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コラム

COLUMN

相続のお話し~寄与分について~

事業承継・相続・家族信託

2021.07.09

1. 寄与分とは

 ある方が遺言書を作成することなく亡くなった場合、その方の財産は、民法に従い、法定相続人が法定の割合通りに相続するのが原則です(法律上、亡くなった方を被相続人と呼びますので、本稿でも、亡くなった方のことを被相続人と記載します。)
 例えば、相続人として3人の子ABCがいる被相続人甲が亡くなった場合、甲の相続財産が9,000 万円であれば、ABCはそれぞれ3,000万円ずつ相続するのが原則です。
 しかし、仮に、Aが、被相続人甲と長年同居して甲を扶養し、甲が亡くなるまでの20年間、甲の生活費として毎月20万円を支出し続けており(合計4,800万円の支出)、そのため甲が自身の財産を費消することなく亡くなり、相続開始時点(亡くなった時点)で9,000万円の財産が残されていた場合、その9,000万円を、同居や生活費の支出をしていなかったBとCが、同居し生活費の支出をしていたAと同じく法定の割合で相続することには不公平を感じるのではないでしょうか。

 このような不公平を解消するため、Aについて法定相続分より多くの財産を相続することができる制度が、「寄与分」です。

2. 寄与分はどんな場合に認められるのか

⑴ 民法904条の2では、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と定められています。
 したがって、相続人の寄与行為が、①被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法によること、②特別の寄与であること、③寄与行為の結果、被相続人の財産の維持又は増加があったことが、寄与分が認められるための要件となります。


⑵ ①②については、被相続人との身分関係において通常期待されている程度を超えた特別の行為をしたことが必要になります。
 そのため、相続人である妻が専業主婦として家事・育児を担い、被相続人である夫を支えたとしても、通常期待されている夫婦扶助義務の程度を超えなければ(夫婦の扶助は通常期待されていることから、民法上も配偶者は必ず相続人となり、他の相続人よりも相続分が多くなっています。)寄与分はないと判断されることが多くなります。
 これに対し、相続人である妻が、単に夫婦間の協力扶助義務に基づき家事一切の処理、育児等に従事して相続財産の形成について一般的な寄与をしただけでなく、被相続人死亡までの約46年間、主体となって家業である農業に従事し、相続財産の大部分を占める農地の取得、維持について寄与をした事例では、妻に寄与分が認められました(福岡高等裁判所昭和52年6月21日決定)。なお、同決定では、16歳頃から被相続人死亡まで約27年間、給料等の報酬をうけることなく、家業の農業等に従事した長男についても、寄与分が認められています。
 また、近年ご両親の介護をされている方も増えているかと思いますが、その介護も、通常期待されている親族間の扶助義務を超える程度であることが、寄与分が認められるための要件となります。
 たとえば、他の相続人である兄弟からの懇請を受けて被相続人である親を引き取り、高齢のため次第に体が衰弱し入退院を繰り返すようになった親の日常の世話はもとより、入通院の付き添いなど同人の療養看護に努めた子(相続人)に寄与分を認めた事例があります(広島高等裁判所平成6年3月8日決定)。


⑶ ③については、相続人が無償で家業に従事したことにより生前の被相続人が従業員を雇う出費を免れたことや、相続人の療養看護により、生前の相続人が職業看護人に支払うべき報酬等の監護費用の出費を免れたという結果が必要になります。

⑷ そのほか、寄与は原則として無償でならないとされていますが、対価が寄与行為に比して不十分である場合には、寄与分が認められる可能性もあります。

3. 寄与分が認められた場合

⑴ 寄与分が認められた場合、先に挙げた民法904条の2第1項にしたがって、各相続人の相続分が決まります。
 すなわち、被相続人が相続開始時において有していた財産全額から寄与分額を控除した金額を相続財産とみなして各相続人の相続分を算定し、寄与相続人については、算定された相続分に寄与分額を加えた金額を寄与相続人の相続分となります。
 たとえば、冒頭の被相続人甲の相続についていえば、仮に、Aに寄与分3,000万円が認められた場合、甲が相続開始時において有していた9,000万円から寄与分3,000万円を控除した6,000万円が相続財産となり、ABCの3人の相続分は、それぞれ2,000万円ずつとなります。そして、Aについては、2,000万円に、寄与分3,000万円を加えた5,000万円が同人の相続分となります。


⑵ なお、寄与分よりも遺贈を優先させるため、寄与分は、被相続人が相続開始時に有していた財産の額から遺贈の額を控除した額を超えることができない(民法904条の2第3項)といった制限があります。

4. 寄与分が認められるためには

⑴ 相続人の一人が寄与分の主張をしても、相続人間での協議や調停により当該相続人に寄与分があるとの合意ができない場合は、裁判所が寄与分を認めるか否かの判断をしますが、寄与分は認められにくい傾向にあります。
 寄与分があるとの合意ができないということは、寄与行為をした相続人以外の相続人は寄与行為を認めないということです。この場合、寄与行為をした相続人が、自身の寄与行為が特別の寄与行為であること、寄与行為により被相続人の相続財産の維持形成に寄与したこと等の証拠を提出する必要があります。
 しかし、寄与行為は、長期かつ日常的に行われていたものですから、何か客観的な証拠を出せと言われても、被相続人が亡くなった後においては資料が何も無いことが多く、立証が困難であることが、寄与分が認められにくい理由の一つかと思います。


⑵ そこで、たとえば現在、他の兄弟とは異なりご両親の介護をしている方で、将来、ご両親の遺産分割協議の際に寄与分の主張を考えていらっしゃる場合は、自身が日常的にどのような介護をしているかを記録する日記を書いたり、ご両親のために支出した金銭やご両親から受け取った金銭の流れについて細かく家計簿をつけるなどして、客観的資料を残しておくことをご検討ください。

5. 最後に

 今回お話ししたように、寄与分とは、法律上、相続人間の不公平が生じないように調整する制度です。現在、遺産分割協議を進めているなかで、法定相続分通りに被相続人の財産を分割することに疑問を感じておられる方は、是非一度、ご相談にいらしてください。
 また、寄与分は、相続人自らが自身の貢献を寄与行為として主張することにより相続分を増やす方法ですが、生前の被相続人が、自ら遺言書を書くことによって、他の相続人よりも自分の世話をしてくれた相続人の相続分を多くすることができます。自分の死後、他の相続人よりも多く相続財産を取得してほしい相続人がいらっしゃる場合は、そのお気持ちを遺言書という形にした方がよいかと思います。もちろん、遺言書のご作成についてもお気軽にご相談ください。

(2018年1月執筆)

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