【日本】知的財産の差押え(強制執行) (2021.4.1up)



Q 特許、商標、著作権等に対する強制執行は、どのように行えばよいでしょうか。

 


A これらの知的財産権に対する強制執行は、これらの差押えを行った後、譲渡命令か売却命令のいずれかの方法により換価手続を行うことになります。換価手続については、他の財産に関するものよりも時間と費用を要することが多い点は要注意です。



1 知的財産権に対する強制執行の方法


 不動産、船舶、動産及び債権以外の財産権(民事執行法167条所定の「その他の財産権」)に対する強制執行については、特別の定めがあるもののほか、債権執行の例によるとされています。
 「その他の財産権」には、特許権、商標権、著作権等の知的財産権が含まれます。知的財産権に対する強制執行については、それほど事例が多いわけではなく、なじみが薄いと思われますので、そのポイントをご紹介いたします。

 

 

2 差押え可能な知的財産権の種類


 知的財産権に対して強制執行を行うためには、それが執行適格性を有すること、すなわち、それ自体独立した財産的価値を有し、かつ、換価可能な財産権であることが求められます。
 特許権、商標権、著作権等は、換価可能な財産権ですから、強制執行の対象となります。他方、著作者の有する著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)については、一身専属性を有しており譲渡できない権利ですから、強制執行の対象とはならないとされています。
 特許権の登録前であっても、出願人は特許を受ける権利を有しますが(特許法33条)、この執行適格性の有無については見解が分かれています。現に特許を受ける権利が取引されている一方、民事執行法上、特許を受ける権利に対する執行が禁止されていないこと等から、執行適格性は認められるべきであるとする見解が有力です。商標登録出願により生じた権利(商標法13条2項)についても、同様に考えられます。
 なお、知的財産権が共有に係る場合は、持分の自由譲渡による共有者の変更が禁じられており(特許法73条1項等)、他の共有者の同意がなければ換価できませんが、執行適格は否定されず、差押えまでは可能とされています。実務上は、差押命令の申立てに際して他の共有者の承諾書の提出が求められ、差押命令の発令時までにこの承諾書を提出できない場合には換価手続の申立てまでに承諾書を提出する旨の上申書の提出を求められます。

 

 

3 知的財産権の差押手続


 上記のとおり、知的財産権に対する強制執行は、債権執行の例によるものとされます。そのため、差押命令の申立書は、当事者目録や差し押さえる権利に関する目録(特許権目録等)を用いて作成することになります。
当事者目録には、債権者、債務者をまず記載します。第三債務者の記載は、特許権、商標権、著作権等については、第三債務者が存在しないので、不要ですが、これらの権利の実施権や使用権については、第三債務者に準ずる者として、特許権者等を記載すべきであるとされています。
 特許権目録等には、特許権等の特定のため、登録番号、出願年月日、出願番号、名称、登録年月日等を記載することになります。実施権や使用権の場合には、これらに加え、受付年月日、原因、受付番号、実施権者、範囲、登録年月日等を記載します。
 なお、執行裁判所として管轄を有するのは、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所となりますが、この普通裁判籍がないときは、知的財産権が権利の移転に登録を要するものであることから、その登録の地(特許庁長官、文化庁長官の存する東京都)を管轄する東京地方裁判所となります。
 特許権、商標権及びこれらの実施権や使用権並びに著作権等は、権利移転の効力要件又は対抗要件として登録を要するものですので、これらの権利に対する強制執行は、登録されている限り、特許原簿の謄本等の登録事項を証明した文書を添付しなければなりません(民事執行規則149条の2、146条2項)。


 差押命令が発令されると、債権執行と同様に、権利の差押えとともに債務者に対して差し押えた権利について移転等一切の処分が禁止され、差押えの登録が行われます。

 差押えの効力は、権利の処分の制限につき登録が効力要件となる特許権、商標権などの工業所有権については登録時に、登録が効力要件ではなく対抗要件にとどまる著作権などについては第三債務者(いない場合は債務者)への差押命令の送達時か差押えの登録時のいずれか早い時点に、特許を受ける権利等については差押命令の債務者への送達時に、それぞれ発生することになります。
 もっとも、差押命令によっても当該権利の通常の利用、管理は制限されませんので、債務者が自らその特許発明を実施等することはできます。
 なお、特許権等に実施権が設定されている場合等には、その対価としての実施料請求権に対して強制執行を行うことも可能ですが、これは通常の金銭債権に対する執行により行うことになります。

 

 

4 知的財産権の換価手続


 知的財産の換価手続としては、ほとんどの場合、譲渡命令か売却命令が用いられています。
 譲渡命令とは、差押債権等を執行裁判所が定めた価額で請求債権及び執行費用の支払いに代えて差押債権者に譲渡する命令をいいます。転付命令と同様、差押債権者が差押債権等をいわば代物弁済により取得して独占的に満足を得ることになるため、譲渡命令には転付命令に関する規定が準用されています(民事執行法161条7項)。
 これに対して、売却命令は、取立てに代えて執行裁判所の定める方法により差押債権等の売却を執行官に命ずる命令で、通常は競り売りのかたちで売却手続が行われ、売得金の中から執行裁判所が配当を行うものをいいます。差押えの競合があっても命令の効力が失われず、また、買受希望者の競争により価額が形成される点で、譲渡命令と異なります。

 なお、譲渡命令・売却命令の発令に当たっては、評価人を選任してその知的財産権の価値を評価することになりますが、知的財産は多種多様であって専門性も極めて高度なため、実務上は日本弁理士会へ評価人の推薦依頼をかけ、選任された評価人によって評価額の算定が行われることになっています。評価料だけで数十万円以上、評価期間としては2か月程度を要することが多いようです。

 譲渡命令が確定し、又は、売却命令によって権利が売却されたときは、その権利移転等の登録が行われることとなります。



(2021.4.1up)