し、その在留資格のままで、何らかの仕事をさせるケースなどが見られます。

(3)最後に、許可された範囲を超えて就労した場合(上記2(3))の例としては、以下のようなものがあります。

① 2017年には大手串カツ店(串カツ「だるま」)が人手不足を理由に、ベトナム、ネパール、ミャンマーからの留学生を法定の週28時間を大幅に超えて働かせるなどして留学生らが逮捕、書類送検され、運営会社と担当者が罰金刑を受けています。

② 2016年に日本語学校が留学生に対して複数の職場での就労をあっせんし、就労させた事件では、各職場の労働は28時間以内だったものの、複数の職場で就労していたため法定の労働時間を超えていたというものでした。経営者らはそれを知りながら口止めをさせて就労をさせていたという悪質なケースです。

4.「中村屋」のケース ~在留資格「技人国」~

今回、中村屋の書類送検のケースで問題となった「技人国」の在留資格について、もう少し説明しましょう。
技人国の在留資格は専門的、技術的分野の技術若しくは知識を要する業務に従事する活動に対して与えられます。これらの分野には理学・工学その他の自然科学分野、法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野があり、また外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする業務も含まれます。例として、機械工学や電子工学などのエンジニア、プログラマー、設計士、経営コンサルタント、デザイナー、通訳、語学教師などがあります。
これらの業務に該当する場合であっても、申請者の有する専攻科目と関連性がない場合や、専門技術を使った業務が、従事する業務の一部にすぎない場合などには許可されません。
許可申請にあたっては、上場企業などの場合は提出書類が少なくて済むこともありますが、一般的には、雇用契約書等の労働条件を示す書面や、大学の卒業証明書等、従事する活動と関連する技術や知識を持つことを証明する書類の提出が求められます。

このような「技人国」の在留資格で滞在する外国人に、許可を得ずに資格外の活動をさせて摘発された例として記憶に新しいのが、2020年に摘発された、中華料理店(「梅蘭」)の事件です。「技人国」の在留資格では認められていない、飲食店での配膳業務などを、大学や専門学校を卒業して入社した中国人7名に行わせていたというものです。「日本人を採用したくても集まらなかった」というのが、社長らが不正を行った理由でした。

近年では外国人を派遣する会社も増えていますが、2020年には、「技能実習」等の在留資格で入国したベトナム人の男女らを水産加工会社に派遣して働かせていた人材派遣会社社員5人が不法就労助長で、これをあっせんしていたベトナム人が不法残留、不法就労あっせんで、作業員として働いていたベトナム人が不法残留で逮捕されています。

今回の中村屋のケースでは、人材会社から派遣されたネパール人の派遣先が摘発されています。入管法では、不法就労者活動をさせた者だけでなく、不法就労活動をさせるために外国人を自己の支配下に置いた者、そして業として外国人に不法就労活動をさせる行為やこれらをあっせんした者に3年以下の懲役若しくは禁固若しくは200万円以下の罰金に処するという規定が置かれています(73条の2)。
不法就労とは、不法入国や不法残留の外国人が就労することだけでなく、許可された在留資格に属しない活動すること、又はその範囲を超えて働くことも意味しますが、不法就労者を雇用した者だけでなく、不法就労者に宿舎などを提供した者や、不法就労をあっせん、仲介をしたブローカー、ひいては不法就労を認識していながら放置した者も罰せられることになります。

派遣元か派遣先かを問わず、外国人労働者に関わる者は、彼らが正しい在留資格で就労しているかを常に確認しておくことが求められます。
特に、派遣先企業としては、あえてそのあたりのリスクに目をつぶり、「派遣元会社を信頼」したとして、派遣労働者の在留資格等を確認しないまま就労させることがありますが、「派遣元を信頼した」という理由で責任を免れられるものではないことに、注意が必要です。
今回の中村屋のケースでも、採用担当社員は調べに対し「違法と分かっていた。人手不足解消のためだった」と供述していると報道されています。確かに、国内でも人手不足が深刻な業種においては、「背に腹は代えられない」という姿勢で、安易に、技人国の在留資格を有する外国人を「通訳」などと称して雇い入れたり、派遣を受けたりして、実体は「通訳」以外の業務に従事させるといったことが頻繁に行われて来たのが実情です。
しかし、今回のケースでは、派遣元企業だけではなく、派遣先企業も摘発対象とすることが明確に示されたと言えます。
今後、外国人労働者の派遣を受ける場合は、このような在留資格の確認を派遣元企業に任せきりにするのではなく、自社でもしっかりと確認することが重要と言えるでしょう。
 

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