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コラム

COLUMN

外国企業と紛争になったらどうなるの?

国際ビジネス

2021.08.04

執筆:弁護士 石井靖子

 わが国では、少子高齢化と国内マーケットの縮小に伴い、海外マーケットの重要性が拡大し、日本企業が外国企業と取引をすることが年々増えてきました。また、外国企業と海外において合弁会社を設立したり、販売代理店契約やライセンス契約を締結することもあります。

 では、外国企業との間でトラブルが生じたとき、どのように解決したらよいのでしょうか。

 日本企業間の紛争であれば、話し合いで解決できない場合は、裁判手続をとることになります。しかし、外国企業との紛争の場合、その解決手段として仲裁が世界的に活用されています。

 「仲裁」という言葉はお聞きになったことはあっても、裁判と比べてどう違うのかよくわからないという方も多いと思います。

 基本的には、裁判官ではなく、当事者により選定される「仲裁人」により審理されることを除けば、裁判手続と同じ手続と考えていただいてよいと思います。仲裁人による「仲裁判断」は裁判所の判決と同一の効力をもちます。

 裁判と比較した場合のメリットとしては、まず中立性を挙げることができます。

 裁判の場合は、国ごとに制度が異なります。そして、国によっては裁判所による自国当事者の優遇傾向が懸念され、中でも政府関連企業が当事者である場合は、何らかのバイアスがかかる場合もあり得ます。しかし、仲裁の場合は、仲裁人の選定に当事者が関与できることもあり、中立性が高いとみなされています。

 次に、国際的な強制執行の容易性が挙げられます。一般的に裁判では勝訴判決を得ても、相手方が判決を履行しない場合、国を超えて執行するのは非常に困難です。これに対して、仲裁の場合は、外国において執行することが可能です。

 その他の仲裁の長所としては、手続方法を合意により決めることができる柔軟性、上訴がないことによる迅速性、専門性を有する仲裁人が選択可能であるという専門性を挙げることができます。さらに、仲裁においては手続が非公開なので、企業秘密が絡む案件の場合は、仲裁の非公開性が大きなメリットとなります。

 他方、デメリットとしては、仲裁人の費用を当事者が負担しなければならないので、コストが高くなります。また、事前に当事者間で仲裁合意をしておく必要があります。契約書に「仲裁で紛争解決する」という条項を入れておけば仲裁手続を利用できますが、例えば日本企業が有する特許権を外国企業に侵害されたケースなど、契約がそもそも存在しないような場合は、仲裁手続を利用することができません。

 それでは、日本国内で仲裁手続がどのくらい活用されているのかというと、残念ながら活用が進んでいるとはいえない状況です。シンガポールの仲裁センターは年400件程度の仲裁を手掛けていますが、2018年に日本国内で申し立てられた仲裁の件数は12件にすぎません。しかし、日本政府は、2017年に仲裁の基盤整備の取り組みを重要な政策の1つに挙げ、仲裁を日本国内で実施しやすくしようとしています。具体的には、2018年に大阪で、2020年には東京で日本国際紛争解決センターが開設されました。

 仲裁とは別に、国際調停という手続もあります。調停と仲裁の相違点は、紛争の解決方法の内容を決定するのが「当事者」か「仲裁人」かという点にあります。仲裁においては、仲裁人が仲裁判断を下し、当事者はそれに従わなければなりませんが、調停では、調停人のサポートを受けて、当事者が紛争解決のための合意内容を決定します。裁判・仲裁と比較して、調停は迅速に紛争を解決でき、コストも圧倒的に安く済むこと、また話し合いで解決できるので強制執行が不要となることなどがメリットして挙げられます。2018年11月に京都国際調停センターが開所しましたので、国際調停も紛争解決の手段として有用であると考えられます。

 裁判、仲裁、調停には、それぞれメリット・デメリットがありますので、事案に応じて弁護士にご相談ください。

(2020年1月執筆)

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