明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case007 二つの大福餅

 市川さんは、先代が創業した和菓子店を継いではや30年になります。

 市川さんのお店は、会社組織にはしているものの、家族のように古くからいる職人さんと常連のお客様に親しまれ、安定した経営を続けていました。

 10年ほど前に、勤めを辞めて東京から帰ってきた次男の提案で、スーパーマーケットの経営も始めました。スーパーマーケットは、3店舗まで増え、最盛期には年商10億円もの規模になりました。

 しかし、数年前に大型チェーンの店舗が近隣地域に進出してきたこともあり、売上げは徐々に落ち、次第に赤字が増えていきました。

 しばらくは、和菓子店の利益で赤字を穴埋めできていましたが、赤字の拡大を止められず、結局は、会社全体としても赤字を出してしまいました。

 

 周りからは、赤字を解消するには、もう職人さんたちに辞めてもらうか、和菓子の材料の質を落とすしか方法がないと言われました。しかし、市川さんは、家族同然の職人さんを辞めさせたり、先代から受け継いだ味を落としたりする決断は到底できませんでした。人が変わっても材料が変わっても同じ味は出せないからです。それならば、いっそ廃業しようと思い、古くからの常連のお客様には、廃業するお詫びとともに事情を打ち明けました。すると、そのお客様が、「店をたたむ前にまだやることがあろうもん」と言われ、そのお客様から弁護士にちゃんと相談しなさいと叱られ、私の所にいらしたのです。

 

 市川さんの話を聞いてみると、和菓子店の売上は比較的安定しており、永年の固定客もいることから、和菓子店単体では持ち直す見込みは十分あると思われました。

 また、市川さんには、現在、菓子職人として県外で修行中の長男に和菓子店を継いでもらいたいという気持ちや、永年受け継がれた店を自分の代で終わらせたくない思いもありました。

 そこで、市川さんと話し合い、民事再生手続をとることにしました。金融機関や取引先と何度も話し合いを重ね、今後は、和菓子店の経営に特化し、長男がその経営を承継するのであれば、民事再生への理解を得られる見込みとなりました。赤字であったスーパーマーケットについては、3店舗とも売却し、従業員も引き継いでもらうことにしました。

 まず、市川さんは、修行中であった長男に戻ってきてもらい、これを機に長男へと経営のバトンタッチを行いました。また、スーパーマーケットについては、幸いにも大型チェーンに対抗しようとしていた中堅スーパーが従業員の引き継ぎも含めて、買取りを申し出てくれました。

 民事再生手続に入った後、一時的に客足が遠のきましたが、味を守り続けたこともあり、古くからの固定客は離れず、売上も持ち直すようになり、再建計画案も無事に裁判所で認められました。

 こうして、市川さんの和菓子屋さんは、無事に経営を立て直すことができたのです。

 

 その後しばらくして、市川さんのお店に立ち寄ってみたところ、一人のおばあさんが訪れました。そのおばあさんは、「いつもんとば、くれんね。」と言って、大福餅を2つ買い、そして、帰り際に、「ここんとじゃなかと、じいさんが文句いうけんね。」とおっしゃいました。市川さんに話を聞くと、亡くなったおじいさんが、この店の大福餅が好きだったそうで、今でも、仏前用として1つ、自分用に1つ、月命日には、いつも買って行かれるとのことでした。

 

 当事務所では、市川さんの強い希望であった先代からの味を守りぬいたように、事業承継やM&A、負債整理を含め、事業に関するご相談をお受けした場合、手続処理や契約書作成等だけでなく、事業全体のコンサルティングも行っております。

 

 

[2011年7月 月刊はかた掲載] 

ご注意
本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。
本文中に登場する人名・店名については架空のものです。