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コラム

COLUMN

相続(遺産分割)手続における特別受益

事業承継・相続・家族信託

2021.07.16

1 はじめに

最近は相続税の基礎控除が縮小されたことが話題になりましたが、相続問題には誰もがいつかは直面します。

今回は、相続の場面でよくトラブルになる「特別受益」について、お話しさせていただこうと思います。

2 特別受益?

特別受益の話の前提として遺産について説明しましょう。遺産とは、平たく言えば亡くなった方(法律用語では「被相続人」といいます。)が亡くなった時に持っていたすべての財産を指します。この遺産を、相続人で話し合って分けたり、遺言がある場合には遺言に従って分けたりすることが、相続(遺産分割)手続です。

ですが、たとえば兄弟の一人だけが亡くなったお父さんから家を買ってもらったり、お金をもらったりしていれば、他の兄弟から見ると、なんだか不公平ですよね。

そこで出てくるのが「特別受益」という考え方です。生前、被相続人から相続人が特別な贈与を受けた場合には、相続人間の衡平を図るため、その贈与分を「特別受益」とし、原則として被相続人が亡くなった時に持っていた財産に「特別受益」の価額を加えたものを「遺産」とすることになります。

特別受益は、被相続人が生きているときの贈与であればどんなに古いものでもよいので、何十年も昔の贈与であってもそれが特別な贈与であれば「特別受益」にあたります。

なお、特別受益の計算にあたっては、贈与された金銭等を使い果たしていたとしても贈与があった時のまま金銭等が残っているものとして計算し、また、その価値は亡くなった時点の評価で計算します。具体的には、10年前にもらったときには1000万円相当だった不動産が現在は2000万円相当になっているのであれば、2000万円の特別受益を受けたものとして計算します。

 3 なにが「特別」か

では、「特別な」贈与とはどういう贈与を指すのでしょうか。よくある例は、家を買ってもらうこと、又は家を買う時の頭金を出してもらうことです。この他にも、兄弟の一人が大学に進学したり留学したりした際に、親からその費用を出してもらうケースなども、特別な贈与として特別受益にあたると考えられています。

反対に、親族の扶養としてなされた仕送り等の贈与については、その金額や被相続人の資力にもよりますが、原則として特別な贈与にはあたらないと考えられています。

4 例外

ところで、この特別受益には例外があり、被相続人が「持ち戻し免除の意思表示」をした場合は、その贈与を遺産に含めて計算しないことになります。

「持ち戻し免除の意思表示」とは、被相続人が、問題となる贈与について、特別受益として遺産に含めて計算しなくても良いという意思を表示することです。自分の財産をどう処分するかは基本的にはその人の自由ですから、被相続人が遺産に含めて計算しなくても良いというのであれば、その意思を尊重しようという趣旨で設けられた例外になります。

なお、この持ち戻し免除の意思表示は、明示的にされた場合であっても黙示的にされた場合であっても良いとされています。

5 最後に

特別受益のあらましは以上のとおりですが、特別受益が問題となるのは、相続人間の誰か一人が優遇されている場面ですから、感情面でも相続人間の対立を生みやすい状況になります。相続人当事者間で解決することが難しい場合には、弁護士が間に入って交渉をしたり、家庭裁判所で調停をおこなったりといった方法で解決を目指す方法が有効ですので、図らずも相続問題でトラブルとなってしまった方は、一度当事務所までご相談いただければと思います。

また、このような相続人間の争いを未然に防ぐためには、被相続人が、亡くなる前に適切な遺言を残すことがもっとも大事になります。遺言が法的に有効と認められる要件は意外と複雑ですので、遺言作成をお考えの方につきましても、ぜひ一度当事務所までご相談ください。

(2015年7月執筆)

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