明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case032 残業代の落とし穴
~ 時間外割増賃金を支給する上での注意点 ~

 吉田さんの会社は、創業10年の運送会社です。

 今年の初めに、その吉田さんから、会社の現在の残業代の扱いに不安があるから相談したいと連絡がありました。

 何でも、経営者仲間から、退職した元従業員の一人が、残業代の不払で労働基準監督署に駆け込んだため、監督署の大々的な調査や行政指導を受けることになり、対応に難渋したという話を聞いたそうで、不安に思って相談に来られたそうです。

 

 吉田さんの会社は、従業員17名で、従業員の士気も高い、元気な会社です。吉田さんは従業員からの人望も厚く、これまで、特に労働問題が起こったことはありませんでした。

 もっとも労働時間は長期化しがちで、労働時間も正確には管理できていませんでした。

 そのため、毎月正確に残業時間を計算することはできず、会社は、基本給とは別に、定額の「職務手当」を残業代として支給してきました。また、年末などの繁忙期には、労働時間がさらに長くなることから、特別手当を支給してきました。

 吉田さんは、従業員に対して、職務手当や特別手当が残業代の趣旨だと説明はしていましたが、就業規則には特に定めていませんでした。

 吉田さんの会社のように、労働時間が長期化しがちな会社は、定額の残業代を支給することが多いのですが、実は、法律上有効と認められるには、一定の要件を満たす必要があり、吉田さんの会社についても、職務手当や特別手当が、適法な残業代と認められない可能性がありました。

 また、時間管理をしていなかったために、会社全体として、無駄な残業をしないという意識に乏しいという問題点もありました。

 

 そこで、私は吉田さんとともに、会社の賃金制度の見直しに着手しました。

  私はまず、定額残業代の制度が法律上無効とされることのないよう、規程などを、しっかり見直しました。

 具体的には、手当の名称を「定額時間外手当」と改めて、就業規則にもその全額が残業代(時間外割増賃金)であることを明記し、給与明細書も、よりわかりやすく改めました。

 また、一年単位の変形労働時間制を導入することにして、特に労働時間が長期化しがちな年末を中心に、所定労働時間を多く割り振ることにしました。

 実は、一年単位の変形労働時間制は、時期によって労働時間の長短がある業種では、有効な制度で、多くの企業で導入されています。しかしながら、その運用上要請される法律上の要件を欠くために、無効とされる例も多いのです。

 吉田さんの会社においても、その点は十分留意してもらいました。

 さらに、タイムカードによる時間管理を導入して、従業員の時間外労働時間を毎月管理して、残業時間が長期化した月は、業務の効率性や業務量を見直すなどの措置を講ずることにしました。

 以上のような制度の見直しをした結果、法律上のリスクが無くなることはもとより、従業員の労働時間に対する意識も変わり、結果的に会社全体の残業時間も減らすことができたと、吉田さんには大変喜んでもらえました。

 

 残業代は、適法に対応しているつもりでも、意外と落とし穴が多く、結果的に不払いとなっていることも少なくありません。

 残業代の不払は、高額の遅延損害金や付加金(法律により未払額と同額の支払命令が課されることがある。)により予期せぬ高額の支払義務が課せられることがあります。

 さらに、厚生労働省がいわゆるブラック企業対策をその重点施策の一つに掲げ、今後、労働時間や残業代の不払いに対する行政庁の監督は強化されることが予想されます。

 従いまして、残業代への対応が十分でないと、企業は経営上非常に大きなリスクを抱えることとなります。

 

 当事務所では、残業代のその他の賃金制度上の問題について、経営者の皆様と一緒に考え、会社の実態に沿った最善の対応方法を御提案させていただいております。

 

 

[2014年6月 月刊はかた掲載] 

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