明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case003 敷金が返ってこない!?
~ 借りていた店舗を退去する際、敷引特約に困ったラーメン店店主のお話し ~

 大里さんは、住宅街にある2階建て建物の1階を店舗、2階を住居として賃借し、小さなラーメン屋を営んでいました。繁華街から離れた場所にあるのに、美味しいと評判で大人気となり、連日、長蛇の列ができていました。ところが、この人気が災いし、ご近所から行列や臭いに苦情が出るようになり、感情的な貼り紙をされたこともあって、移転の必要に迫られました。

 そこで、大里さんは、家賃は高くなりますが、思い切って商業地域へ移転することにし、偶然、良い出物があったため、新しい店舗の賃貸借契約を済ませました。

 しかし、店は繁盛していたものの、開店して3年とまだ日も浅く、貯金もなかったため、大里さんの資金繰りはぎりぎりで、借入や、それまでのお店の敷金300万円(賃料10カ月分)が返ってくることをあてにして、移転費用の支払いを計算していました。

 ところが、退去の時になって、大家さんから「退去時に敷金から賃料6カ月分を原状回復費用として差し引く約束になっており、120万円しか返せません。」と告げられました。大里さんは、資金繰りが狂ってしまい、驚いて私のところに相談に来られたのです。

 

 契約書を確認すると、確かに大家さんのいうような定めがありました。このような「敷引特約」は、よくあるものですが、特に居住用物件については、無効となることが多いのです。これは、賃借人が特別に物件を汚損した場合は別として、普通に使って汚損しただけでは、原状回復義務は負わないと考えられているからです。また、個人の住居の場合、消費者契約法なども適用されるので、敷引特約が有効になることは少ないのです。

 一方、テナントなどの営業用物件の場合は、住居の場合と考え方が違うため、敷引特約が有効とされる場合も増えてきます。具体的には、貸主と借主の関係や知識の有無、契約締結の経緯や契約時の説明の内容等によって、有効性が判断されることになります。

 大里さんの場合、店舗部分だけでなく居住用部分もあること、契約時に不動産業者が立ち会っていなかったこと、大里さんには不動産取引の経験がなく、契約書についての説明もほとんど受けていなかったことなどを証明し、大家さんと交渉しました。その結果、賃料1カ月分(30万円)だけを差し引き、残り270万円を取り戻すことができました。

 こうして、大里さんは、規模を3倍に広げた新店舗を無事に開店しました。早速私も食べに行きましたが、ラーメンの美味しさは、移転前と変わっていませんでした。新店舗も連日満員で、現在、2店舗目を計画中とのことです。

 

 このように、借主は、「敷引」と言われたとしても、十分交渉の余地がありますので、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。また、退去前には物件の様子を写真に撮るなどして、証拠を残しておきましょう。

 一方、貸主としては、「敷引」特約を有効にするためには、契約書作成段階から入念な準備が必要です。当事務所では、賃貸人からこのようなご相談があった場合、契約書の内容はもちろん、賃貸借事業全体のコンサルティングにも応じております。

 

 

[2011年3月 月刊はかた掲載] 

ご注意
本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。
本文中に登場する人名・店名については架空のものです。