明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case016 腹心との決別
~ 問題のある従業員について、厳格な法律上の定めを守りながら、効果的に対処したお話し ~

 後藤さんは、福岡市内で中古車販売店を経営しており、業績が好調だったため、3年程前に北九州市にも出店しました。

 ところが北九州店の業績は芳しくなく、その原因は、後藤さんが目をかけてかわいがり、北九州店副店長に抜擢したA氏にありました。A氏は、普段福岡にいる後藤さんの目が届かないのをいいことに、無断欠勤や勝手な遅刻早退を繰り返し、さらには、独善的な業務指示で従業員の士気を下げていました。後藤さんは、A氏が後藤さんにはいい顔をしながら、裏では色々と問題があったことを、最近になって他の部下から聞かされました。

 

 相談に来られた後藤さんは、「先生、もうAを解雇しようと思うんです。1ヶ月前に解雇予告をすれば、解雇できるんですよね。」とおっしゃいました。

 このような問題は、他の従業員の勤務態度にも波及するので、人事管理上、厳正に対処することが重要です。もっとも、労働者の解雇は、法令等で厳しく制限されており、解雇予告さえすれば解雇できるというのは後藤さんの誤解です。今回も即時解雇は難しそうでした。

 

 そこで、私は、就業規則に定めた懲戒処分を段階的に実施するよう提案しました。懲戒処分にも法令や判例で制限が設けられていますが、適法性を確保しながら実施できるよう、具体的にアドバイスを行いました。

 まず、A氏に対し、減給や出勤停止命令に付しましたが、A氏の態度は改まりませんでした。

 後藤さんは、「先生、もうAを解雇しましょう。」とかんかんの様子でしたが、私は、解雇という最後の手段に出る前にA氏にもう一度チャンスを与えるために、A氏を後藤さんのいる福岡店に異動させ、後藤さんの下で管理職として再度指導・教育することを提案しました。後藤さんも、最後のチャンスを与えたいと私の提案を受け入れてくれました。

 ところが、配置転換命令を出しても、A氏は福岡店に出勤しませんでした。後藤さんは随分説得しましたが、結局A氏は従わず、最終的には、北九州店にも出てこなくなりました。

 

 こうしてA氏の職務懈怠には改善の余地のないことが明らかとなり、また、会社の重要な業務命令を無視する態度は、企業秩序維持という観点から見過ごせませんでした。A氏の弁解を聞くために、会社に呼び出しましたが、A氏はそれにも応じませんでした。

 そこで、後藤さんとしても不本意だったようですが、やむなくA氏を懲戒解雇とすることにしました。

 

 その後、A氏が不当解雇だと申し出たようで、労働基準監督署から会社に照会がありました。後藤さんは当初慌てていましたが、私が代理人となり、会社のA氏への一連の対応を、その都度作成していた記録に基づき説明したところ、特にそれ以上の追及はありませんでした。その後さらに、A氏は、解雇の効力を争う訴訟を起こしましたが、裁判所は、会社の対応の経緯を詳細に認定し、結果として解雇の有効性を認め、会社が勝訴しました。

 

 この件は、無事解決したとはいえ、後藤さんにとって、よい気持ちのするものではありませんでした。

 ただ、よかったと思うこともありました。

 A氏の下では、従業員は、やる気があっても報われず、辛い思いをしていました。しかし、会社がしっかりと対処したことが他の従業員の励みになったようで、若い従業員が非常に頑張るようになり、北九州店の雰囲気が明るくなったとのことでした。業績も、若い従業員が現場を引っ張り、上向きつつあるそうです。

 かつての腹心とは決別することとなりましたが、後藤さんは、今は他の従業員の成長が嬉しいと話してくれました。

 

 

[2012年5月 月刊はかた掲載] 

ご注意
本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。
本文中に登場する人名・店名については架空のものです。