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ベトナムの進出のための情報や、コンプライアンスや契約・紛争などの進出後の問題、基本的な規制や最新の法改正など幅広い情報を提供します。

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不動産コラム② 弁護士が解説する 【外国人(日本人)投資家に対するベトナムでの不動産(土地、建物)投資事業に関する規制と準備】        

2021/10/08  

目次

はじめに

  1. ベトナムでの外国人(日本人)投資家に対する不動産(土地、建物)事業に関する規制の概要と枠組み

  1.1.土地の使用権の取得に関する条件(投資法、土地法に定める条件)

  1.2.住宅の所有に関する条件(住宅法に定める条件)

  1.3.不動産事業を行う場合の条件(不動産事業法に定める条件)

  1.4.不動産事業の対象物

2.不動産サービス業に関する規制

  2.1.  不動産仲介サービスに関する条件

  2.2.  不動産取引所に関する条件

  2.3.  不動産に関するコンサルティング

3.不動産管理事業に関する規制

  終わりに

はじめに

不動産投資及び不動産事業(以下、「不動産事業」といいます。)は、ベトナムがWTOに加盟した際のコミットメントには定められていませんが、ベトナムの法律により、外国人投資家の進出を認めています。したがって、ベトナムでの不動産事業に進出する際に、WTOコミットメントを確認する必要はなく、ベトナム国内の法令を確認すればよいということになります。不動産事業、不動産サービス事業は外国人投資家にとっては、条件付投資分野であるため、ベトナムの法律により若干の制限が課せられています。

不動産に関する投資活動や不動産の取引は、ベトナムにおいて初めての土地法(1993年)で基本的な枠組が整備されましたが、法の条項が少なく、かつ、詳細が不明な部分も多かったため、不動産事業を行う外国人投資家にとって、十分に参考となるものではありませんでした。そのため、当時の不動産への投資案件は極めてわずかであり、あったとしても様々な政治的な話し合いを背景とする案件ばかりでした。その後、土地法の改正(2003年、2013年)により、少しずつ制度の透明化や不明確であった点の明確化がなされてきています。もっとも、これらの法整備は、基本的には個別の不動産への投資、取引に関するものとなっています。一方で、不動産事業に関する制度は、2006年に初めて不動産事業法が制定され、不動産事業を行うための枠組や法規制の整備がなされました。その後、2014年に同法が大きく改正され、現在の制度となっています。

本記事では、日本人投資家(個人・法人)をはじめ外国人投資家に対する不動産事業、不動産サービス業に関する現行制度の概要や規制についてご説明したいと思います。

  1. ベトナムでの外国人(日本人)投資家に対する不動産(土地、建物)事業に関する規制の概要と枠組み

不動産事業法で定義されている不動産事業活動は、次の4つの主要な活動グループに分けることができます。

(ⅰ)建築、購入、売却目的の不動産の取得又は譲渡

(ⅱ)不動産の賃貸、転貸、買受特約付賃貸

(ⅲ)不動産関連サービス(不動産仲介、不動産取引サービス、不動産コンサルティング)

(ⅳ)不動産管理

上記の内、(i)及び(ii)の活動は、合わせて「不動産事業」といい、(iii)は、不動産サービス業で、最後の(iv)は、不動産管理業となります。

1.1.土地の使用権の取得に関する条件(投資法、土地法に定める条件)

外資系企業は、ベトナムでの土地使用権を容易に取得することはできません。基本的には、土地使用権だけを個別のプロジェクトと無関係に単独で取得することは認められていません。外資系企業がベトナムでの土地使用権を取得するにあたっては、住宅建設やオフィス・ショッピングモール等の建設といった建設投資プロジェクト(いわゆる不動産開発投資プロジェクトといいます。)を申請して、当該投資プロジェクトの許可を取得した後、その投資プロジェクトを実施するために必要となる土地使用権を取得することができるようになります。土地使用権の取得方法については「ベトナムの不動産(土地、建物)を「開発」、「購入」、「賃借」、「利用」する際に知っておきたい基礎知識 ~ベトナム土地法入門~」の記事をご参照ください。

