明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case034 遺産よりも大切なもの

予期せぬ便り

 山森良夫さんは、十二歳の頃、両親の離婚により、父親と離れて暮らすことになりました。

 父親は、良夫さんに「いつか必ず会いに来るから。」という言葉を残して去りました。良夫さんは、大好きだった父親の言葉を信じ、いつか会いに来てくれると信じて待ちつづけていましたが、結局、父親が良夫さんに会いに来ることはありませんでした。

 父親と別れてから三十年が経ったある日、良夫さんのもとに一通の手紙が届きました。差出人は父親の再婚相手だという山森時子さんという女性で、父親が一年ほど前に病死したこと、そして、父親の遺産の内容とその分割案が記されていました。

 

円満解決に向けて…

 良夫さんは、どうしてよいかわからず、弁護士に相談することにしました。

 私たちは、良夫さんから正式に依頼を受け、まずは戸籍謄本等を取り寄せ、相続人の調査を行いました。

 その結果、相続人は妻である時子さんと子である良夫さんの二人であることが判明しました。また、名寄帳や銀行取引履歴を取得し、相続財産の調査を行いました。そうしたところ、時子さんの手紙に記されていた財産以外にも、父親の死亡直前や直後に多額の預金が引き出されていることが判明しました。この時点で、私たちは、時子さんに対して少し不信感を抱き、調停の場で話合いを行うのが良いと考え、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てました。

 調停期日では、時子さんから、良夫さんの知らない三十年間にお父さんが必死に働いて財産を築いてきたこと、時子さんがお父さんを長年支えてきたこと、といった話を聞くことができました。

 良夫さんは、自分の知らない父親の長年の話を聞けたこと、そして、時子さんが父親に懸命に尽くし、最期を看取ってくれたことに感謝し、その点を考慮して、ご自分よりも時子さんの方がある程度多く遺産を受け取る内容で分割してもよいと言ってくれました。私は、これで早期に円満解決が図れるかもしれないと思いました。

 

遺言書の発見?

 ところが、次の調停期日において事態は急変しました。なんと、時子さんが遺品を整理していたところ、財産の全てを時子さんに相続させるという内容の父親の遺言書を発見したというのです。

 しかし、私は、今頃になって遺言書が発見されるという経緯の不自然さや、時子さんへの不信感もあり、遺言書が果たして本物なのか、大きな疑問をもちました。この遺言書は、父親が死亡する約三年前に書かれたことになっていましたが、それにしては紙(便箋)がとても新しいように思われました。私は、その便箋の隅っこに記載されていたメーカーと製品名に気が付いたので、メーカーに問い合わせることにしました。すると、その便箋は父親が亡くなった年に新製品として発売されたものであることが判明し、死亡の三年前の時点でこの遺言書を書くことは不可能であることが明らかになりました。もう、こうなれば全面戦争です。

 私は、良夫さんに事情を話し、この遺言書が無効であることの確認を求める遺言無効確認訴訟と、時子さんが遺言書を偽造したことにより相続欠格にあたるとして、相続権不存在確認訴訟を提起することにしました。

 訴訟においては、使われた便箋の発売時期が決定打となり、遺言書は無効であると認められました。また、時子さんは遺言書を偽造したとして、相続権も認められなくなりました。その結果、遺産につき相続権を有するのは、良夫さんだけとなったので、良夫さんがその全財産を相続することになり、事件は無事終了しました。

 

遺産よりも大切なもの

 良夫さんからは、「先生に依頼していなければ、生前の父の話を聞くことすらできませんでした。本当にありがとうございました。」という感謝の言葉をいただきました。良夫さんは、結果的に父親の全財産を相続することになりましたが、それよりも、自分と離れていた時の父親の姿を知ることができた方が嬉しかったというのです。

 遺産よりも大切なものもある-法律の専門家としての知識を深めていくのは当然ですが、依頼者の真の要望に応えることの大切さをも学ばせてもらった事件でした。

 

[2014年10月 月刊はかた掲載] 

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