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コラム

COLUMN

親権者の指定と継続性の原則について

事業承継・相続・家族信託

2021.06.22

執筆:小栁 美佳

1 未成年子がいる夫婦が離婚する場合、父母の一方を子の親権者に指定しなければ離婚できません。離婚調停や、離婚訴訟においても父母のいずれが親権者となるかが争われた場合は、裁判所が、いずれが親権者に適しているかを判断するための調査をします。
 では、裁判所は、どんな基準で親権者の適格性を判断するのでしょうか。


2 法律に明確な基準はありませんが、裁判例からは、父母の事情(従前の養育実績、離婚後の監護補助者の有無等)、ある程度成長した子の場合は子の意思、兄弟不分離の原則等に加え、子の年齢によっては母性優先の原則があろうことも否めません。さらに、継続性の原則が重要な基準となります。そこで、今回は、継続性の原則についてお話しします。
 継続性の原則とは、別居夫婦の間の子が、一定期間一方の親と同居し、安定した生活を送っている場合は、その現状維持が子の福祉にとって利益となるという考え方です。


3 継続性の原則が表れている裁判例をご紹介します。妻が、離婚協議中に夫の同意なく2 歳の子を連れて別居し、別居後約4 か月間で8 回夫と子を面会させ、その後約半年間は電話交流をさせたものの、以降面会をさせず、2 年後に妻が離婚訴訟を提起したという事案で、一審から最高裁まで約5 年間争いが続きました。その間、小学校3 年生になった子は、母と暮らすことを望みました。

 この事案において、自身が親権者となった場合の別居親との面会交流について、夫は年100 回程度、妻は月に1 回程度と主張しましたが、裁判所は、妻を親権者と指定しました(一審(千葉家裁松戸支部平成28 年3 月29日判決)の指定は夫でしたが、控訴審(東京高裁平成29年1 月26 日判決)は妻を指定し、最高裁もこれを是認しました(最高裁平成29 年7 月12 日決定)。
 控訴審は、子の健全な成育に関する事情を総合考慮して、子の利益の観点から親権者を指定すべきであり、別居親との面会交流についての意向は、事情の一つに過ぎないし、他の諸事情より重要性が高いともいえないと述べました。そして、上記事案については、子の現在の監護養育状況や生育に大きな問題がなく、子の監護養育環境を変更しなければならない必要性もない等の理由から、妻を親権者に指定しました。

4 上記事案において、親権者の指定にあたって考慮された事情は面会交流以外にも多々ありますが、結局、子を連れて夫と別居し、子の環境を安定させたことが、妻側に有利に働いたことは否めません。このように、裁判所は継続性の原則を重視しますので、離婚協議中に配偶者が子を連れて別居を強行した場合、その配偶者よりも自身が親権者に適していると考える他方配偶者は、家庭裁判所に対し、親権者が決まるまでの間、自身を監護者に指定するよう求める調停もしくは審判等を申し立てるべきでしょう。
 また、継続性の原則を重視するとはいえ、裁判所は、原則として子の健全な育成のためには面会交流は不可欠と考えていますので、子を連れて別居した配偶者が、その後面会交流を拒否すれば、たとえ子の環境が安定していても、面会交流の拒否に相応の理由がなければ、監護権、親権の指定に不安要素となります。
 そこで、別居親から子の健全な育成を阻害する面会交流を求められた場合は、その求めを無視するのではなく、子と同居する親自らが家庭裁判所に面会交流調停を申し立て、面会交流が子の健全な育成を阻害する理由を主張し、面会交流方法を手紙等直接の接触がない間接面会に限ることや、第三者の同行など、子の健全な育成に配慮した面会交流とするための条件を協議することも考えられます。


5 上記の裁判例はあくまで一例であり、家族それぞれの事情があります。親権、監護権、面会交流など、お子さまをめぐって他方の親と紛争が生じそうなときは、一度、弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

(2018年8月執筆)

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