ベトナムにおける労働者の試用規制

弁護士:原 智輝   1.試用期間の設定  試用期間は、適切な人材確保段として機能を有し、ベトナム労働法第24条1項にて、採用にあたり、雇用者と被雇用者は、試用について合意することができる旨定めが置かれています。通常は、自由に試用期間の有無を設定できますが、雇用期間が1か月に満たない場合、試用期間を置くことができません(同条3項)。試用期間は雇用契約と共に又は別の契約として定めることができ、試用期間を単独の契約とする場合、以下のような内容が必要となります。 ① 使用者の名称、住所及び使用者側で労働契約を締結した者の氏名・職位 ② 労働者側で労働契約を締結した者の氏名・生年月日・性別・居住地・市民カード若しくは人民証明書又はパスポートの番号 ③ 業務及び職場の住所 ④ 試用期間 ⑤ 業務又は職位に沿った賃金額、賃金の支払方法、賃金支払時期、手当及びその他の補充項目 ⑥ 労働時間、休憩時間 ⑦ 労働者に対する労働保護設備 上記項目の他、契約自由の範囲内で様々定めることが可能です。注意点として、労働法第25条によれば、試用期間は、業種や業務内容に応じて上限が設定されています。 ① 企業法、企業における生産・経営に対して投資する国家資本の管理・使用の法律に従った企業の管理者の業務については、180日。企業法第4条24号によれば、企業の管理者とは、私人企業主、合名社員、社員総会の会長、社員総会の構成員、会社の会長、取締役会の会長、取締役、社長又は総社長及び会社定款の規定に従ったその他の管理職の地位にある個人からなる私人企業の管理者及び会社の管理者をいうとされています。 ② 短期大学以上の専門・技術水準を必要とする業務については 、60日。ここでいう「短期大学以上の専門・技術水準を必要とする」かどうかは、使用者側の判断に一次的には委ねられています。一定の公務員や准公務の専門・技術水準については法規範文書(基本的には各省庁の通達)が参考になりますが(例えば、教育訓練省の通達04/2021/TT-BGDĐTによれば、高校の教師は学士号(大学卒)以上を要するなど)、このような参考基準がある業種は多くはありません。 ③ 中級の専門・技術水準を必要とする職位の業務・技術工員・事務職員については 、30日。この業種についても「中級の専門・技術水準を必要とする」かどうかは、使用者の判断が一次的なものとして行われる余地が大きいとされています。 ④ その他の業務の場合は6日。特に資格等を要しない単純業務(例えば、家政婦やごみ収集・道路掃除作業員など)が例として挙げられます。  この、試用期間ですが、特定の業務1つに対してそれぞれ設定できるとされています。しかし、そうすると、業務を細分化することで、複数回に渡り試用期間を設定することができ、容易に労働者に試用条件下での長期雇用を強いることが可能になるため、そのような方向性で試用期間を用いることは慎んだ方がいいと思われます。   2.試用期間中の給与や保険  試用中の労働者の賃金は、試用期間終了後におけるそれの85%が必要です(労働法第26条)。  試用期間中における保険加入の要否は、試用期間が雇用契約と一体とされている場合とそれぞれ独立している場合とで異なると考える余地があります。社会保険法2条1項では、雇用契約が加入条件となっているため、一体型の場合には加入を要するが、独立型の場合には必須ではないと解釈する余地があるためです。実際上、試用契約を独立させている場合において、試用期間中に社会保険に加入している例は少なく、このような解釈で実務が運用されていると推察されます。   3.試用の終了  使用の終了条件は、 i)試用期間の満了 ii)試用終了の通知を当事者のいずれかが行ったとき とされています。 試用期間の満了に伴って、使用者は労働者に対して、通知を出さなければならず、試用の目的である、業務水準に達していたか否かを通知しなければなりません。水準に達していた場合は、一体型、独立型いずれにおいても雇用契約に移行し、達していない場合は契約終了原因となります(労働法27条)。いったん雇用契約関係が形成された場合にその終了を使用者側から導くのが困難なベトナム労働法の規律において、この試用期間においては、労働者は特段手続を要することなく、また、損害賠償義務を負うことなく、契約を終了させることができるので、試用期間中においては労働者の見極めが重要と言えそうです。