明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case031 海を越えたラーメン
~ 中小企業でありながら海外進出を果たしたラーメン屋さんの物語 ~

 本田さんは、私もよくいくラーメン屋のオーナーです。

 2年ほど前、私がいつものようにラーメンを食べていると、本田さんが「先生、海外に店を出すのは難しいんですか?」と私に話しかけてきました。本田さんのラーメン屋は、当時福岡県内に何店舗かを展開しており、売り上げも堅調でした。聞けば、お店に来る外国人のお客さんが増えてきて、しかもこういった外国人に評判がいいので、海外でも店を出せるんじゃないかと考えた、とのことでした。しかし、まだ出店国も検討していない状態で、全く具体的な計画ができていない状態でした。

 

 そこで、詳しくヒアリングをしたところ、本田さんのお店に来る外国人は、台湾や香港の人が多いということが分かりました。本田さんとしては中国出店も考えたのですが、上海万博の際に中国に出店して痛い目を見た友人の話を聞き、中国には及び腰になっていました。本田さんのお店は、経営は堅調とはいえ中小企業ですから、大きな失敗があったら、お店自体がつぶれてしまうかもしれません。そこで、私たちはなるべくリスクの低い方法を検討することにしました。

 

 こういった方針で出店国を相談し、現在来店者が多い台湾か香港にターゲットを絞りました。というのも、そうすれば、海外店舗で本田さんの店の味を知った顧客が日本の店舗にも訪れ、また日本の店舗の顧客が海外店舗の顧客になることも考えられたため、相乗効果が見込めると考えたのです。さらに、進出形態も、いきなり会社を作って独自の店舗を構えるのではなく、台湾の飲食業者に店舗を経営してもらい、本田さんは商標の使用料と技術指導料として、売上から一定の割合をもらう事にしました。こうすることで、出店コストを低く抑え、事業失敗の場合の負担を最小限に抑えることができるからです。もちろん、直接自分の店舗を出した方がリスクも儲けも大きいのですが、海外進出第一店目ということで、安全策を取ることにしたのです。

 

 日本のラーメンは、すでに台湾では人気が高かったため、本田さんの出店についての台湾側のビジネスパートナーも、比較的早く見つかりました。そこで、私は、本田さんに、このような場合に押えておかなければならない重要な点を説明し、共同事業契約書を作成しました。このときに私たちが注意を払ったのは、お店がうまく行ったときに、台湾のビジネスパートナーが本田さんを外して自分だけで経営をしようとすることを、効果的に防ぐ策を講じておくということでした。

 そこで、私と本田さんが相談した結果、①台湾での商標を本田さんが取得しておくこと、②技術指導はするものの、ラーメンに使う「かえし」は本田さんの管理する製造所で製造して提供することとし、「かえし」の作り方は教えないことにすること、③営業状況の報告義務や、店舗運営についての本田さんの指導に従う義務など、相手方の店舗をきちんと本田さんがコントロールできることを内容とする条項を契約書にしっかりと盛り込むこと、などの対策を講じました。

 

 店舗の準備は、台湾側のパートナーがしましたが、本田さんも何度となく台北を訪れ、店の内装からオペレーションマニュアルの作成まで、本当に苦労して形にしていきました。私も、何度か現地にもご一緒しましたし、事務所での打ち合わせは何十回やったかわかりません。

 

 このような苦労をしながら、ついに本田さんのラーメン店ののれんを掲げた「海外一号店」が、台北にオープンしました。

 そのときには、最初に本田さんから相談を受けてから、ちょうど1年が経っていました。私は、残念ながら所要があり、オープンの際には台北に行けなかったのですが、オープンの日の夜に本田さんから電話があり、「先生、お客さんが満員で、3時間待ちになってますよ!福岡じゃあ、3時間待ちなんてないですもんね。やっぱり、店出してよかったですよ!」と、嬉しそうに報告してくれたのが、とても印象的でした。

 

 その後、台湾の店舗はうまく行っており、店舗数も増えてきました。本田さんもしっかりと台湾側のビジネスパートナーから「技術指導料」「商標使用料」「かえしの代金」をもらっており、日本国内の店舗で得られる利益と比較しても、それほど遜色のない金額となりました。本田さんは、今度は、自分の出資で現地法人をつくり、自前の店舗で海外展開をしたいと考えています。幸い、台湾の成功で経済的基盤が強くなりましたから、私も、今度はこのような直接投資方式でよいのではないかと考えています。

 

 最近では、次の出店国をどこにするかという話題を肴に、本田さんとお酒を飲むのが楽しみです。

 

 

[2014年4月 月刊はかた掲載] 

ご注意
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本文中に登場する人名・店名については架空のものです。