• 明倫国際法律事務所

コラム

COLUMN

会社の生産性と従業員エンゲージメントを高める方策

人事労務

2022.07.28

執筆者:弁護士 池辺健太

法律事務所としてエンゲージメント問題を把握する

 弁護士・法律事務所の立場から、「従業員エンゲージメント」を向上させる方策について解説します。
 当事務所は、数百もの顧問先を有しており、また、顧問先に限られず多くの会社のお悩みや、内部事情に接してきました。
 その経験から(特に、ハラスメント防止等の労務関係セミナーや、従業員からのヒアリングを担当した経験から)、組織にコミットしない、会社のために自発的に動いてくれない社員が多く、それが会社の生産性向上に大きな障害となっている、という問題を肌で感じてきました。
 近年、そのような問題は、「社員のエンゲージメントが低い」という言葉で具体的に語られるようになっています。

従業員エンゲージメントとはどういう意味か?

 昨今、従業員・社員の「エンゲージメント」の重要性が注目されています。
 エンゲージメントの意味について、様々な定義がありますが、例えば、「仕事や職場に対し、積極的に関与し、熱意を持ち、コミットメントしている状態」と表現できます。やる気、積極性、熱意、愛社精神、といった意味であるとイメージを持ってもらえれば、大きなズレはありません。
 エンゲージメントの高さ/低さは、社員の生産性に関わるとされており、そのため多くの企業が注目しています。

日本企業の低いエンゲージメント

 日本企業の従業員エンゲージメントは、世界でも最低の水準だというデータが発表されています[1]
 また、経済産業省が設置した「未来人材会議」は、2022年5月の中間取りまとめにおいて上記データを紹介し[2]、これがメディア等で報道され注目を浴びました。
 上記データによれば、従業員エンゲージメントの世界平均は20%ですが、日本はわずか5%でした。米国・カナダが34%、中国が17%、韓国が12%ですが、日本の低さは突出しています。
 日本の時間あたり労働生産性については、主要先進国で最下位というデータも知られています[3]。このようなエンゲージメントの低さは、生産性が上がらない要因の1つと推察することができそうです。

エンゲージメント向上のために

 エンゲージメント向上のために何をすればいいのか、学術的研究からも結論は出ていませんが、ビジネスの現場では、次のことを心がけるべきです。

ハラスメント的挙動の抑止

 ハラスメント(パワハラ、セクハラ等)は、それを受けた人はもちろん、それを見聞きした同僚にも悪影響 があり、職場全体のパフォーマンスをも低下させる要素です。
 一部調査は、ハラスメントを受けた本人について、仕事満足感や幸福感が低下し、転職意向が高まることと指摘していますが、それだけではなく、”ハラスメントを見聞きした人(直接の被害者ではない目撃者)についても”、仕事満足感、幸福感が低下し、転職意向が高まることを指摘しています[4]
 さらに同調査は、ハラスメントを見聞きした場合、職場のパフォーマンスが低下する効果が認められる、としています。
 これらの調査結果から、従業員のエンゲージメントを高めるために、ハラスメント抑止を徹底すべきといえます。また、ハラスメントとまではいえなくても、従業員のやる気を低下させるような高圧的指導、仕事の丸投げや指導の放棄、コミュニケーションの不成立も、エンゲージメント低下の要素となり得ますので、抑止に向けて取り組むべきと思われます。

管理職の意識改革

 エンゲージメント強化に向けて、もう1つするべきことは、管理職等、部下を持つ従業員らの意識改革です。
 上司の部下に対する関わりは、エンゲージメントに関する大きな要素になるとされています[5]
 上司からのハラスメントがエンゲージメントを下げる一方で、部下への関わり方を工夫することにより、逆にエンゲージメントを向上させることができます。
 そのためには、従来型の指示とその遵守による上司部下関係よりも、業務方針に関して部下が自分の考えを述べる機会を与える、部下の意見を傾聴する、適切なフィードバックや支援を提供する等の方がより望ましいといえます。
 また、個人の成長のための計画の提示と、それへの適切な評価の機会を与えることも重要です。
 意識改革は容易ではなく、トップからのメッセージの他、外部講師を招いたセミナーや、従業員評価方法の変更等、これまでとは違った刺激を導入することが必要です。

まとめ 

 DXの推進やテレワークの導入等、従業員らの人間関係を取り巻く環境は激変する中で、従業員エンゲージメントの向上が、大きなキーになってくると思われます。

 当事務所でも、数々の企業・人事担当者のお悩みに接し、また、多くの労務関連セミナーを提供してきた経験から、「人事労務バックアップサービス」(https://www.meilin-law.jp/service/backup/)というサービスを提供しております。
 このサービスの概要については、弁護士らが作成した資料のご準備がございますので、ご請求等はこのリンク先(https://www.meilin-law.jp/contact/)から、最寄りのオフィス宛てまでご連絡ください。 多くの企業と従業員が楽しく前向きに働けるよう、引続きサービスに磨きをかけて参ります。

 


[1] GALLUP「State of the Global Workplace2021」

[2] 未来人材会議「2022年5月31日 中間とりまとめ」https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/index.html

[3] 公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2021」によれば、OECDデータに基づく2020年の日本の時間当たり労働生産性は49.5ドル(5,086円)で、OECD加盟38カ国中23位。

[4] リクルートワークス研究所「職場のハラスメントを解析する」。なお他の調査結果、例えば厚生労働省「令和2年 職場のハラスメントに対する実態調査」の企業調査においても、ハラスメントの予防・解決のための取り組みを進めたことによる効果に関して、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」(35.9%)との回答割合が最も高く、次いで「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」(32.4%)が高い等、ハラスメント防止の職場環境への正の影響が示唆されている。

[5] 英国の調査会社によるレポート、institute for employment studies「The drivers of employee engagement」

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイの世界7拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

一覧に戻る

ページの先頭へ戻る