明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case019 二人だけの秘密
~ 債権の回収・保全のために、債権譲渡担保制度を利用した中小企業の実例 ~

 「取引先の社長から、『お前は俺のことを信用できないのか。』と怒鳴られ、喧嘩別れのようになっているのですが、どうしたらいいでしょう。」

 如月さんは、ため息をつきながら当事務所に相談に来られました。

 

 如月さんの喧嘩相手は、とある地方で古くから製紙業を営むA社の社長でした。

 A社が作る紙は、用いる筆記具によって、様々な風合いが作り出され、根強いファンがいますが、手紙も本も電子化される昨今、会社の見通しは決して明るいとは言えません。数十年来、A社に原料等を卸している如月さんは、A社の商品の魅力は十分理解していましたが、一方で、今後もA社から確実に債権を回収することができるか、強い危機感を抱いていました。

 このため、如月さんは、気心の知れたA社の社長に自分の気持ちを正直に話してみようと思い、「このままA社と取引を継続してよいか悩んでいる。今後も取引を続けていくのであれば、何か担保になるようなものを提供してもらえないだろうか。」と持ちかけたところ、職人気質の社長の逆鱗に触れ、冒頭のような次第になったとのことでした。

 

 そこで、私たちは、何とかA社の社長の機嫌を損ねず、確実に如月さんの希望を叶える方法はないかと思い、A社の状況について詳しく調べていきましたが、A社には特にめぼしい財産はなく、また、社長に連帯保証人となるようお願いすることも現実的ではありませんでした。

 しかし、A社は、来年度以降、地元の学校に一定数の商品を納める契約が成立しており、毎月確実に一定の売買代金を得られる見込みであることが判明しました。そこで、私たちは、この売買代金債権を如月さんのA社に対する債権の担保にできないかと考えました。

 

 債権回収の方法として、先方が取引先に対して有する売掛金等を譲渡してもらうという方法が考えられます。しかし、この場合、将来毎月発生する売買代金債権を個別に譲渡するというのでは手続がかなり煩雑でした。しかも、通常、債権譲渡を完全に実効性のあるものとするためには、先方の取引先に債権譲渡の事実を通知するか、その取引先の承諾を得る必要があるため、どうしても債権譲渡の事実が先方の取引先に知られてしまいます。

 しかし、地元の人間が多数出入りする学校にA社の信用不安を示すような情報が知れてしまえば、たちまち地元でのA社の評判に傷がつくおそれがあり、そのような方法を社長が承諾するとは到底思えませんでしたし、如月さんもそのようなことは決して望んでいませんでした。

 

 そこで、私たちは、如月さんに対して、A社と「集合債権譲渡担保契約」という契約を締結し、その事実を法務局に登記することを提案しました。

 この方法によれば、今後毎月発生する売買代金債権をまとめて譲渡の対象とすることができる上、如月さんに対するA社の弁済が実際に滞った場合、学校に対して、登記をしたことを証する登記事項証明書の交付を伴う通知を行うことによって、学校から直接売買代金債権を回収することが可能となります。しかも、この方法によれば、ひとまず、学校に対して、債権譲渡の事実を通知する必要はありませんから、A社の信用不安が現実的なものとならない限り、A社の信用に傷が付くおそれはありません。 

 そこで、私たちが、如月さんの苦しい胸中とともに、この方法を提案すると、A社の社長も「如月さんの対応は、経営者として当然ですよね。痛いところを突かれて、つい感情的になってしまって申し訳ない。」と頭を掻きながら、快く契約に応じてくれました。

 

 数ヶ月後、如月さんの元には、例年どおり、A社特製の趣向を凝らした暑中見舞葉書が届けられたとお聞きし、盛夏の中、私たちもひとときの清涼感を覚えた次第でした。 

 

 

[2012年8月 月刊はかた掲載] 

ご注意
本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。
本文中に登場する人名・店名については架空のものです。