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ベトナムの進出のための情報や、コンプライアンスや契約・紛争などの進出後の問題、基本的な規制や最新の法改正など幅広い情報を提供します。

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べトナム労働法における懲戒処分

2021/10/14  

 労働者に対する懲戒処分は、ベトナム労働法及び政令No.145/2020/NĐ-CP号に定められています。解雇をはじめとするベトナム労働法における懲戒処分は、日本の懲戒処分に比べてやや規制が緩やかであり、適法な懲戒処分の範囲が広いといえますが、具体的な定めについては日本と異なる点もあります。そこで、本稿では、ベトナム労働法に基づく、懲戒処分にあたって、知っておくべき事項・留意すべき事項などを概観します。

1.懲戒処分の種類

 ベトナム労働法における懲戒処分の種類は、4つです。具体的には、i 戒告ii 6か月を超えない昇給期間の延長 iii 免職 iv 解雇が挙げられます(労働法124条)。ベトナム法では、解雇処分以外のii乃至ivの懲戒処分については、就業規則でそれらの懲戒処分を行う場合を柔軟に設計することができます。ただし、政令No.145/2020/NĐ-CP号69条2項g号が、「労働者の労働規律に違反する行為及び具体的な懲戒処分のやり方について詳細に定めるものとする。」と規定しているため、懲戒処分をどのような場合に行うことができるかについては、その規定から具体的な場合が判断できる程度に詳細に定める必要があります。

 なお、解雇は、次の場合に適用できると法律で定められています。すなわち、①労働者が職場で窃盗・横領・賭博を行う、故意に基づく傷害、又は麻薬を使用する場合②労働者が、就業規則に規定されている使用者の営業機密・技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為、使用者の財産・利益に関して重大な損害を惹起する行為、若しくは特別に重大な損害惹起のおそれがある行為、又は職場でのセクシャルハラスメントを行う場合③昇給期間の延長又は免職の懲戒処分を受けた労働者が、懲戒処分が解消されない期間内に再犯をする場合(再犯とは、労働者が、労働法126条の規定に従った懲戒処分解消がなされていないにもかかわらず懲戒処分がなされた違反行為を再度行うことです。労働法126条によれば、引き続き労働規律違反がない場合、処分の日から戒告処分を受けた労働者は3か月後、昇給期間の延長の懲戒処分を受けた労働者は6か月後、免職の懲戒処分を受けた労働者は3年後に、当然に懲戒処分は解消されます。)④労働者が、正当な理由なく、30日間以内に合計5日間、又は365日以内に合計20日間仕事を放棄した場合です。日数計算には仕事放棄の初日を含みます。(自然災害・火災・権限を有する医療機関の確認がある自らの病気・親族の病気及び就業規則が規定するその他の場合については、正当な理由があると見なされます。)(労働法125条)。なお、これらの法定されている場合以外には、解雇処分を科すことができないと考えられています。

2.懲戒処分の手続

 懲戒処分を行う際に、次の手続を遵守する必要があります。具体的には、a)使用者は労働者の過失の証明が義務付けられておりb)懲戒処分がなされる労働者が構成員である労働者代表組織が存在する場合にはその組織の参加が必須でありc)労働者の出席が必須であり、また自らを弁護し、弁護士又は労働者代表組織に弁護を依頼する権利を有しd)労働者が15歳未満である場合にその法定代理人の参加が必須でありe)懲戒処分は、労働者と使用者とのやり取りについて議事録が記載されなくてはならずf)一つの違反行為に対して複数の労働規律違反処分を適用することはできずg)一人の労働者が同時に複数の労働規律違反行為をした場合、最も重い違反行為に相当する最も高度な懲戒処分のみを適用する必要がある等です。(労働法112条1項乃至3項)。

 具体的な手続については、違反時に労働者が労働規律の違反を犯したことを発見した場合、使用者は違反記録を作成し、労働者代表組織、15歳未満労働者の法定代理人に通知するものとされています。違反が発生した後に、使用者が労働規律の違反を発見した場合、使用者は労働者の過失を証明する証拠を収集しなければなりません。

 懲戒処分に関する時効の範囲内で(労働法第123条によれば、懲戒処分の時効は、違反行為発生日から6か月です。他方で、違反行為が直接的に使用者の財政・財産・営業機密・技術機密の漏洩に関連する場合は、懲戒処分の時効は12か月です。)、使用者は次のように労働規律違反に対して懲戒処分を行う会議を開催する必要があります。

