• 明倫国際法律事務所

コラム

COLUMN

独占禁止法改正

一般企業法務等

2021.07.16

1 審判制度の廃止

平成27年4月1日、改正独占禁止法が施行されました。今回の改正では、公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)の処分(排除措置命令・課徴金納付命令など)に対する不服申立制度が大きく変更されました。

改正前は公取委による審判制度を採用しており、公取委の行う処分に不服がある場合、公取委自身が当該処分の妥当性を審理する仕組みでしたが、自らが審査機関と審判機関を兼ねることについて、中立性・公正性の観点から、これを疑問視する声がありました。

2 取消訴訟への移行

今回の改正によって、公取委の処分に対する不服審査は全て、中立・公正な第三者の立場にある裁判所で、取消訴訟という手続において審理されることになりました。

また、経済事案に対する裁判所の専門性の確保という観点から、通常の取消訴訟とは異なって東京地方裁判所を専属管轄と定められました。したがって、福岡の事業者が不服申立を行う場合でも、東京地方裁判所に取消訴訟を提起することになります。

さらに、複雑な経済事案が多いことに鑑み、複数の裁判官で構成される合議体で審理及び裁判を行うこととされました。

3 実質的証拠法則の廃止

審判制度においては、公取委の高い専門性とその判断を尊重する趣旨から、「公取委の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠がある場合には裁判所を拘束する」(これを「実質的証拠法則」といいます。)という制度が採用されていましたが、審判制度の廃止に伴い、実質的証拠法則は廃止されることになりました。

4 意見聴取手続

今回の改正では、排除措置命令等に係る意見聴取手続が整備され、事業者の適正手続の拡充が図られました。

意見聴取手続では、手続管理官の制度を新設し、事前説明手続を監督し、経過を公取委に報告させることとしたほか、公取委が認定した事実を立証する証拠については、事業者に閲覧・謄写を認めることになりました。

ただ、手続管理官の中立性・独立性の保障が不十分であるとの指摘があります。また、閲覧・謄写の範囲についても「公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠」に限定され、かつ、謄写については事業者もしくはその従業員が提出したもの又はそれらの供述録取書等に限定されていることから、なお不十分であるとの指摘もあります。このあたりは今後の改正の課題となってくるものと思われます。

5 終わりに

以上、改正独占禁止法の概要をご説明しました。独占禁止法は「経済憲法」と呼ばれる重要な法律ですので、事業者にとっては最も重要な法分野の一つです。独占禁止法に関するご相談がございましたら、いつでも当事務所にご連絡ください。


◆「二つの9条」◆

最近、集団的自衛権の問題で憲法9条関連のニュースをよく耳にします。

憲法9条といえば日本国における平和の象徴ともいうべき条文ですが、憲法9条と並んで「二つの9条」と呼ばれていた独占禁止法9条のことはご存知でしょうか。

独占禁止法9条は平成9年に改正されましたが、当初は「持株会社の禁止」を定めていました。第二次大戦後、日本を占領したGHQは、日本が戦争の道に突き進んだ大きな原因の一つに「財閥」の存在があると考えていました。そこでGHQは、財閥を解体し、経済的にも民主化を図るため、独占禁止法9条において「持株会社の禁止」を定めたのです(いずれも「9条」となっていることについて、GHQが意図的に一致させたという話があります。)。このようにGHQの占領政策の中で定められた憲法9条と独占禁止法9条は「二つの9条」と呼ばれ、日本における平和の象徴となりました。

日本国憲法や経済憲法と呼ばれる独占禁止法がGHQの主導で制定されたというのは皮肉な話ですが、独占禁止法9条は平成9年に改正され、「○○ホールディングス」という会社名もよく耳にするようになりました。近年では憲法9条の解釈論が大きな論点となっておりますが、皆様も、憲法9条関連のニュースを見た際には、もう一つの9条が存在していたことを思い出してみてはいかがでしょうか。

