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コラム

COLUMN

技術系、IT系の会社では、職務発明規程を整備することが不可欠になります

一般企業法務等

2021.07.08

執筆:弁護士 田中雅敏

1.特許法35条の改正

平成27年7月10日に特許法が改正され、職務発明に関する特許法35条も改正となりました。この改正法は、公布の日から一年以内に施行されることになっており、平成28年はじめには、職務発明規程に関するガイドラインが公開される見込みです(平成27年10月末時点の情報)。

今回の特許法35条の改正内容は、主に、以下の三点です。

① 特許を受ける権利を会社が原始取得

→ 権利帰属の不安定性を解消するために、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から使用者等に帰属するものとされました。したがって、職務発明規程を整備しておけば、会社は、従業者等のなした職務発明に関する特許を受ける権利を最初から取得することができるようになりました。

② 従業者等からの金銭請求権の定義の変更

→ 従業者等は、特許を受ける権利を会社に取得させた場合には、「相当の金銭その他の経済上の利益」を受ける権利を有するものとされました。

③ 経済産業省によるガイドラインによる「相当の利益」の明確化

→ 上記②で記載した「相当の金銭その他の経済上の利益」について、経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、これを決定するための手続に関する指針を定めるものとされました。

2.特許法35条改正の影響

上記のとおりの改正がなされましたので、今後は、技術系やIT系(プログラム特許などの問題が生じます)の会社においては、早急に職務発明規程を整備しておく必要があります。

そうしないと、特許を受ける権利を会社が取得できないことになりかねませんし、また、従業者等に対して与えるべき「相当の金銭その他の経済上の利益」の定め方を合理的に定めておかないと、後日裁判所にその「相当性」を否定され、多額の対価の支払いを強いられるリスクがあります。なぜなら、特許法35条は、職務発明規程が不合理であった場合は、あらためて、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して」裁判所がその対価を定めるとしているからです。

3.知財高裁判決 ~野村證券の職務発明規程に合理性がないとされた事例~

今回の特許法改正後である平成27年7月30日に、知財高裁で出された判決によって、野村證券株式会社が定めていた職務発明規程につき、合理性がないものとの判断がなされました。

裁判所は、職務発明規程に合理性があるか否かの判断基準として、①対価決定のための基準の策定に際しての従業者等との協議の状況、②基準の開示の状況、③対価の額の算定についての従業者等からの意見聴取の状況、④その他の事情、を総合的に考慮するとしました。その上で、「会社は、会社の発明規程の策定及び改定につき、当該従業員と個別に協議していないことはもとより、他の従業員らと協議を行ったこともうかがわれない」、「職務発明規程は、従業員らに開示されていない」、「対価の額の算定に当たって発明者から意見聴取することも予定されていない」などとして、その職務発明規程に合理性がないと判示しました。

これは、今後の会社の職務発明規程の整備に関して、大きな警鐘を鳴らしたものと言えます。

4.職務発明規程の準備

以上のような動きを踏まえ、技術系及びIT系の会社は、職務発明規程を早急に整備する必要がある上、その整備にあたっても、十分に従業者等と協議を行い、制定された規程を十分に開示し、さらに実際の対価の額の算定にあたっては、発明をした従業者等の意見を聞くなどの措置を確保するなどして、その運用面でも十分に注意をする必要があります。

具体的には、職務発明規程に関するガイドラインの発表を待った上で、これらの点を十分に考慮した職務発明規程の整備と、その運用の適正化を図ることが重要です。

(2016年1月執筆)

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