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コラム

COLUMN

契約書基本講座~契約書全般に関する基本知識 ~

一般企業法務等

2021.06.30

執筆:弁護士 池辺健太

1 契約書全般に関する基本知識編

「契約書基本講座」と題し、今回は契約書全般に関する基本知識をご紹介していこうと思います。

以下ご紹介するのは基本的な知識ですが、それだけに知っていそうで知らない、そして今さら人には聞けない、というものでもあります。少しでもお役に立てば幸いです。

2 契約書は原本が絶対に必要なの?

Answer 原本はとても重要な書類ですが、絶対に必要というわけではありません。

署名がなされたり、印鑑が押された契約書原本そのものは、非常に重要なものですし、当然、重要書類として保管をすべきです。

しかし、そのような契約書原本がなければ、契約は全く意味がないというわけではありません。

結局のところ契約書は、契約がなされ、また、その契約はどういった内容だったかという点に関して、「証拠を残す」ために作成されるものです。

例えば契約書原本を紛失してしまい、契約書のコピーやスキャンデータしかない場合であっても、それらは契約が存在したこと、また、それがどういった内容だったかという点について、一定の証拠として機能します。

ただし、相手方から、「そのような契約書には署名も押印もしていない、偽造である。」という主張がなされた場合、これへの反論のためには、やはり原本があった方が安全です。契約書のコピーらしきものであれば偽造するのは比較的容易ですが、原本らしきものを偽造するのは非常に困難であり、「その原本は偽造である。」という主張は、説得力に欠けるからです。

契約実務においては、相手方から署名押印した契約書のスキャンデータを送ってもらい、こちらも署名押印した契約書のスキャンデータを送信する、という方法で契約成立とし、1枚の紙に両当事者の印鑑が押されたものは作成しない場合もあります。海外との取引など、1枚の契約書原本に両当事者が署名押印するとなると、時間と手間がかかるような場合に、そのような方法がとられることが多いです。

このような方法による場合、そもそも「契約書原本」なるものが存在しませんが、法的には問題なく、この場合も契約が成立しています。

この方法は、発注書を送ってもらい、発注請書を送り返すというやり取りと似ていると思われる方もいらっしゃるかもしれません。発注書と発注請書のやり取りも、それをもって1つの契約が成立しているわけですから、それと同様の方法を契約書について用いることも、もちろん可能、ということです。

また、この方法による場合、両当事者が署名押印をした契約書は作成されませんので、契約書を作成した場合には印紙を貼るべき取引においても、印紙を貼るべき書面がなく、印紙税の節約になるというメリットもあります。

このように、契約書原本は必ず必要というわけではないのですが、それでも契約書原本が作成されるのは、「その契約書類は偽造である。」と主張されるリスクに備えるため、ということになります。

3 印紙を貼り忘れたら、契約書は無効なの?

Answer 無効ではありません。

一定の契約書には印紙を貼らなければならないのは、印紙税法という法律がそのように定めているからです。

しかし、印紙税法のように国と民間との関係(税金に関する事項)を定めている法律については、これに違反したからといって、民間と民間の関係で締結された契約書の効力まで、直ちに無効とされるというわけではありません。

印紙を貼り忘れた場合、印紙税法に違反するとはいえますが、そのことをもって契約書が無効になるケースは考えがたいと思われます。

とはいえ、印紙を貼らないのは、たとえうっかり忘れていたとしても法律違反になります。後で脱税と非難されることのないよう、印紙については必要に応じて、税理士にも確認をするようにしましょう。

4 どういう場合に、印鑑のみではなく印鑑証明書が必要な契約になるの?

Answer 「これは私の印鑑じゃない。」と主張されるリスクが高いような場合や、重要な契約なのでそのようなリスクを確実に排除すべき場合について、印鑑証明書の提出が求められています。

契約締結にあたり、印鑑証明書の提出が求められるケースと、求められないケースがあります。その違いは、次のような考えによるものです。

印鑑証明書は、その人の印鑑(実印)がどういった印鑑であるか、という点を公的機関が証明してくれるものです。

つまり、印鑑証明書さえあれば、押された印鑑が間違いなく本人のものである、ということが確認できます。

そのため、印鑑証明書があれば、印鑑が押された契約書について、「これは私の印鑑じゃない。」と主張されるリスクに対処できる、といえるでしょう。

ただし、すべての取引に印鑑証明書の提出を求めるのも煩雑ですから、「これは私の印鑑じゃない。」と主張されるリスクが高いような場合や、重要な契約でそのようなリスクを排除すべき場合について、印鑑証明書の提出が求められるものです。

例えば契約締結の際、目の前に本人が来ないケースでは、「これは私の印鑑じゃない。」と主張されるリスクが比較的高いので、印鑑証明書の提出を求めることが無難と思われます。

例えば、あなたがお金を貸すにあたり、借りる本人は目の前で契約書に署名押印するけれど、連帯保証人の印鑑はその借りる本人にもらってきてもらう場合、連帯保証人はあなたの目の前には来ないので、連帯保証人について印鑑証明書の提出を求めることも要検討、ことになります。

目の前に本人が来て、署名及び押印をするケースでは、あなたは本人が本人の印鑑を押していることを目で確認できますし、そのことについて、後に否定される可能性も比較的低いものです。しかし、例えば目の前に来ない連帯保証人については、契約書に押されているのは本当に連帯保証人の印鑑なのか、あなたは確認できません。

そのため、目の前に来ない連帯保証人については、「押されている印鑑は、確かに連帯保証人の印鑑だ。」という点が確認できるように、連帯保証人の印鑑証明書を取得する必要が、比較的高いということになります。なお、金融機関など、連帯保証人を頻繁に徴求する企業などについては、単に印鑑証明書の提出を受けるだけではなく、電話等による連帯保証人本人の意思確認が必要とされる場合もあります。

5 契約書と「覚書」はどう違う?

Answer 内容によりますが、多くの場合、覚書と契約書に法的な差異はありません。

契約書ではなく、標題が「覚書」「●●に関する覚書」とされている書面を見ることがあると思いますが、それら「覚書」は、基本的に契約書との法的な違いはありません。

契約というのは、簡単にいえば両者の合意であり、たとえ標題が「覚書」であっても、両者の合意を記したものであれば、契約成立を証明するものとして機能しますので、契約書との違いはないということになります。

ただし、この点は、その覚書の内容次第だといえます。覚書の場合、その書面はあくまで現時点での了解事項を書いたものであって、後に撤回される可能性が留保されており、法的拘束力がないもの、として作成されることがあるからです。

例えば、「法的拘束力はない。」としっかり明記されている覚書の場合、法的拘束力のある契約書とは別物であり、相手方を拘束することはできないもの、ということになります(もっとも契約書も「法的拘束力はない」と明記されてしまえば、やはり法的拘束力はないということになるでしょうから、そういう意味では違いはないことになります。)。

契約書であれば正式な上司の決済が必要だが、覚書であれば不要、という決済制度をとっている会社もありますが、覚書であっても、基本的には契約書と同様の拘束力がある、という認識でいた方がよいと思われます。

6 おわりに

契約書全般に関する基本知識、としてお送りしてきました、今回の契約書基本講座は以上です。

1つでも、参考になる点がありましたら幸いです。ありがとうございました。

(2016年7月執筆)

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイの世界7拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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