明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case028 遺言は残される人たちのために
~ 法的に無効な遺言を発見。残された親族はどうすれば?故人の意思はどこへ行く? ~

1 その遺言、本当に有効ですか?


 近年、文房具メーカーや出版社が「遺言書作成キット」や「エンディングノート」を発売するなど、「遺言ブーム」が来ているとの話も聞こえます。しかし、弁護士としては、「自分で作ったその遺言、本当に有効ですか?」と、ハラハラする面もあります。

 自筆の遺言書が、法律上も有効となるためには厳格な要件があるのです。全文を自筆して、日付を入れ、押印もして……等の条件が1つでも欠けると、故人の遺志が明確でも、法律上は無効な遺言です。

 

2 故人の遺志はどこへいく?


 では、無効になってしまった故人の遺志は、どうなってしまうのでしょうか?

 

 山田さんには、夫や子供、近しい親戚もなく、頼りにしていたのは、遠い親戚である山本さんだけでした。

 やがて山田さんが亡くなり、遺品の整理をしていた山本さんは、こんなメモ書きを見つけました。

 「私の遺産は、お世話になった山本さんにすべて差し上げます。お世話になった病院に100万円ほど寄付をし、残りは弥生ちゃんの学費に充ててください。今までありがとうございました。」

 調べてみると、山田さんには、年金などをこつこつとためた預金が800万円ほど残っていました。そこで、山本さんは、この預金を下ろして病院代や葬式代などの支払いを済ませ、100万円を病院に寄付して、残りは故人の意思を尊重し、山本さんの娘で、山田さんも孫のようにかわいがっていた17歳になる弥生ちゃんの進学費用に充てさせてもらおうと考えました。

 しかし、山田さんの遺言のように見えるこのメモ書きは、日付も押印もなく、残念ながら法律上は無効な遺言です。相続人でもない山本さんには、山田さんの遺産を処分する権限はありませんから、弥生ちゃんの学費どころか、預金を引き出して病院代や葬式代の支払いをすることも、病院への寄付もできません。

 このままでは、相続人のいない山田さんの遺産は、すべて国に帰属し、山田さんの遺志は果たされないことになります。

 

 困り果てた山本さんは、私のところに相談に来ました。

 そこで、私は、家庭裁判所に、山田さんの遺産を管理するための「相続財産管理人の選任」を申立てたうえで、「特別縁故者に対する相続財産分与の申立」を行うことにしました。家庭裁判所は、相続人がいない人の遺産を、特別の縁故があった人に与えることができるのです。

 当初、家庭裁判所は、「遠い親戚にすぎない山本さんに、山田さんとの特別の縁故があるのか。」と、慎重な態度でした。私は、山本さんと山田さんに親しい関係があったことを丁寧に資料化して立証し、何とか故人の遺志をかなえようとしました。このような活動が功を奏し、最終的には、家庭裁判所は、山本さんに遺産の大部分を与える決定をし、山田さんの遺志はかろうじて叶えられました。

 

3 残される人たちのために


 山田さんと山本さんの場合は、幸い故人の遺志が実現されましたが、遺言書が無効である場合、このようなケースはむしろ稀です。

 もし、山田さんに相続権のある親族がいて、自分に遺産を渡せと主張したら?

 もし、家庭裁判所が、山本さんと山田さんには特別の縁故はないと判断したら?

 いずれの場合も、山田さんの遺志を果たすことはできません。

 また、財産の処分について、故人が生前から相続人となる親族に語っていたり、無効な遺言書に書かれていたりして、故人の遺志は確かに示されているけれども、法律上有効な遺言書がない場合、相続争いが起こることがあります。故人の遺志を尊重したい人もいる一方、無効な遺言に従うべき道理はないと思う人もいるでしょう。対立が起こるのも、無理のないことです。

 

 残される親族のためにも、弁護士にご依頼いただいて、法律上有効な遺言書を作成することをお勧めします。特に、遺言書の形式は、自署による簡単な遺言ではなく、公証人役場において「公正証書遺言」として作成することが望ましいところです。

 また、遺言書には、遺言内容を間違いなく遂行し、残された人たちが無用な争いに巻き込まれることを防止するため、「遺言執行者」を定めることができます。遺言執行者を弁護士にしておけば、相続をめぐるトラブルは、ある程度防ぐことができます。

 ご自分の遺志をきちんと実現させるために、そして残される人たちのために、このあたりはしっかりと考えておく必要があります。

 

 

[2013年10月 月刊はかた掲載] 

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