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化粧品を日本からベトナムへ輸入する手続について

国際ビジネス

2021.08.04

執筆:弁護士 原智輝

ベトナムでは、輸入品目規制として大きく3種類の区分があります。輸入禁止物品は、その名称のとおり、品目の輸入を禁じる規制です。特定商品指定品目は、一定の資格などを保有する輸入者に限り、指定品目を輸入できる規制となり、その他条件付輸入品目として、輸入を行う場合には、事前の許可手続などを要する規制があります。化粧品輸入については、この3類型目の事前の許可手続が必要な品目となっており、化粧品の場合には、成分情報開示申請手続が必要となります。成分情報開示申請手続を管轄する省庁は、保健省になります。

ベトナムは、正式名称をベトナム社会主義共和国といい、北部のハノイに首都があり、人口は約9700万人(2020年4月)です。ベトナム外国投資庁(Foreign Investment Agency: FIA)によれば、日本は国・地域別の対内直接投資において2017年、2018年に1位となっており、日系企業からも非常に注目を浴びていることが窺われます。

 ベトナムの法体系は、英米のような判例法ではなく、日本に近い制定法を中心とする大陸法系に属していると整理できます。また、憲法が最上位の法規範として位置づけられており、次いで国会の制定する法律、内閣が定める政令、各省庁等が定める通達という日本類似の構造が採られています。また、ベトナムにおいて法令等を参照する場合、法令のコードのようなものを併記することが多く、例えば2015年制定のベトナム民法には「No. 91/2015/QH13」という表記がなされています。まず、法律に付される「QH」の表記は国会を意味しています。QHに続く番号は第何期の国会であるかを示しています。その前の「2015」は制定された年を示し、冒頭に置かれる「No.」は何番目の法令であるかを意味しています。2015年民法の例では、2015年第13期国会において91番目に制定された法令となります。政令や通達も同様で、最後の部分が制定機関、間の数字が制定年、冒頭に当該制定機関がその年において定めた何番目のものであるかを示しています。 現在のところ、主要な法令であれば和訳の資料を参照することができますが、下位規範となる政令や通達レベルになると原文や英訳文にリソースが限られている点に注意が必要です。

保険省通達(No.06/2011/TT-BY)によれば、化粧品を「人体の外部(皮膚、毛髪、手足の爪、唇など)、又は歯若しくは口の粘膜に塗布等し、クレンジング、芳香剤、外見・形式の変更、体臭調整、身体保護若しくは身体を良好状態に保つことを目的として使用されるもの」とされています。これに該当する典型的なものとしては、口紅、パウダー、化粧水、染髪剤などが挙げられ、これらを輸入する場合には、この成分情報開示申請手続を要することとなります。成分情報開示の際に、ASEAN協約(付属書II,III,IV,VI,VII)に挙げられる成分を含む化粧品はベトナムへ輸入できません。例えば、アミノフィリン、テオフィリン、アゼライン酸などが挙げられます。

成分情報開示申請手続では、通常、指定様式の成分情報公開届出用紙、製造者又は製品所有者の委任状及び自由販売証明書(Certificate of Free Sale)が必要とされていますが、日越間の輸入の場合には、CPTTP加入によりCFSの提出は不要となっています。成分情報開示申請手続においては、各製品の成分について詳細を知る必要があるため、製造メーカーとの連携が重要になります。また、成分情報という製品の秘密情報を取り扱うために、秘密情報の保護の在り方なども併せて検討する必要も考えられます。関連して、これら申請は、輸出者ではなく輸入者が行わなければならないため、ベトナムに現地法人を持たない製造者がベトナムに化粧品を輸出したい場合、必然的に他社に成分情報が渡ることになるため、特に注意が必要です。

成分情報開示手続は国家ポータルサイト(Vietnam National Single Window)にて行うことができます。この際に、HSコードに従い、該当するコードごとに必要書類が異なる点に注意が必要です。

成分情報開示申請が行われると、保険省薬品管理局(Drug Administration of Vietnam)は、3営業日以内に商品公表番号を発行することとされています。申請書に不備がある場合は5営業日以内に書面により補正内容等を通知することとされています。この審査においては、製品の内容に応じてサンプル検査を求められる場合もあり、法令で予定されている審査基準期間を大きくずれこむことが少なくないため、申請スケジュールについては、余裕をもって対応する必要があります。

申請手数料は50万ドン(2500円程度)とされており、開示手続後の有効期間は5年とされているため、5年ごとに更新を行わなければなりません。

申請手続が完了すると許可証が発行されます。輸入時には、この許可証を添付書類として税関に提出することで、ベトナムへの輸入が可能となります。注意点としては、市場に化粧品を流通させるためには、ベトナム語の商品ラベルを貼付する必要があり、例えば日本の製品をそのままベトナムで流通させることはできないため、注意が必要となります。

(2021年3月)

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