1.2. 住宅の所有に関する条件(住宅法に定める条件)

外国人(日本人)が所有できる対象となる住宅は、商業住宅建築プロジェクトによって建設された共同住宅や個別住宅でなければなりません。さらに、当該住宅は、治安維持及び国防に関連する地域に属さない場所にある必要があります。また、そのような条件を満たす場合であっても、外国人(日本人)が所有できる建物には、以下のとおりの制限があります。

  • 所有できる軒数の条件:外国人投資家が所有する住宅は総軒数の30%を超えてはいけません(共同住宅の場合)。また、プロジェクトごとによる個別住宅の総軒数の10%を超えず、最大250軒を超えてはいけません(半戸建住宅、個別住宅、別荘を含む個別住宅の場合)。
  • 所有期間:最大50年間。ただし、期間満了後に延長することが可能です。

1.3.不動産事業を行う場合の条件(不動産事業法に定める条件)

a.定款資本金の制限について

不動産事業を行う組織や個人の一般的な条件に関して、不動産事業法では、「不動産事業活動を行う企業・合作社は200億ドンを下回らない法定資本金を有さなくてはならない」と定められています。しかし、2021年1月1日以降、現行投資法(投資法第61/2020/QH14号)の施行により、法定資本金の条件は削除されています。したがって、現時点では、外国人投資家は、小規模資本(法定資本金が200億ドン未満)の企業でも、ベトナムの不動産事業に参入できるようになりました。

b.一般条件

不動産事業を行うために、組織・個人(投資家)は企業又は合作社を設立しなければなりません。すなわち、不動産取引そのものは企業だけでなく個人でも可能ですが、不動産事業活動を直接に行う主体としては、必ず企業又は合作社である必要があるとされています。外国人投資家の場合は、企業(法人格を有する会社)にのみ投資でき、合作社に投資することができません。そのため、外国人投資家がベトナムでの不動産事業を行うためには、まず法人(企業)を設立する必要があります。

外国人投資家は単独で、またはベトナム人投資家と合弁し、不動産事業の会社を設立するか、又は不動産事業の会社の株式・持分を取得する方法を通じて、ベトナムで不動産事業活動を行うことができるようになります。

c.出資比率の条件

会社の設立、資本出資、株式・持分の購入のいずれの場合であっても、外国人投資家がベトナムにおいて不動産事業を行う際の出資比率には、特別の制限はありません。したがって、外国人投資家は、会社設立又は株式・持分の購入により、ベトナムで不動産事業を営む100%外資系企業を所有することができます。

d.不動産事業の範囲(内容)の条件

不動産事業を行う外資系企業の事業範囲は、以下のとおりに制限されていますので、この範囲でのみ、事業を行うことができます。

1.4.不動産事業の対象物

ベトナム民法によれば、不動産とは、一般的に土地、住宅、土地付着建物及び土地・住宅・建物のその他の付着財産を含みます。このような不動産に関する不動産事業においては、対象となる不動産は、不動産事業法上、①既存不動産及び②将来形成不動産に分類されています。

民法(2015年民法108条)の規定により、既存不動産及び将来形成不動産は、財産に対する所有権及びその他の権利の確立時点によって区別されます。既存財産(既存不動産を含む)は既に形成され、その不動産につき、取引前あるいは取引時に、既に所有権・その他の権利が生じている財産です。一方で、将来形成財産(将来形成不動産を含む)は、まだ形成されていない財産や、財産として形成されているが所有権そのものは、取引時には確定的に発生していない不動産となります。

しかし、不動産事業を考える上では、このような民法の規定では厳格に整理されておらず、むしろ、「既存住宅・建物」及び「将来形成住宅・建物」という区別が用いられています。そのうち、「既存住宅・建物」とは、建設の完了検査を受けた住宅・建物をいいます。一方で「将来形成住宅・建物」とは、まだ使用のための完了検査を受けていないものをいいます。このように、この2種類の住宅・建物を区別する基準は、建設完了後に完了検査を受けたか否かによります。

