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無印良品が中国商標事件で敗訴後に自社ウェブサイトで発表した情報が、相手方中国企業の名誉侵害を構成すると判断した人民法院の判決について

国際ビジネス

2022.02.14

執筆者:弁護士 森 進吾

本コラムでは、無印良品が中国でビジネスを展開する際に生じた商標権に関するトラブルのうち、2021年7月に中国の裁判所(人民法院)が出した判決【1】 の概要について説明いたします。本判決は、無印良品が中国で商標関連訴訟に敗訴した後に公表した声明文が、勝訴した中国企業の名誉を侵害するとして、同中国企業から訴えられた事件の一審判決です。
なお、無印良品の中国における商標トラブルに関しては、2018年ころにも各種報道がなされていたところ、当時、株式会社良品計画は、以下URLのとおりニュースリリースを発表していました。

https://ryohin-keikaku.jp/news/2018_1102_02.html

【1】北京市朝陽区人民法院2021年7月30日((2020)京0105民初59143号)。

【判決に記載された事案の概要】

無印良品は、1999年以降、中国において、せっけん・シャンプー・化粧品等(第3類)、食器類・化粧用具(第21類)、被服・靴・帽子等(第25類)等の幅広い分野において「無印商品」又は「MUJI」の商標を登録したうえで、2005年に中国大陸内で実店舗の運営を開始した。
中国企業は、2000年4月に、タオル・布・ベッドカバー等の商品区分(第24類)について、「無印商品」の中国語(簡体字)表記である「无印良品」【2】 の商標を出願し、2001年4月に登録した。無印商品は、同商標の審査手続に際して異議を申し立てたものの、商標局及び人民法院 【3】は、2000年4月よりも前の時点で、中国大陸内の第24類の分野において、「無印良品」ブランドが一定の認知を獲得していなかったこと等を主な理由に挙げて、無印良品側の主張を認めなかった。
無印良品が2014年と2015年に第24類に属する商品に「無印良品」の商標を誤って使用したことを踏まえて、「无印良品」の商標権者である中国企業【4】は、2015年4月に、侵害停止、損害賠償及び影響除去を求めて北京知的財産法人に対し訴訟を提起した。当該事件は複数の手続を経た後、2019年11月4日に北京市高級人民法院が、中国企業の請求の一部を認めた。
この人民法院の判決では、無印良品に対し、影響除去の具体的な行為として、「無印良品による権利侵害行為による影響を削除するために、Tmall(天猫)の無印良品旗艦店等において30日間の声明を発表する」こと等を義務付けた。そこで、無印良品は、2019年11月18日から同年12月18日までの期間、Tmall の無印良品旗艦店等において、以下のような声明文(以下「本件声明文」という)を公表した。

【2】「无」は「無」の簡体字である。

【3】最高人民法院2012年6月29日((2012)行提字第2号)

【4】「无印良品」(第24類、第1561046号・第7494239号)の商標は、2004年7月に海南南华实业贸易公司から北京棉田纺织品有限公司へ譲渡されている。

 無印良品は、1980年に日本で誕生して以来、株式会社良品計画が日本を含む世界各地において、店舗を開設し、「無印良品」及び「MUJI」の商標を登録しました。中国大陸では、株式会社良品計画がほぼすべての商品/サービス類について「無印良品」の商標を登録していたものの、布・毛布・ベッドカバー等の一部の商品区分についてのみ、「无印良品」の商標を他の企業に抜け駆け登録【5】されました。そのため、株式会社良品計画及び无印良品(上海)商业有限公司は中国大陸内において、これらの商品に対して「無印商品」の商標を使用することができないにもかかわらず、2014年と2015年に誤って当該商標を使用しました。
 これに対し、北京時高級人民法院は、(2018)京民终172、173号の《民事判決書》において、株式会社良品計画及び无印良品(上海)商业有限公司が、毛布・ベッドカバー・バスタオル・フェイスタオル・布団カバー・枕カバー・タオル地カバー・絨毯の商品において「無印良品」商標を使用することは、北京棉田纺织品有限公司の商標権を侵害すると認定しました。
 そこで、株式会社良品計画及び无印良品(上海)商业有限公司は、ここに、北京棉田纺织品有限公司等に対して影響を与える上記の行為を除去し、当社は上記の商品の商標ラベルを改善する旨の声明を発表します。

【5】中国語原文では「抜け駆け登録」を「抢注」と記載していた。

【人民法院(1審)の判断】

本件声明文のうち、『布・毛布・カーペット等の一部の商品区分についてのみ、「无印良品」の商標を他の企業に抜け駆け登録されました』という箇所の『抜け駆け登録』は、中国商標法第32条に定める「抜け駆け登録」【6】と同様の意味合いで使用していると評価できる。しかしながら、「无印良品」第24類の商標については、最高人民法院の判決で有効性が明らかにされている。すなわち、「无印良品」が出願された2000年4月6日よりも前の時点で、中国大陸内で、第24類の分野について、「無印良品」ブランドが一定の影響力を有しているという証拠はなかった。そのため、「无印良品」第24類は合法的に登録されたものである。
 中国商標法では「抜け駆け登録する」という語句には違法性を有する否定的な意味合いが込められているため、本件声明文を全体として読むと、判決に基づく適正な履行とはいえず、「无印良品」第24類の商標権者の名を貶めるものである。

【6】中国商標法では、「他人がすでに使用している一定の影響力を有する商標を不正な手段によって抜け駆け登録すること」を「以不正当手段抢先注册他人已经使用并有一定影响的商标」という中国語で定めている(第32条)。

【若干のコメント】

報道によれば、無印良品は、本判決に不服があるとして上訴して、2審で争っているとのことです【7】。そのため、2審において本判決の判断が維持されるのか否かが今後注目されます。
このように、今回の人民法院の判断はあくまで1審段階のものではありますが、日本企業が本判決から得られる教訓としては、次の点が挙げられると思われます。すなわち、日本国内で使用している商標等(商品名、ブランドマーク又は企業名等)について、仮に中国企業によって中国で登録された場合、消費者が誤認することを防止するための対策として、「中国において正規品とは異なる模倣品が出回っているためご注意ください」等の声明文を発表する場合があります。もしこのような声明文の中で、有効に登録されている商標の合法性を否定するような表現を使用すると、本判決のように、当該商標の登録企業の名誉を侵害すると法的に判断される可能性があります。そのため、このような声明文を発表する場合には、他企業の名誉を害さないかという観点から文言を選ぶ必要があるといえます。

【7】https://www.yomiuri.co.jp/economy/20211105-OYT1T50246/

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