明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case011 お師匠さんのまなざし
~ 財産管理契約・任意後見契約・遺言書作成などにより、高齢者の晩年の人生を希望どおりに過ごしてもらう物語 ~

 弁護士の出番は、人が何かの事件に巻き込まれたときだけだと思われがちですが、トラブルが起こる前の予防的な管理業務も行っています。

 高齢者の財産管理などもそのひとつです。

 

 初めて小梅さんにお会いしたころ、小梅さんは70代後半でしたが、大変お元気で、ご自宅で一人暮らしをしながら三味線教室を開いていらっしゃいました。ご主人は10年ほど前に亡くなり、お子さんはおらず、親族は実の妹さんだけでした。しかし、妹さんとは理由があって30年以上、連絡をとりあっていないとのことでした。

 

 小梅さんは、今後の一人暮らしに不安を覚えたことや、ご自分の相続についてきちんとしておきたいとのお気持ちから、相談にみえられたのでした。

 お話を伺ったところ、小梅さんは、可能な限り、ご主人が残してくれた自宅で三味線教室を続け、自立した生活を送っていきたいが、必要であれば介護付き老人ホームなども考えなければいけないし、また、ご自分の財産は実の妹ではなく、娘のように思っているお弟子さんに全て残して、お弟子さんに三味線教室を続けてほしいとのことでした。なお、小梅さんの生活費は、遺族年金等と三味線教室の月謝を合わせた月額25万円程度の収入で賄われており、資産は約2000万円程度の価値があるご自宅の土地・建物とご主人が残してくれた1500万円程度の預貯金とのことでした。 

 小梅さんは、お一人で生活することにあまり不便を感じてはいなかったのですが、ご自宅である不動産や預貯金の管理にまつわる様々な契約・法的手続への対応や、身体が不自由になった際の施設入所などについて、一人で対応しなければならないことに大きな不安を感じておいでのようでした。

 

 小梅さんのご希望を叶えるためには、いくつかの制度を組み合わせて、不意の事態に準備する必要がありました。

 そこで、私は、まず、小梅さんとの間で財産管理に関する委任契約を締結することにしました。

 具体的には、将来、病院や施設への入所が必要になった場合の手続をする権限、不動産の売却をする権限、預貯金その他の金融資産を現金化する権限や、事実上の行為として郵便物の管理や自宅の家具等の財産の管理などを必要な範囲で弁護士に委任する内容です。

 もっとも、この契約は、小梅さんがお身体は不自由であっても、意思能力がしっかりあり、きちんとした判断ができることが前提で履行されるものです。認知症を発症するなどして意思能力が失われれば、弁護士といえども代理人としての行動はできなくなります。  

 そこで、次に、小梅さんが、万が一でも意思能力を失った場合に備えて任意後見契約を締結しました。

 そして、遺産については、遺言がなければ実の妹さんが法定相続されることになるので、お弟子さんに財産を残すために遺言書を作成し、お弟子さんに遺産の全てを死因贈与することにしました。なお、遺言書などで法定相続人に相続させないようになっていたとしても、一定の法定相続人には遺留分という相続財産を一定割合で取得する権利が認められています。しかし、相続人が兄弟姉妹である場合には遺留分がないので、小梅さんは事前に遺言書を作成することによって、遺産の行き先を希望どおりに決めることができたのです。

 

 その後、小梅さんは、若干、認知症の症状が見られるようになりましたが、事前に締結していた委任契約と任意後見契約の下、小梅さんの希望に沿った介護付き老人ホームへの入所手続を行うことができました。

 残念ながら小梅さんは入所後1年ほどして肺炎を患われ、お亡くなりになったのですが、ご希望どおり、ご自宅や残った預貯金は、お弟子さんに残すことが出来ました。

 

 お弟子さんは、遺言書の内容をご存じなかったようで、最初は大変驚いていらっしゃいましたが、私が【遺言執行者】として小梅さんからお預かりしたお手紙をお渡ししたところ、小梅さんのお気持ちを引き継いで三味線教室を続けていくことになりました。

 お弟子さんが三味線教室を始めたと聞いて、三味線教室になった元ご自宅に伺ったところ、練習場になった和室には、小梅さんとご主人の笑顔の写真が飾られていました。写真の小梅さんは、優しいまなざしで、お弟子さんを見守っているようでした。

 

 

[2011年11月 月刊はかた掲載] 

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