不動産事業の対象となる「既存不動産」は、土地、住宅、土地付着建物、及び土地・住宅・建物のその他の付着財産を含みます。そのうち、住宅・建物は、建設が完了し、使用されていることが必要となります。一方、事業の対象となる「将来形成不動産」は、住宅・土地付着建物、及び土地・建設過程にあり、使用のための完了検査を受けていない住宅・建物のその他の付着財産を含みますが、土地使用権は含みません。

このように、不動産事業の対象となる不動産が「既存不動産」と「将来形成不動産」に分類されるのは、①それぞれ対象ごとに取引を行う際の手続が異なること②取引者(購入者、譲受者)の権利保護方法が異なること、によるものです。①の具体的な例でいえば、既存不動産は既に存在しているため、取引をするために必ず不動産の所有権・使用権を証明できる書類が必要となります、一方で、将来形成不動産は、まだ不動産として存在していませんので、所有権・使用権を証明できる書類は必要とされませんが、一定の基準を満たしてから(少なくとも物件の基盤の建設が完成する必要があります)、初めて取引を行うことができるという条件になります。②については、既存不動産と比較すればまだ形成していない将来形成不動産を取引する際に取引者(購入者、譲受者)にとって様々なリスクがあるため、強行規定として取引者(購入者、譲受者)の権利を保護できる規定を不動産事業法により整備されています。このあたりは、日本でも、いわゆる「青田売り」に関する様々な制限があるので、これと同様の趣旨と考えればわかりやすいのではないでしょうか。

2.不動産サービス業に関する規制

不動産サービス活動の内容は、以下の表に従い区別されています。

*注記:不動産取引は、不動産の売買、譲渡、賃貸、転貸、買受特約付賃貸を含みます。

2.1.不動産仲介サービスに関する条件

不動産事業法では、不動産仲介サービスを組織として運営する場合は企業を設立しなければならず、不動産仲介実務証明書を有する者が少なくとも2人いなければならないとされています。ただし、不動産仲介サービスを個人として行う場合は、不動産仲介実務証明書を有し、租税に関する法令に従い租税納入登録を行えば十分です。

不動産仲介実務証明書を取得するために、個人は以下の条件を満たす必要があります。

a. 十分な民事行為能力を有すること

b. 高校卒業以上の学歴を有すること

c. 不動産仲介に関する試験に合格していること

不動産仲介実務証明書の付与対象には外国人も含まれています。なお、外国人がこの試験を受験するにあたっては、ベトナム語を解せない場合、通訳を使用することができます。

2.2.不動産取引所に関する条件

不動産取引所とは、不動産の売買、譲渡、リース、サブリース、分割払購入等といった取引を行う場所をいいます。不動産取引所を運営する会社は、不動産に関する情報を開示し、買主と売主をマッチングさせ、取引に関するサポートを行うことにより、買主と売主は、自由に不動産を取引することができるようになります。

このような不動産取引所を運営する組織・個人は企業を設立しなければなりません。不動産取引所を運営する企業は不動産仲介実務証明書を有する者を少なくとも2名在籍させなければなりません。なかでも、不動産取引所の管理者・運営者は、不動産取引実務証明書を有する必要があります。不動産取引所は、活動規則、名称、住所、活動要求に応える物的基盤・技術も必要となります。

取引所を設立した後、当該企業は、取引所が運営されている省、中央直轄市の建設局、または住宅・不動産市場管理庁に取引所の情報の届出を行わなければなりません。各建設局、住宅・不動産市場管理庁は、管理の目的で、取引所を設立した企業から届出を受けた情報を当機関のポータルサイトに公開する義務があります。届出、公開の対象となる情報は、以下のとおりとなります。

