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コラム

COLUMN

宅地造成等規制法が改正されました

一般企業法務等

2022.12.16

執筆者:小栁美佳

1.はじめに

 令和4年5月27日、「宅地造成等規制法の一部を改正する法律」が公布されました。交付日から1年を超えない範囲内で施行予定ですが、この改正により現行の「宅地造成等規制法」は、名称も「宅地造成等特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)に変更され、内容も大きく変わります。
 本改正の契機となったのは、令和3年7月に静岡県熱海市で発生した大規模土石流災害です。
 本災害については、土石流の基点の盛土が被害を甚大化させたのではないかと言われています。

 そして、このような盛土が施工された原因については、静岡県と熱海市の行政対応についての検証を担っていた第三者委員会作成の令和4年5月17日付最終報告書によれば、

  • 基点の盛土は、静岡県が指定した宅地造成工事規制区域内ではあったが、「宅地造成」に関する工事ではなかったため、宅地造成等規制法の対象外となっていたこと
  • 各県が条例により規制をする中、熱海市は、隣接県である神奈川県、山梨県と比較して明らかに規制が緩かったことが、他県の問題業者の行為を誘引した原因と推測されること

などと述べられております。

 時系列からすると、本改正は上記第三者委員会の最終報告書を受けたものではありませんが、最終報告書が指摘するような上記問題点は災害発生当初から共有されており、その解消が意識された改正となっています。

2.特に重要と思われる改正内容

(1)国主導による、規制基準の明確化

 宅地造成等規制法では、都道府県知事等に宅地造成工事規制区域としての指定権限があり(同法3条1項)、しかもその指定は、法律の目的を達成するのに最低限のものでなければならないとされていました(同法同条2項)。
 都道府県知事に指定権限を与えることは地域の具体的事情に照らした規制を可能にしますが、地域によって規制内容に差が生じてしまうことは否めません。

 そこで、盛土規制法では、まずは主務大臣に宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に伴う災害の防止に関する基本的な方針を定める義務を設け(同法3条)、都道府県知事等には、主務大臣が定めた基本方針に基づき、宅地造成等工事規制区域の指定(同法10条)や、当該区域内において特定盛土等や土石の堆積が行われた場合には周辺住民等に危害を生ずるおそれが特に大きいと認められる区域を、特定盛土等規制区域として指定(同法第26条)することが求められるようになりました。

 これにより、都道府県知事による地域の具体的事情に照らした規制を行うというメリットは残しながら、その基準を国が定めることで、規制内容の差が少なくなるものと期待されます。

(2)規制対象の拡大

 宅地造成等規制法においては、規制区域内において行われる「宅地造成」に関する工事についてのみ、都道府県知事の許可を得ることが求められていたことから(同法2条、3条、8条)、宅地造成に関連しない工事については、宅地造成等規制法の対象外となっておりました。

 盛土規制法においては、都道府県知事等は、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積(「宅地造成等」)に伴い災害が生ずるおそれが大きい区域を宅地造成等工事規制区域として指定することができます。そして、同区域内での宅地造成「等」の工事が許可制(同法2条、10条、12条)となり、特定盛土等規制区域内において行われる特定盛土等又は土石の堆積に関する工事については届出制(大規模な崖崩れ又は土砂の流出を生じさせるおそれが大きい工事は許可制)となりました(同法2条、26条、27条、30条)。

 これにより、「スキマのない規制」が行われると期待されます。

(3)行政による監督権限の強化

 宅地造成等規制法においても設けられていた工事完了後の完了検査(盛土規制法17条、36条)に加え、中間検査(同法18条、37条)や施工中の定期報告(同法第19条、38条)、も義務づけられ、行政が随時目を光らせることができる内容となりました。

 また、宅地造成等規制法においては、規制に反する工事が行われているときに都道府県知事自ら必要な措置を実施することができるのは、過失なく工事主等が分からないといったときに限定されていました(同法14条)(行政代執行法による場合を除く。)。

 しかし、盛土規制法においては、都道府県知事は、過失なく工事主等が分からない場合のみならず、工事主等が命令に係る措置を講じないとき等にも自ら必要な措置を実施することができるようになり(同法20条、39条)、より災害防止に向けた都道府県知事の権限が強化されたといえます。

(4)周辺住民への周知義務

 盛土規制法においては、工事主には、対象区域内で対象工事実施の許可申請をする場合には、事前に周辺地域の住民に対し、説明会の開催等、工事の内容を周知させるために必要な措置を講じる義務が新設されました(同法11条、29条)。

 これにより、周辺住民が知らない間に危険な工事が施工されるという事態が防げます。

(5)罰則の引き上げ

 盛土規制法においては、無許可行為や命令違反等に対する罰則については抑止力として十分機能するよう、罰則の上限を大幅に引き上げています。

3.建設関連業者に求められる対応

 このように、盛土規制法は、宅地造成等規制法の内容を抜本的に改正するものですから、現状は都道府県知事等の許可が必要とされていない工事であっても、改正後は許可が必要となる工事が多々あるかと思われます。

 盛土規制法の規制対象となれば、宅地造成等規制法に比し、格段に行政の関与が強まりますし、工事の初動である住民説明会等住民への周知対応を誤れば、住民の反対運動も招きかねません。

  盛土規制法は、具体的な規制基準を政令に委任している条項も多いため、今後の政令策定が待たれますが、現時点において、

  • 宅地以外の土地を宅地にするために行う盛土その他の土地の形質の変更等の工事
  • 特定盛土(宅地又は農地等において行う盛土その他の土地の形質の変更で、当該宅地又は農地等に隣接し、又は近接する宅地において災害を発生させるおそれが大きい工事)
  • 土石の堆積工事

等(今後、政令により具体的な規制工事内容が定められる予定です。)を実施されている事業主様におかれましては、一度弁護士にご相談いただくことをご検討ください。

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