明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case013 伊達巻の味付け
~ お客様からのクレームに対する効果的な対応方法 ~

 吉田さんは、10年程前に和風居酒屋を開業して成功し、現在では、4店舗を経営しています。

 また、最近では、ラーメンや明太子、オリジナル調味料やおせち料理の通信販売など、事業を拡大しており、当事務所とも3年ほど前から顧問契約を締結していました。

 

 ある日、事務所にいらした吉田さんから、ぽつりと「最近、優秀なスタッフが、クレーム対応に疲れたから辞めたいと言い出したんです。」という言葉が漏れました。

 詳しくお聞きしてみると、ときどき、些細なことに大声でクレームをつけて長時間居座るとか、個人のスタッフを名指しして罵声を浴びせるといった来店客がおり、スタッフがすっかり怖がってしまっているとのことでした。また、通信販売部門でも、売上が伸びるに従い問い合わせなどの電話が増えるとともに、お叱りやクレームの電話も出てくるようになったそうです。中には、ほとんど嫌がらせのように延々としゃべり続けて電話を切らせてもらえないとか、大声で怒鳴る、担当者に個人攻撃をする、ささいなことで補償(金銭)を要求するといったクレームもあり、対応するスタッフがかかりきりになって他の仕事ができないばかりか、最近では怖がって電話に出ることすら躊躇してしまうというお話しでした。

 

 私は、事業関係の業務全般をお手伝いするにあたり、クレーム対応の指導を行うことも多かったため、早速、吉田さんのお店のクレーム対応体制を整備することにしました。

 

 まず、吉田さんとスタッフ数名に集まってもらい、当事務所で作成しているクレーム対応のマニュアルを使って、研修を行いました。研修では、クレームに対する基本的な考え方を説明した上で、クレーム対応には法的な裏付けに基づいた基本原則があり、場当たり的に対応すべきではないことや、金銭要求や業務妨害を主目的とするようなクレームについては、通常のクレームと対応方法を分けることなどを具体的に解説しました。

 そして、研修だけではなく、現場の担当者が委縮しないように、実際に困ったことがあったらすぐに担当者が当事務所に直接電話で相談できる体制を作りました。

 

 そんな折、通信販売のおせちについて「伊達巻の味をお菓子のように甘くしてほしい」という要望が寄せられました。

 対応したスタッフが、個別の要望に基づく味付けの変更はできないことを説明してお断りしたところ、相手方は激怒し、「俺の家の味を馬鹿にするのか」などと理不尽に怒鳴り、その後も執拗に電話を架け続けて、長時間話し続けて電話を切らせず、大声で怒鳴り続けるという状況になりました。

 担当者は、私と電話で逐次相談しながら、最初はきちんと相手方の話を聞き、次に味付けの個別変更ができない理由を説明し、店側の考え方を書面で送付して、最終的に事なきを得ることができました。

 その間、電話説明での言葉遣いから書面の内容まで、全て私と相談しながら進めたことや、いざとなれば弁護士が表に出て交渉をしてもらえるという安心感があったことなどから、自信を持って的確な対応ができ、精神的にも大きな負担を感じずに済んだそうです。

 

 一件が落着した後、吉田さんと一緒に御礼にみえた担当スタッフの方が、「クレームに悩んでもう辞めたいと言ったこともありましたが、おかげさまでクレーム対応には自信がつきました。もう大丈夫です。」とおっしゃったときの晴れ晴れとした笑顔が、とても印象的でした。

 その後も、吉田さんのお店に対するクレーム対応のお手伝いは継続的に行っていますが、担当者も、自信がついた上に、大きな問題になりそうな時はすぐに弁護士に相談できることもあり、最近ではあまり気に病むこともなくなったそうです。また、吉田さんも、クレーム対応に見通しが立ったことから、さらに通信販売部門を拡大する計画を立て、現在準備を進めているとのことでした。

 

 クレーム対応は、事業が大きくなるに従って避けて通れない問題です。しかも、単なる顧客満足の視点だけでなく、法的な視点も持った上で、きちんとした原則に基づいて行わないと、場当たり的な対応ではすぐに限界が来てしまいます。 

 事業の発展のために、このようなクレーム対応のお手伝いをすることも、弁護士として大変やりがいのある仕事だと思います。

 

 

[2012年2月 月刊はかた掲載] 

ご注意
本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。
本文中に登場する人名・店名については架空のものです。