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コラム

COLUMN

仮想通貨に関する法律が施行

一般企業法務等

2021.07.04

執筆:弁護士 池辺健太

1 はじめに(仮想通貨の信用と法律)

 ビットコイン等の仮想通貨について、法の網をかける法律が施行されました。
 資金決済法という、これまでの資金決済手段等のあり方について定めていた法律に、仮想通貨について規定する部分が加えられることとなったのです(その他、マネー・ロンダリング対策等を目的とする犯罪による収益の移転の防止に関する法律等も同時に改正されています。)。
 仮想通貨は近年急速に普及し、注目を集める一方で、トラブルも増加しています。
 平成26 年春、ビットコインの取引所を運営していたマウント・ゴックス社が破産した事件は、まだ記憶に新しいかと思います。平成29 年に入って以降も、国民生活センターが仮想通貨の購入トラブルについての注意喚起をする等、詐欺的な儲け話のネタにされることも多いようです。その他、マネー・ロンダリングのため利用されるのではないかという懸念も、よく耳にします。
 通貨は「信用」が命です。信用こそが通貨として機能しうる由縁です。信用なき通貨は買われず、買われない通貨は流通せず、流通しない通貨は有用なものではありません。
 そして、前述のようなトラブルが今後も続くのであれば、仮想通貨への信用は低下していくでしょう。
 国が仮想通貨に規制を及ぼし、一定程度、管理することは、自由経済に任せることと比べて成長を鈍化させるデメリットもあるでしょうが、仮想通貨をめぐる市場を健全化させ、仮想通貨の命たる「信用」を回復させるならば、その効果はデメリットを上回るでしょう。
 では仮想通貨について、どのような法の定めが新設されたのか。その法律は、前述のようなトラブルを減少させ、仮想通貨の信用を高め、ひいては通貨としての有用性を高めるに充分なものなのか。
 仮想通貨の未来を占うためにも、以下、概観しましょう。

2 仮想通貨交換業者は登録制に

 法改正により、仮想通貨の交換(ここでいう交換には、仮想通貨同士の交換の他、仮想通貨と日本円を交換すること等、通常通貨との交換も含みますので、仮想通貨の「購入」も含むイメージです。)を営む仮想通貨交換業者は登録を要することとなりました。
 また資本要件等が登録の要件となっており、一定の経済的基礎のない業者は仮想通貨交換業を営めないこととなりました。
 これによって、誰が仮想通貨交換業者として登録されたかについては、万人がアクセス可能な情報となります。すると、この登録制により、誰が仮想通貨交換について適法に業務を行える者であるか、簡単にチェック可能になりますので、詐欺的な業者が、仮想通貨に関する怪しげな儲け話を持ちかけることには、一定の歯止めがかかります。
 仮想通貨交換業者は経済的基礎のある業者のみ、ということになるのも、市場の健全化には役立ちそうです。

3 利用者の保護等に関する措置

 仮想通貨交換業者に対しては、利用者の保護等に関する措置が義務付けられました。

 この措置の内容は多岐にわたりますが、仮想通貨と一般的な通貨の誤認を防止するための説明をすることがその1 つとされています。
 より具体的には、仮想通貨は日本の本邦通貨でも外国通貨でもないことや、仮想通貨について価値の保証がなされていない場合はそのことを(価値の保証がなされている場合は、どういった者がそのような保証をしているに過ぎないのか、ということを)説明しなければなりません。
 次に、手数料その他の仮想通貨交換業にかかる契約(利用者が、仮想通貨交換業と締結する契約)についての情報提供等についても、説明が義務づけられています。
 つまり仮想通貨交換業者は、利用者に対し、締結する契約の内容について詳細を説明しなければなりません。具体的には、取り扱う仮想通貨の概要、仮想通貨の価値変動を直接の原因として損失が生じるおそれがあること、手数料等の費用についての計算方法等を説明すべき旨が、内閣府令において定められています。
 以上のような利用者保護に関する措置が義務づけられることで、仮想通貨に関する利用者被害が減少し、ひいては仮想通貨に対する信用が高まることが期待されています。

4 利用者財産の管理

 仮想通貨交換業者は、利用者の金銭又は仮想通貨を、自己の金銭又は仮想通貨と分別して管理しなければならないこととされています。自己の金銭や仮想通貨と、利用者のそれとが混同するならば、横領等の危険が増すためです。
 また、この分別管理は、利用者の仮想通貨と仮想通貨交換業者自身の仮想通貨が混同しないよう区別するというだけではなく、個別の仮想通貨が、どの利用者の仮想通貨であるかが直ちに判別できるよう管理すべき、つまり、仮想通貨を利用者ごとに区分管理する必要がある、と定められました。
 なお、このような分別管理については、年に1 回以上、公認会計士又は監査法人による監査を受けなければならないと定められています。

5 行政による監督

 仮想通貨交換業者に対し、行政は各種権限をもって調査等を行うことができます。
 行政は、仮想通貨交換業者に対し、仮想通貨交換業の適正かつ確実な遂行のために必要があると認めるときは、報告の求め、資料の提出命令、立入りの上での質問、帳簿書類等の検査等を実施することが可能です。
 さらに、そのような調査の前提として、仮想通貨交換業者には、帳簿書類作成の義務と、また、事業年度ごとに仮想通貨交換業に関する報告書を提出する義務があります。
 このような調査権限を背景に、行政が法に従った仮想通貨交換業の運営を監督することが可能になっています。

6 おわりに

 仮想通貨に関する法改正の概要は、以上のとおりです。
 全体として、これまで野放しであった仮想通貨及びその交換業について、法律と行政による規制、監督が及ぼされる内容になっています。
 自由市場と技術の発達によって生まれた仮想通貨は、このような法規制によって、柔軟な取扱いを阻害され、成長が鈍化し、たびたび耳にするような「技術が法律に足を引っ張られる」現象が生じるのでしょうか。
 しかし最初に述べたとおり、通貨は「信用」が命です。法規制のない、野生の領域で生まれた仮想通貨は急速に成長しましたが、今より一段階、高いレベルで信用を得て、より普及を進めるためには、何ら法律の手当がないことが、むしろ信用獲得の障害になっていたと思われます。
 法に足を引っ張られるのではなく、国による適切なコントロールのもと、仮想通貨が通貨として必要な信用を得られるよう、今後に期待が高まります。

(2017年8月執筆)

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