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コラム

COLUMN

後遺障害等級認定について

一般企業法務等

2021.07.09

1.はじめに

 今回は、交通事故に遭い、治療を継続したけれども完治せず、後遺症が残存してしまった被害者の後遺障害等級認定について、お話をしたいと思います

2.後遺障害等級認定の重要性

 被害者に残存した後遺症が、自動車損害賠償責任保険(以下、「自賠責保険」といいます。)の後遺障害等級基準に該当すれば、被害者は、後遺障害等級に応じた保険金を、加害者加入の自賠責保険会社から受領することができます(加害者が、きちんと自賠責保険に加入していることや、被害者に当該事故の発生につき大きな過失がないことが前提になります。)

 後遺障害等級とは、14級から1級まであり、1級が最も重度の後遺障害となり、受領できる自賠責保険金の金額も高額になります(例:14級の自賠責保険金は75万円ですが、1級の自賠責保険金は、3000万円になります。)。

 さらに、後遺障害等級は、自賠責保険金の金額のみならず、加害者本人に請求する慰謝料金額や、逸失利益(後遺障害が残存しなければ得ることができた利益)の金額にも影響し、一般的には、後遺障害等級が高いほど、慰謝料金額や逸失利益の金額が高額になります。

 したがって、被害者に残存した後遺症が、自賠責の後遺障害等級に該当するかどうかは、自賠責保険金の金額や、被害者が加害者に請求する損害賠償金に大きく影響することから、大事なポイントとなります。

3.後遺障害等級認定の基準は?

 上記のように重要な後遺障害等級認定ですが、一口に後遺障害等級といっても、様々な基準があります。

 たとえば、事故により「一手のおや指又はおや指以外の2の手指を失った」場合は、9級12号に該当します。手の指が欠損していることは一見してわかることですので、比較的明快な基準といえます。

 これに対して、事故により「胸腹部臓器の機能に障害」が残り、仕事に支障が出た場合は、その支障の程度が、

  ・「労務の遂行に相当な程度の支障がある」場合は、11級10号になり、

  ・「服することができる労務が相当な程度に制限される」場合は9級11号になり、

  ・「軽易な労務以外の労務に服することができない」場合は7級になります。

 このように、「相当な程度の支障がある」「相当な程度に制限される」「軽易な労務以外の労務に服することができない」といった程度によって等級が変わります。

 自賠責保険金だけでも、11級であれば331万円、9級であれば616万円、7級であれば1051万円と大きく金額が変わるうえに、前述のとおり後遺障害等級は自賠責保険金額だけでなく慰謝料金額や逸失利益にも影響します。

 そのため、後遺障害等級認定の基準に沿う被害者の医療記録や、労働状況等の資料を集め、適切な等級認定を求めることは非常に重要です。

4.適切な後遺障害等級認定を求めるためには?

 では、後遺障害等級認定の基準に沿う資料とは、どのような資料で、どのようにして集めればいいのでしょうか?

 ここからが弁護士の腕の見せ所です。

 先に挙げた「胸腹部臓器の機能に障害」が残った場合を引き続いて使いますと、「胸腹部臓器」といっても、気管、食道、右肺、左肺、心臓、肝臓、胃等々、多数の臓器があります。そこで、その臓器それぞれのあるべき機能、事故による障害の内容、労務への影響等に着目し、当該症状のために、被害者の労務に「相当な程度の支障がある」等のことを根拠づける資料を集めるということになります。

 まずは、主治医が作成する後遺障害診断書が必須資料となりますが、その内容は、後遺障害等級認定の結論を大きく左右します。

 しかし、主治医が後遺障害診断書に、検査結果や症状、主訴の記載を超えて、当該症状が被害者の労務にどのように影響するかまで記載することはまれです。

 検査結果や症状、主訴だけが記載された後遺障害診断書では。一般的に当該症状がどの程度の労務制限を伴うものなのかという判断はできても、実際に当該被害者にどのような労務制限が生じているのかは明らかにはなりません。

 そこで、弁護士が後遺障害診断書を作成した主治医と面談をし、主治医からの聞き取りを行い、場合によっては主治医に意見書等の作成を依頼することもあります。

 また、弁護士が被害者から症状や労務制限に関数具体的事情を聞き取り、その内容を記載した陳述書を作成したり、場合によっては勤務先従業員の陳述書を作成することもあります。

 重要なのは、一般論だけではなく、当該被害者にどのような症状が出ているのか、どのような労務制限がかかっているのかを効果的に説明できる資料を集めることになります。

 事情によって選択する手段は異なりますが、弁護士は、被害者の後遺障害について、適切な等級認定がされるよう、あらゆる手を考え、手続きを進めます。

5. 最後に

 もちろん、必ずしも希望どおりの後遺障害等級認定とならないこともあるかとは思いますが、適切な資料を揃え、後遺障害等級認定を求めなければ、全く等級認定対象とならない可能性すらあります。

 適切な後遺障害等級認定を受けることが、適切な被害賠償を求めるための第一歩ですから、後遺障害が残ってしまったような場合には、本コラムのことを思い出していただき、本コラムが交通事故の被害に遭われた方の被害回復の一助となれば幸いです。

(2015年1月執筆)

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