明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case014 作れなかった花束
~ 交通事故により傷害を負った個人事業主が、適切な休業損害の支払を受けるためのポイント ~

 青木さんは、個人で生花店を営んでいます。

 開業当初は経営も大変だったそうですが、花の手入れのアドバイスなどの丁寧な接客や、花束やアレンジメントのセンスの良さもあり、徐々に繁盛するようになっていきました。

 

 ある年の2月下旬、青木さんは、仕事を終えて自動車で帰宅中、赤信号を見落として交差点に進入してきた自動車に衝突される事故に遭ってしまいました。

 青木さんは、事故現場から救急車で病院に運ばれ、左足の骨折などと診断され、そのまま入院することになりました。1か月後にようやく退院できたものの、その後も通院治療やリハビリを続ける必要があり、すぐに仕事を始めることはできませんでした。それでも、その年の6月ころから少しずつ仕事への復帰を始めました。そして、事故から1年経った時点で、症状固定となりましたが、骨折した左足の痛みは残ってしまい、後遺障害12級と認定されました。

 その後、加害者側の保険会社から、青木さんに示談の提案がありました。

 青木さんは、保険会社の提示額が思ったよりも低かったこと、とはいえ専門的な知識もなく保険会社とどうやって交渉すればいいのか分からず、ご友人のアドバイスもあって、当事務所に相談にいらしたのでした。

 

 保険会社の示談案を確認したところ、休業損害(事故によるけがのために仕事ができなかったことによる損害)、後遺障害逸失利益(後遺障害のため今後の就労に支障が出ることの損害)、入通院にともなう慰謝料、後遺障害にともなう慰謝料などの金額が低すぎるという印象でした。

 青木さんから詳しく話を聞いてみると、安定した経営が数年続いており、確定申告でもきちんと黒字申告をしていました。ただ、保険会社は、確定申告の所得額(売上収入から経費を差し引いた額)のみを基準として、休業損害や逸失利益を計算していました。このような計算方法では、例えば休業期間中にも発生する店舗の賃料等の固定経費の支出を補うことはできません。

 また、青木さんが事故にあった2月下旬以降は、3月から4月にかけては卒業式、送別会、謝恩会、入学式、さらには5月には母の日のカーネーションなど、お祝い用の花束やアレンジメントなどの注文が多く見込める時期でした。しかし、この事故のせいで、青木さんは、在庫や注文済みの花やグリーンをダメにしてしまったほか、予約を受けていた花束などを作ることができず、すべてキャンセルしなければなりませんでした。

 青木さんは、お祝いの席に彩りを添える花束を予約してくださったお客様に、病院からキャンセルの電話をしなければならず、非常に辛い思いをしました。また、利益の中からコツコツ蓄えてきた貯金は休業中の店の家賃などの経費に消えてしまい、それでも不足した運転資金は独立前に修行していた生花店のご主人から借りているため、きちんと賠償をしてもらって、返済しなければならないということでした。

 

 そこで、私は、青木さんが実際に受けた被害に見合う適正な損害賠償を受けられるように、加害者保険会社と交渉を始めました。

 私は、青木さんの確定申告書類やその他の帳簿等をしっかりとチェックしたうえで、休業損害や逸失利益を算定するにあたっては,所得額だけでなく店舗の賃料等の固定経費を上乗せした金額を基礎にすべきである、と必要な資料を添えて主張しました。また、休業損害については、廃棄せざるを得なくなった在庫分や、多くの需要が見込める時期に営業ができなかったことによる損害も考慮するように主張しました。さらに、慰謝料についても、保険会社の基準ではなく、弁護士や裁判所が使う基準に従って算定するよう求めました。

 その結果、最終的には、当初保険会社が青木さんに提示していた金額の3倍近い金額で示談することができました。

 

 保険会社から示談金が支払われた後、青木さんは、きれいなフラワーアレンジメントを持って、事務所に来てくださいました。示談金の入金が確認できたその日のうちに、修行先に返済のお金を持っていくことができて安心しましたということでした。

 その後、青木さんのお店では、フラワーアレンジメントの教室なども開くようになり、中々好評のようです。

 

 交通事故被害者は、事故によって、突然、身体的・精神的・経済的苦痛に襲われることになります。また、専門知識のない被害者が、保険会社と交渉をする不安も抱えてしまいます。弁護士が代理人として交渉することにより、被害者が適正な賠償を受けられ、また、保険会社と交渉すること自体の煩わしさ・不安を取り除くことができるよう、これからもお手伝いしていきたいと考えています。

 

 

[2012年3月 月刊はかた掲載] 

ご注意
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本文中に登場する人名・店名については架空のものです。