a. 取引所を設立した企業名、企業代表者の名前、企業の連絡先

b. 取引所名、取引所設立日、取引所の場所、取引所の電話番号、取引所の管理・ 運営者の氏名

2.3.不動産に関するコンサルティング

不動産のコンサルティング事業を行うため、組織・個人は企業を設立しなければなりません。

不動産のコンサルティングの事業内容は、以下のものを含みます。

a. 不動産に関する法律のコンサルティング

b. 不動産創業、経営投資のコンサルティング

c. 不動産に関するファイナンスコンサルティング

d. 不動産の価値評価に関するコンサルティング

e. 不動産の売買、譲渡、賃貸、転貸、買受特約付賃貸の契約の相談

3.不動産管理事業に関する規制

現行不動産事業法の規定では、不動産管理サービス事業を営む組織・個人は企業を設立しなければなりません。

不動産管理サービス事業の内容は、以下のとおりとなります。

a. 住宅・建物所有者又は土地使用権者からの委任に従った不動産の売却、譲渡、賃貸、転貸、買受特約付賃貸

b. 不動産の通常の機能を維持することを保証できるサービスの提供

c. 不動産の維持、修繕

d. 顧客の不動産の開発・使用が契約に基づいているかについての管理、監察

e. 住宅・建物の所有者又は土地使用権者の委任に従った、顧客、国家に対する権利及び義務の実施

共同住宅、住宅を含む複合建物(以下、「共同住宅」という。)の管理サービス事業を営む場合は、不動産事業法の規定以外に、住宅に関する法令の規定を全て満たさなければなりません。したがって、共同住宅の管理運営サービスを営むために、企業は、以下の要件を満たす必要があります。

a. 企業法又は合作社法の規定に従って法人を設立して活動し、共同住宅の管理運営スキルを有すること

b. エンジニアリング、サービス、セキュリティ、衛生、環境の部門を含む、共同住宅の運営管理の専門部門を有すること

c. 住宅管理運営(建設、電気工学、水道、防火、共同住宅に関連する機器の操作の分野を含む)に関する要件を満たす必要があり、建設大臣の定める共同住宅の管理運営に関する専門知識の訓練と育成の証明書を有すること

上記の要件を満たした上で、管理運営組織は、本社所在地における建設局(以下、「建設局」という。)又は住宅・不動産市場管理庁に対して、氏名、所在地、電話番号が記載されている書面及び上記の要件を満たしたことを証明する書類の認証済みコピーを提出する必要があります。書類審査により要件を満たしたと認められた場合には、建設局又は住宅・不動産市場管理庁は自己のウェブサイト上において情報を公開します。

なお、提出先については、住宅・不動産市場管理庁がある所在地の場合は、原則として住宅・不動産市場管理庁に提出する必要がありますが、住宅・不動産市場管理庁がない場合は、建設局に提出することになります。

終わりに

ベトナムの不動産市場の拡大に伴い、不動産事業者が著しく増加しています。2020年6月27日、ベトナムの不動産市場の管理・開発における仲介業務の役割に関するセミナーにおいて、ベトナム不動産仲介協会が発表したデータによると、ベトナムには不動産企業が約15,000、不動産取引所が約1,200、そして400,000を超える不動産ブローカーが存在しています。

外国人投資家の場合、不動産市場への参入(特に不動産サービス業界)は、大きく遅れています。日本人投資家については、この不動産サービス業への投資を行うために、すでに多くの日本人投資家がベトナムに企業設立をしています。しかし、日系企業は、主に不動産仲介活動に集中しており、他の不動産サービスの分野において、いまだ日本からの投資は非常に限定的な範囲にとどまっています。不動産管理は、2006年の不動産事業法により詳細に規定された不動産サービスの1つですが、その後の不動産市場の発展に比べ、この分野のサービスの発展は遅れていると言えます。不動産管理のニーズが増加したのは、不動産事業法の施行によって大量の住宅プロジェクト、賃貸オフィスビル、ショッピングセンター、新しい市街地などが完成し、その運用が開始された後でした。したがって、この分野のサービス提供は遅れており、不動産の価値と不動産の流動性を高めるために不動産管理の専門家が必要とされているにもかかわらず、良質なサービス提供が不足しているという状況にあります。

現在、ベトナムにおける不動産管理の分野は、潜在力と多くのビジネスチャンスのある分野だと言えます。海外からの直接投資に加えて、ベトナム企業へのビジネスノウハウの移転は、ベトナムにおけるこの産業の基盤と長期的な発展にとっても、非常に重要と考えられます。