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コラム

COLUMN

モラルの問題だけにとどまらないSNSの問題

コンプライアンス・内部統制

2021.08.10

執筆:弁護士 早崎裕子

1. 2020年は「第5世代移動通信システム」、いわゆる「5G」元年であり、3月からはNTTドコモなどの通信大手が5Gの本格的な商用サービスを開始しました。「5G」はこれまで以上に超高速・大容量・超低遅延・同時多数接続を可能とするもので、情報通信ネットワークは、これまで以上に加速度的に日本全国に浸透していくと思われます。

2. SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が社会に普及し始めた1995年頃は、電子メールやホームページの閲覧が中心で、その利用目的は情報の収集でした。しかし、今では、誰もがスマホを持ち、LINE、Facebook、Twitter等を使いこなして、個人が積極的に情報を発信する時代となりました。

 誰もが手軽に情報発信ができるSNSは、現代社会に欠かせない極めて便利な道具ですが、使い方を誤ると大きな禍を引き起こすこととなります。

3. SNS上での誹謗中傷行為に多くの法的問題があるということは、今日徐々に社会の共通認識になってきていますが、その被害が一向に収まらないのは、SNS上で誹謗中傷する側が、正義感や義憤に駆られて行動していたり、気軽に発言をしていたりすることが多く、当の本人に全く罪の認識がないことが原因ではないかと思われます。

4. 昨年は、日本全国で毎日新型コロナウイルスの新規感染者数が報道される中、岩手県では他県と比べて随分後になるまで感染者が確認されず、県民の中に「一人目を絶対に出したくない。」という過剰反応が生じました。このため、同県で初めて感染者が確認されるや、SNS上では感染者がどこの誰かということについて、真偽不明の情報がツイートされ、それが瞬く間にリツイートされて拡散し、県知事や警察が、慌てて「軽率なツイートやリツイートは名誉毀損などの犯罪行為に当たる。」という注意喚起をしなければならない事態となりました。

5. 実際に、無責任なツイートやリツイートは、名誉毀損として民事上の損害賠償責任の対象となるだけではなく、刑事責任を問われる事態となっています。

 2017年に、東名高速道路で一家4人が乗るワゴン車を「あおり運転」で停車させ、大型トラックによる追突事故で夫婦を死なせたという事件は、国民の大きな反感を買い、この事件を契機に道路交通法が改正されて、令和2(2020)年6月30日からあおり運転は「妨害運転罪」として刑事処罰の対象となりました。

 この事件では、被疑者の姓と同じ名称の福岡県内の会社が被疑者の勤務先だというデマがSNS上で広まり、そのデマを信じた人たちから、この会社の元に100件を超える誹謗中傷の電話が寄せられ、会社は大きな被害を受けました。福岡県警は、このデマの拡散に関与した11人を書類送検し、福岡地検は当初全員を不起訴処分としましたが、不起訴処分は不当だとした検察審査会の議決を経て、ほとんどの被疑者が起訴される事態となっています。

 当該事件の被疑者は、「もし、自分の家族が同じ目に遭ったらと許せないと思った。」、「ネット上の噂は本当だと信じた。」、「自分はデマに流されることはないと思った。」などという理由から、行為に及んでしまったというもので、被害にあった会社の名誉を傷つけるつもりはなかったと弁解していますが、軽率な行動が招いた結果は甚大です。

 また、名誉毀損罪は流した情報がデマではなく、真実だったとしても成立するということに注意が必要です。

6. SNS上のトラブルは、「知ってはいるけれど、自分には関係ない。」と思いがちです。ですが、手軽に利用できるが故に、落とし穴もたくさんあり、誰もが加害者になる可能性があるということを十分意識する必要があります。

(2021年1月 弁護士 早崎裕子)

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