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コラム

COLUMN

電子契約の活用について

一般企業法務等

2021.06.22

執筆:弁護士 石井靖子

 皆様は、電子契約をご存知でしょうか。
 通常、契約を締結する際には、契約書を作成して、当事者が記名押印しますが、書面ではなく電子文書を用いて行う契約のことを電子契約といいます。最近ではインターネットに関する環境の整備や技術の進歩により、通常の商取引においても電子契約を利用する機会が増え始めています。


 電子文書による契約が法律的に認められるのか疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、契約は口頭でも成立しますので、電子文書による契約も有効です。


 書面による契約に比べ、電子契約にはいくつかのメリットがあります。
 まず、印紙が不要なことが挙げられます。金銭消費貸借契約書、取引の基本契約書、売買契約書、請負契約書などを作成する場合には、契約書に記載された金額に応じて収入印紙を貼付する必要がありますが、電子契約の場合は不要です。そのため、特に請負契約書の多い業種や、不動産業などの不動産譲渡及び賃借に関する契約の多い業種では、印紙が不要なことは大きなメリットとなるでしょう。


 また、書面で契約書を作成する場合、一方の当事者が印刷し、代表者印を押したうえで相手方に郵送し、相手方で代表者印を押して返送するというような処理が必要になりますが、電子契約であれば印刷や発送の費用は不要になりますし、押印処理も電子的に可能ですから、これらの様々なコスト削減や作業効率のメリットがあります。特に、国際契約の場合、外国に郵送し、それを
返送してもらうなど、契約書が完成するまでにかなりの時間を要することを考えると、メリットは大きいと思われます。
 実際に私が経験した仲裁事案では、いざ仲裁を申立てるという時点になって、署名済みの契約書が見つからなかったということがありました。郵送している途中で行方不明になってしまい、そのことに誰も気づかず、契約書は会社に保管されているものと思っていたのに、会社のどこを探してもみつからなかったということが現実にあったのです。電子契約であれば、そのような事態を防ぐこともできたでしょう。
 この他、書面の場合は保管スペースや保管コストが必要となり、過去の契約書を探し出すのにもかなりの労力と時間がかかりますが、電子文書の場合はインターネット上の作業により短時間で終わる上に、過去のデータも検索機能で簡単に見つけられます。
 最後に、電子契約では、電子文書のデータはサーバーに保管されます。そのため、火災の際の紛失といったリスクを避けることができます。また、管理を一元化することで改ざんを防ぐことも可能になります。
 上記に述べたとおり、メリットがたくさんある電子契約書ですが、実際に裁判になった場合に、証拠として提出できるのでしょうか。


 裁判に、電子文書を証拠として提出するためには、その文書の作成者とされる人(本人)が本人の意思で作成したことを証明する必要があります。
 この点、書面であれば、手書の署名や本人による押印があれば、本人による作成が推定されます。書面の場合の手書署名や押印に相当するものが、電子文書の場合は電子署名になります。
 書面の場合であれば、印鑑登録証明書を用いて印鑑を確認しますが、電子署名の場合は、署名対象の電子文書、電子署名及び公開鍵の3 点セットを用いて確認が行われます。したがって、この3 点セットを用いて、本人の意思で作成したことを証明できれば、電子契約書であっても裁判に証拠として提出することができます。


 電子契約は、大企業を中心に急速に普及し始めています。電子契約のメリットを考えると、今後ますます普及していくでしょう。皆様もこれを機に電子契約の導入をご検討されてはいかがでしょうか。

( 2019年1月執筆)

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