問題従業員に対するベトナム労働法上の対処法

問題従業員に対する対処法は、ベトナム労働法(No.45/2019/QH14)に基づき、以下の図式のとおり、大別して労働契約関係を終了させる方法と労働契約関係を終了させない方法がある。 1.解約権行使 使用者の解約権行使が可能となるのは次の場合である(法36条)。 (1)労働者が業務を常時完成させない場合 (2)労働者が病気や事故で長期に治療を受けたが労働能力を回復しない場合 (3)不可抗力の理由により事業縮小する場合 (4)労働契約の一時的履行停止期間満期日から15日以内に労働者が職場に復帰しない場合 (5)労働者が定年退職年齢となった場合 (6)労働者が5日以上連続で正当な理由なく仕事をしない場合 (7)労働者が誠実な情報を提供せず労働者の採用に影響を与える場合  これらの中で(4)と(6)においては、使用者は事前通知を行う必要なく解除権を行使することができる。  他方で、使用者は、労働者が疾病等の治療中である場合(上記(2)の場合を除く)、正当な理由で休暇を用いている場合、妊娠中、産休中又は生後12か月未満の子供を養育している場合は解除権が制限される。 2. 労働規律処分  使用者は、労働規律を違反した労働者に対して、上記の対処法一覧図のとおり、労働契約関係終了に至る解雇処分又は労働契約関係終了に至らないけん責処分若しくは6 か月を超えない昇給期間の延長若しくは免職を適用することも可能となる。  これらの中で、最も厳重な処分である解雇処分は、法125条で定める次の場合に可能となる。 (1)労働者が職場で、窃盗、横領、賭博、故意に基づく傷害の惹起、麻薬使用をする場合 (2)労働者が、営業機密、技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為を行う、若しくは使用者の財産、利益に関して重大な損害を惹起する行為を行う、若しくは特別に重大な損害惹起のおそれがある行為を行う、若しくは職場でのセクシャルハラスメントを行う場合 (3)昇給期間の延長又は免職の規律処分を受けた労働者が、規律処分が解消されない期間内に再犯をする場合 (4)労働者が、正当な理由なく30 日間に合計5日、又は365日間に合計20日、仕事を放棄した場合  他の処分対象行為について、同法は詳細を定めておらず、各社の就業規則の規定にこれを委ねている。そのため、解雇事由を具体化するという点で就業規則には重要な役割がある。  労働規律処分の原則について、一つの労働規律違反行為に対して複数の労働規律違反処分を適用することはできず、一人の労働者が同時に複数の労働規律違反行為をした場合,最も重い違反行為に相当する最も高度な規律形式のみを適用することに注意する必要がある(法122条)。同条によると、労働規律処分を適用するために、使用者は労働者の過失を証明しなければならない。そして、労働規律処分過程においては労働組合の出席が必須である。また、労働者は出席しなければならず、自ら弁護し、弁護士又は労働者代表組織に依頼して弁護する権利を有する。そして、労働規律処分は、議事録に記載されなくてはならない。  法122条4項及び5項によれば、労働者が以下に該当する場合、懲戒処分をできないとしている。 (1)病気・治療静養休暇中、使用者の同意を得た休暇中の場合 (2)逮捕、拘留中の場合 (3)解雇の対象になる(1)又は(2)の行為について、捜査中である場合 (4)妊娠中、産休中又は12か月未満の子を養育する場合 (5)自らの行為認識可能性・行為制御可能性が欠如する疾患をもつ労働者が労働規律違反をした場合 3. 業務異動  原則として、使用者は、1年間で合計60日を超えない日数にて労働者を一時的に異動させることができる。労働者をこの期間を超えて異動させることができるのは、労働者が書面で合意した場合のみとされる(法29 条1項)。  また、使用者は、異動から少なくとも3営業日前にその旨を労働者に知らせなければならない。異動時における賃金に関して、労働契約と異なった業務に異動する労働者は新たな業務に従って給与を受ける旨定められるが、従来の業務と比して新たな業務の給与が低い場合は、30営業日間は従来の業務の賃金が維持される。また、新たな業務の賃金は、少なくとも従来の業務の85%を満たしていなければならず、最低賃金を下 回ることはできない。                                                  執筆者:弁護士 原智輝                                                  パラリーガル Mai Lê