 まず、使用者は、参加者に対して、労働規律を処理するための会議の実施日の少なくとも5営業日前までに、労働規律を処理するための会議の内容、時間、場所、労働者の氏名を通知する必要があります。そして、この通知は会議開催前に参加者に確実に届かなければ手続違反となります。つまり、政令145/2020/NĐ-CP号第70条2項a号によると、雇用者は、会議に参加しなければならない者が通知を受領できることを確保する責任を負うとされており、このことから、実際の通知方式を使用者が任意で定めることができるものの、労働者が通知を受領しなかったと主張するときには、使用者はそのことを反証する責任を負います。そのため、会議参加者に通知する際に、その受領を証明できる証拠(例えば、郵便の控え、メールのやり取り、参加者の返答の記録等が考えられます。)を保管することが重要になります。

 次に、参加予定者は、使用者の通知を受け取った後、使用者に対して、会議への出席の有無を知らせる必要があります。参加者の1人が通知された時間と場所において会議に出席できない場合、労働者と使用者は会議の時間と場所について合意により変更ができますが、両者が合意に達することができない場合、使用者は会議の時間と場所を決定することができます。

 懲戒処分会議の内容は、書面で記録されるだけでなく会議の終了前に承認され、さらに、参加者によって署名されなければなりません。議事録に署名しない参加者がいる場合、議事録作成者は、議事録にその人の氏名と署名しない理由を明確に記載する必要もあります。

 最後に、懲戒処分権を有する者は、懲戒処分に関する決定を下し、それを会議参加者に送付する必要があるものとされています(政令No.145/2020/NĐ-CP号70条)。

 なお、使用者は、違反が複雑であり、労働者が勤務を継続によりその違反の証明が困難になると認める場合には、労働者の業務を一時停止する権利を有しています。労働者の業務の一時停止は、労働者の加入する労働組織代表の意見を聴取しなければ、行うことができません。そして、業務の一時停止期間は原則として15日を超えることができないとされており、特別な事情を示すことにより90日まで延長することができますが、どのような場合が前記特別の事情にあたるかは明確ではありません。そして、業務の一時停止中、労働者は業務一時停止前の賃金の50%の前払いを受けることが可能です。業務の一時停止期間が満了すると、使用者は労働者に勤務を再開させなければならず、労働者が懲戒処分を受ける場合、その労働者は前払いを受けた賃金を返済しなくてもよいものとされていますが、労働者が懲戒処分を受けない場合、使用者は業務一時停止期間の賃金全額を支払う必要があります(労働法128条)。

3.懲戒処分の際に留意すべき点

 懲戒処分を行う際に、留意すべき点は次の通りです。いずれも適法な懲戒処分を行うために重要となります。

①病気・治療静養休暇中・使用者の同意を得た休暇中の労働者、逮捕・拘留中の労働者、上記の解雇処分理由①及び②に該当する違反行為について、捜査機関の結果及び結論を待っている労働者、妊娠している女性労働者、妊娠休暇中・12か月未満の子を養育する労働者に対して懲戒処分を行なってはいけないこと(労働法122条4項)

②精神病又は自らの行為認識可能性若しくは行為制御可能性がなくなるその他の病気に罹患中の労働者に対しても懲戒処分をしてはいけないこと(労働法122条5項)

③懲戒処分を行う際に、労働者の健康・名誉・生命・威信・人格の侵害が禁止されること(労働法127条1項)

④懲戒処分に代えて、罰金、減給を行ってはいけないこと(労働法127条2項)

⑤就業規則に規定されていない、締結した労働契約内に合意されていない、又は労働に関する法令が規定しない違反行為を行った労働者に対する懲戒処分を行なってはいけないこと(労働法127条3項)

4.懲戒処分に対する不服申立

 懲戒処分や業務の一時停止処分がなされた労働者は、不服がある場合に、使用者や法令の規定に従った権限を有する機関に対して不服申立をする又は法令の規定による手順に従った労働争議解決を要求する権利を有しています(労働法131条)。この規定からすると、労働者は、まず使用者に不服申立をする必要があると解されており、労使で解決できない場合には、不服申立て解決権限を有する機関である、使用者がその会社の本拠を置くところの労働傷病兵社会署の労働監査部(Thanh tra lao động)に申立てをする必要があります(政令No.24/2018/NĐ-CP号15条)。

5.最後に

 上記のように、懲戒処分に当たっては細かな手続的要件を満たす必要があります。使用者は、前記手続的要件を満たし、適法な懲戒処分を行うことで、事後の紛争を防止することが肝要となります。