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コラム

COLUMN

相続に関する新制度と財産管理

事業承継・相続・家族信託

2021.08.04

執筆:弁護士 盛一也

1 はじめに

2018年7月、相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。これらの法改正及び新法は、遺言等の重要度の高い分野を対象としています。そこで本稿では、新制度の内容及び新制度と関連性の高い遺言や財産管理についても解説します。

2 新制度①

2019年1月13日より、自筆証書遺言の作成方式が緩和されました。従前は、作成者本人が遺言書全文を自書しなければならず、財産が多い場合や相続人が多い場合などには記載量が多くなり、作成者の負担が重いという難点がありました。法改正により、財産目録については自書が不要になり、作成者の負担が一定程度減少しました。

また、2020年7月1日より、自筆証書遺言の保管制度が開始されました。法務局で自筆証書遺言を保管する制度で、遺言書の紛失等のリスクを回避することができます。また、法務局で保管された自筆証書遺言については、裁判所において自筆証書遺言の状態を確認する「検認」という手続を省略できるため、相続開始後の手間を大幅に省略できるようになりました。

 上記のように自筆証書遺言の作成を容易にする制度変更がありましたが、紛争予防の観点からは自筆証書遺言よりも公正証書遺言が優れていることに変わりはありません。今回の改正で遺言者の負担が軽減されることになったとはいえ、従前どおり、公正証書遺言による遺言作成を推奨します。

 

3 新制度②

2020年4月1日より、配偶者居住権という新しい権利が法律で認められるようになりました。配偶者居住権は、配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でもかまいません。)に居住していた場合で、一定の要件を充たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利であり、所有権よりも相続における評価額が低いとされています。

この権利が創設されたことにより、例えば遺言や遺産分割によって、配偶者が被相続人の持家に居住を継続しながら(配偶者居住権)、当該持家については長男が所有権を取得することができるようになります。そして、当該制度を利用することにより、持家での生活継続を希望する配偶者に金融資産を多く残すなどの柔軟な遺産の分割が可能になるなどの効果があります。

4 遺言の活用

遺言が存在しない場合の相続は、残された家族が話し合いによりどの財産を取得するかを話し合いにより決めますが(遺産分割協議)、遺言があれば、原則として遺言者の意思通りにどの財産をどの遺族に取得させるかを決定することができます。このような遺言を作成することは、①自己の意志の実現だけでなく、②残された家族間の紛争予防にもつながるもので非常に有用です。ただし、遺言ではいわゆる後継ぎ遺贈(ある財産を配偶者に相続させるだけでなく、配偶者が亡くなった際にその財産を長男に相続させるというような内容を定めるもの)を実現できません。後継ぎ遺贈を実現するには、次に述べる信託契約を利用する必要があります。

5 財産管理

 認知症などにより判断能力が失われると、保有している財産を売ったり貸したりといった法律行為を一切行うことができず、財産が凍結された状態となる危険があります。このような認知症対策として生前に利用できる法的手段には、信託契約(家族信託)や任意後見契約があります。例えば、信託契約を利用し、父(委託者兼受益者)所有の不動産について、長男(受託者)に管理・売却などの権利を与えることで、父親に認知症が発生しても、長男により不動産を売却できるという仕組みを作ることができます。また、任意後見契約では、父親に認知症が発生した際に、家族の誰かが父親の預貯金等の管理、年金の管理、税金や公共料金の支払い等々を代理で行うことも可能となります。

6 おわりに

弁護士業務には紛争解決だけでなく生前の相続対策や財産管理も含まれますので、お気軽にご相談ください。

(2020年7月)

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  • 本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。

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