明倫国際法律事務所 Meilin International Law Firm

明倫弁護士事件簿 - case017 Bar愛好家の苦悩
~ 友人、知人に出資する際には株主間契約を結んでおくことをお忘れなく ~

 いつも常連客でにぎわっているオーセンティックバーの「Bar Hakata」。

 ここの常連の日高さんは、バーテンダーの中村さんが作るカクテルを目当てに、かれこれ10年もこの店に通っていました。

 あるとき中村さんが独立して自分のバーを持つということで、日高さんに、独立資金の一部を出資してもらえないかと相談を持ちかけてきたそうです。中村さんの作るカクテルは絶妙な味で話もうまく、気遣いもできる中村さんのやるバーは絶対に繁盛すると確信した日高さんは、中村さんのバーに投資することにしました。

 

 そんな日高さんが相談に来られたのは、中村さんがバーを始めて5年が経過しようとしていたころでした。

 「配当がもらえない」というのが相談内容でした。

 中村さんは、自分のバーを開くにあたって株式会社を作り、その株主としての出資を日高さんに持ちかけたようで、Bar Hakataで同じく中村さんをひいきにしていたほかのお客さんとも一緒に、その会社に投資をしたとのことでした。中村さんのバーは初年度から経営は順調で、今ではかなりの黒字経営のようですが、今後事業を拡大していくつもりだから利益は内部留保にまわしたいので、配当はもう少し待ってくれ、と言われたとのことでした。株式会社の配当は、株主総会で決議されない限りは受け取れないものですが、その会社は中村さんが株の過半数をもっているので、株主総会では配当決議はしてくれないとのことです。

 投資をする際に配当はどういう方針でやるかとか、そもそも中村さんの給与水準をどれくらいにするかとかの取り決めはしていたのですか、と聞くと、何となくこうするつもりであるという話は聞いていたけれども、契約書にするとか書面に残すようなことはしていないとのことでした。

 

 会社というのは、基本的には過半数の議決権を保有していれば、ほとんど何でも思い通りに決められます。したがって会社に少数株主として投資する場合には、過半数を握っている筆頭株主に好き勝手されないように、株主間契約という契約で、筆頭株主が単独でできることとできないことの仕分けや、法律では守られない少数株主の権利を定めて、後日紛争とならないように備えること(=予防法務)がきわめて重要になります。本件でも、事前に株主間契約で手当てをしておけば簡単にこのような事態は避けられるのですが、実際このような状態になってしまった後では、できることにも限りがあり、配当を受け取るのはかなり難しくなってしまいます。

 本件では、幸い投資した事業もうまくいっており、理論的には株式価値が上昇するという形では日高さんも利益を得ているので、中村さんとももめているという状態ではなかったのですが、損をしていた時はもっと大変です。代表者が身を粉にして頑張ってそれでもだめだったというならまだあきらめもつきますが、最初のうちは儲かっていて、代表者だけは会社のお金を使って豪遊していたけれども配当はまったく受けられず、その後放漫経営がたたって倒産といった場面では、泣くに泣けません。

 

 そこで、難しいのは承知で中村さんと交渉するわけですが、中村さんにとって日高さんは、株主であると同時に大事なお客さんでもあり、紛争になることは絶対に避けたいという意向をお持ちでした。この点をうまく利用して粘り強く交渉した結果、現在留保されている利益の1割について現時点で配当するとともに、今回改めて株主間契約を締結し、中村さんの報酬の設定に関する条項や今後の配当方針のほか、今後株主は会社に対して自由に株式の買取請求ができるといった条項まで定めることができました。

 

 このように株主としての日高さんは望む通りの結果が得られました。

 しかし、日高さんと中村さんの関係は、紛争までには至っていないとはいえ、まったくこれまで通りというわけにはやはりいきませんでした。中村さんのバーに足を運ぶ頻度がだんだん低くなり、バー愛好家としての日高さんは、気軽に顔を出せるなじみのバーを1つ失う結果となりました。

 

 問題が起きてから解決するよりは、起きること自体を予防する方が重要であり、かつそれがもっとも利益になるというのは病気と一緒ですね。

 病気にかかってから病院に行くよりも、そもそも病気にならないために予防接種や人間ドックを受ける。皆様も、何か問題が起きてからではなく、問題が起きないようにするために、家を買う、遺言を残す、ビジネスを始める、投資をするといった重要な決断をする時には、その前にぜひ一度ご相談ください。

 

 

 

[2012年6月 月刊はかた掲載] 

ご注意
本原稿は、過去に執筆した時点での法律や判例に基づいておりますので、その後法令や判例が変更されたものがあります。記事内容の現時点での法的正確性は保証されておりませんのでご注意ください。
本文中に登場する人名・店名については架空のものです。