明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case030 息子と時計
~ 破産手続きを建設的に利用して復活した商店街の時計屋さんの物語 ~

 大津さんが当事務所に来られたときは、50歳。

 地元の商店街で、先代から続く時計屋さんを個人で経営していました。しかし、いまどきは地元の商店街で時計を買う人も減り、売り上げは年々落ちていきました。

 しかし、良いこともありました。

 大手時計メーカーに勤める大津さんの28歳になる息子さんが、最近は地元の支店に転勤となり、店内のレイアウトや広告などについて、面白い提案をしてくれたりしていて、大津さんも息子さんと時計の話ができるのを、とても喜んでいました。

 

 そんなとき、隣の空き店舗に放火があり、ボヤで済んだのですが、店内の商品在庫などがすべて煙のせいで売り物にならなくなり、大きな損害を受けました。大津さんは、何とか銀行借入でこれを乗り切りましたが、以前からの借入もあったため、返済に行き詰るようになりました。最近では、元本の返済を猶予してもらっていたのですが、元本が払えるようになる目途はなく、利息の支払いすら危なくなっていました。

 

 大津さんは、「やっぱり店をたたんで破産するしかないでしょうか。」と私に尋ねました。

 私は、「早く楽になるなら、それも一つの方法ですが、何かほかにも方法があるはずですよ。」と大津さんを励まし、息子さんと三人で、色々と打開策を考えました。話をする中で、大津さんの息子さんが「いまどき、商店街で時計を売るのは限界かもしれませんね。実際、店に来るお客さんは、時計を買うのではなく、修理の依頼の方が多いですし。」と愚痴をこぼしました。私は、それはむしろ面白いと思い、詳しくお聞きしました。すると、大津さんは時計の修理の技術が確かで、自分のお店で売ったものではない時計や、古い時計などでも、自分で修理をしてしまえること、いまどき古い時計の修理まできちんとできる技術のある職人さんはずいぶん少なくなっていること、などがわかりました。

 そこで、私と大津さんの息子さんは、一計を案じました。

 

 私と息子さんは、「時計の病院」を作ることを考えました。

 それは、時計の販売を思い切って縮小し、在庫はほとんどおかないことにしました。かわりに、「どんな時計でも直せる!」「時計のことなら何でも相談してください!」といった表示をし、時計の修理や保守、調整などを受けることにしました。さらに、息子さんが得意のインターネットでウェブサイトを立ち上げ、「どんな時計でも修理する匠の店」「修理専門店」という切り口で広報をしていきました。息子さんのノウハウやセンスもあり、また、「古い形見の時計を修理したい」といった依頼が全国から来るようになり、在庫のない仕事ですから、少なくとも資金繰りを圧迫することはなく、単月の収支は黒字化することができました。

 

 次に私は、膨らみすぎた負債の整理に着手しました。

 まず、息子さんが新たに設立した会社に、大津さんがお店の権利とわずかな在庫を売却して、「時計の病院」の事業は、息子さんの会社の事業とし、大津さんは従業員という扱いで「給料」をもらう形としました。もちろん、その在庫と店の権利は、適切に評価をしてもらい、評価額である180万円は、息子さんに用意してもらいました。そして、そのお金で大津さん自身の破産手続を行い、負債をなくしました。

 

 形式的には、大津さん個人は自己破産しましたが、結果としては、大津さんのライフワークである「時計屋」は、あらたに「時計の病院」として生き残ることができました。

 大津さんも、以前は、一日に2~3人しかお客さんが来ない店でしたが、WEB経由が大半ではあるとしても、毎月何十件もの修理依頼が舞い込み、大忙しになりました。支出がほとんどない分、キャッシュフローは大幅に好転し、以前のようにお金の心配をすることもなくなりました。そして何より、たくさんの思い出が詰まった時計の修理を通じて、お客さんの人生にも触れ、「自分が頼られている」という充実感を持つこともできるようになりました。

 

 また、大津さんは、「時計の病院」を通じて息子さんとも色々な話をするようになり、息子さんの頼もしい面を見つけて、とても喜んでいました。最後の打ち合わせで、「本当に、時計屋をやってて、そしていい家族がいて、私は幸せです。いまから第二の人生だと思って、しっかり頑張ります。」と私に言った言葉が忘れられません。

 

 破産しないに越したことはありませんが、こういった建設的な、再スタートとしての「破産」のお手伝いができたことは、私の記憶に今も強く残っています。

 

 

[2014年2月 月刊はかた掲載] 

ご注意
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本文中に登場する人名・店名については架空のものです。