1 審判制度の廃止

平成27年4月1日、改正独占禁止法が施行されました。今回の改正では、公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)の処分(排除措置命令・課徴金納付命令など)に対する不服申立制度が大きく変更されました。

改正前は公取委による審判制度を採用しており、公取委の行う処分に不服がある場合、公取委自身が当該処分の妥当性を審理する仕組みでしたが、自らが審査機関と審判機関を兼ねることについて、中立性・公正性の観点から、これを疑問視する声がありました。

2 取消訴訟への移行

今回の改正によって、公取委の処分に対する不服審査は全て、中立・公正な第三者の立場にある裁判所で、取消訴訟という手続において審理されることになりました。

また、経済事案に対する裁判所の専門性の確保という観点から、通常の取消訴訟とは異なって東京地方裁判所を専属管轄と定められました。したがって、福岡の事業者が不服申立を行う場合でも、東京地方裁判所に取消訴訟を提起することになります。

さらに、複雑な経済事案が多いことに鑑み、複数の裁判官で構成される合議体で審理及び裁判を行うこととされました。

3 実質的証拠法則の廃止

審判制度においては、公取委の高い専門性とその判断を尊重する趣旨から、「公取委の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠がある場合には裁判所を拘束する」(これを「実質的証拠法則」といいます。)という制度が採用されていましたが、審判制度の廃止に伴い、実質的証拠法則は廃止されることになりました。

4 意見聴取手続

今回の改正では、排除措置命令等に係る意見聴取手続が整備され、事業者の適正手続の拡充が図られました。

意見聴取手続では、手続管理官の制度を新設し、事前説明手続を監督し、経過を公取委に報告させることとしたほか、公取委が認定した事実を立証する証拠については、事業者に閲覧・謄写を認めることになりました。

ただ、手続管理官の中立性・独立性の保障が不十分であるとの指摘があります。また、閲覧・謄写の範囲についても「公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠」に限定され、かつ、謄写については事業者もしくはその従業員が提出したもの又はそれらの供述録取書等に限定されていることから、なお不十分であるとの指摘もあります。このあたりは今後の改正の課題となってくるものと思われます。

5 終わりに

以上、改正独占禁止法の概要をご説明しました。独占禁止法は「経済憲法」と呼ばれる重要な法律ですので、事業者にとっては最も重要な法分野の一つです。独占禁止法に関するご相談がございましたら、いつでも当事務所にご連絡ください。


◆「二つの9条」◆

最近、集団的自衛権の問題で憲法9条関連のニュースをよく耳にします。

憲法9条といえば日本国における平和の象徴ともいうべき条文ですが、憲法9条と並んで「二つの9条」と呼ばれていた独占禁止法9条のことはご存知でしょうか。

独占禁止法9条は平成9年に改正されましたが、当初は「持株会社の禁止」を定めていました。第二次大戦後、日本を占領したGHQは、日本が戦争の道に突き進んだ大きな原因の一つに「財閥」の存在があると考えていました。そこでGHQは、財閥を解体し、経済的にも民主化を図るため、独占禁止法9条において「持株会社の禁止」を定めたのです(いずれも「9条」となっていることについて、GHQが意図的に一致させたという話があります。)。このようにGHQの占領政策の中で定められた憲法9条と独占禁止法9条は「二つの9条」と呼ばれ、日本における平和の象徴となりました。

日本国憲法や経済憲法と呼ばれる独占禁止法がGHQの主導で制定されたというのは皮肉な話ですが、独占禁止法9条は平成9年に改正され、「○○ホールディングス」という会社名もよく耳にするようになりました。近年では憲法9条の解釈論が大きな論点となっておりますが、皆様も、憲法9条関連のニュースを見た際には、もう一つの9条が存在していたことを思い出してみてはいかがでしょうか。


(2015年7月執筆)

  • 東京、福岡、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、ハノイの世界7拠点から、各分野の専門の弁護士や弁理士が、企業法務や投資に役立つ情報をお届けしています。
  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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