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ベトナムの進出のための情報や、コンプライアンスや契約・紛争などの進出後の問題、基本的な規制や最新の法改正など幅広い情報を提供します。

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ベトナム国内企業が海外から融資を受ける場合の規制の改定

2022/12/13  
  • その他

弁護士 布井 千博

             

ポイント

2022年9月30日に、企業の海外ローンに関する通達12号12/2022/TT-NHNNが国家銀行から発出され、11月15日に発効しました。この通達は、企業が海外ローンを組むに際しての手続的な面を主に規定しており、ベトナムに進出している日系企業が親会社から借り入れをしている場合に影響をもたらします。特に緊急の対応を要する点は、海外ローンに関する国家銀行へのローン実施報告が、従来の4半期報告から月次報告に変更されたことです。この規定は、すでに実施されている海外ローンにも適用されますので、対象となる企業においては、手続違反とならないよう速やかな対応が必要です。

         

1 規制の概要

 日系企業がベトナムで子会社を設立して事業を行う場合、ベトナムでの事業活動のために資金を調達する必要があります。現地子会社の資金調達方法としては、親会社がベトナム子会社に資本金として出資する場合のほかに、親会社からの借入(親子ローン)が多く利用されています。

 この親子ローンの実施には、国境を超えた資金移動が生じることから、日本側並びにベトナム側の双方において外国為替法の規制対象となります。とくにベトナム側では厳格な為替管理が実施されており、日越間の親子ローンについても様々な手続が求められています。90年代後半のアジア通貨危機の教訓などを踏まえて、急激な為替変動を防止するために厳格な為替管理を行っているといえましょう。

 さて、そもそもの前提として、ベトナムにおいて国内企業や個人が外国からローンの借入をすることは、法律(外国為替条例06/2013/UBTVQH13。以下、外為条例という。)で明確に認められています。外為条例17条1項は、企業、金融機関、個人などの居住者が、法律規定および自己借入-自己返済の原則に基づき、外国からの借入と対外債務の弁済を行う権利を有するものと定めています。海外からの借入は、資本取引に該当し(外為条例4条4項)、企業、金融機関、個人などの居住者は、ベトナム国家銀行(SBV)の規定に従って、海外からの借入及び返済、借入登録、口座の開設と利用、借入金の出金と返済のための送金、ローン実施の報告などに関する義務を遵守することが求められます(外為条例17条2項)。

 この外為条例を施行するため、政令と通達が定められています。政府保証のない企業の海外ローンの借入及び返済の管理に関する2013年政令219号219/2013/ND-CPは、政府が、国家財政の安定とマクロ経済の均衡確保という観点から、企業による自己借入-自己返済の方式による海外借入を管理するものとしています(政令219号4条1項)。海外借入を行う企業には、政府あるいはベトナム国家銀行が定める法規を遵守することが求められ、海外ローンを適切な目的及び業務の範囲内で使用するなど様々な責任が課せられます(政令219号4条2項、14条)。とくに、海外ローンの借主には、国家銀行の規定に基づいて、資本の出金と外債の返済について、定期的または個別に報告する義務が課せられます(政令219号16条1項)。本政令の違反に対しては、行政罰または刑事責任が課せられるものとされています(政令219号17条)。

 この政令を受けて、企業による海外ローンの借入と返済に関して二つの通達がベトナム国家銀行から発出されています。第一は、2022年9月30日に発出された通達12号12/2022/TT-NHNNです。この通達は、政府保証のない企業の外海外ローンに関して、海外ローンの登録手続、借主による海外借入口座の開設、借入金の引出と返済のための手続(外貨の購入と送金を含む)、海外ローンに対する担保義務の履行、統計報告など、主として手続的な面の規制を行います。第二は、2014年2月26日に発出された通達12号です。この通達は、企業が海外借入を行う際に従うべき要件を定めるものです。海外ローンは、満期が1年以内の短期海外借入と、満期が1年超の中長期海外借入に区別され(2014年通達12号2条)、短期及び中長期の借入金の使途や借入限度額、海外ローン契約、貸付通貨、海外ローン費用などが定められています。この2014年通達12号については、2022年3月11日にパブリックコメントのために公開草案が発表されていますが、これまでのところ本通達の改正は行われていません。

 さて、2022年通達12号(以下、新通達という。)の発出に伴い、2016年通達3号、2016年通達5号、2017年通達5号の三本の通達(以下、旧通達という。)は失効しました。以下、改正点を交えながら、新通達のポイントを説明します。

 

2 登録手続

 海外ローンは、借入期間が1年以内の短期ローンと、借入期間が1年を超える中長期ローンに分類されて規制されます(2014年通達12号2条)。短期ローンは、運転資金等の目的に限られ、設備投資などの中長期資金の目的で借り入れることはできません(2014年通達12号11条1項)。中長期ローンは、運転資金に限らず、設備投資などに用いることができますが、ローン契約を国家銀行に登録することが求められます。

 海外ローン契約の国家銀行への登録は次の場合に必要です。まずは、借入期間が1年を超える中長期ローンです(新通達11条1項)。次に、短期ローンであっても、元本返済期間が更新されて償還期間が1年以上となる場合や、返済の遅延により借入金の入金日から1年と30日が経過しても元利が弁済されていない場合にも、中長期ローンとして登録の対象となります(新通達11条2項3項)。なお、返済遅延による短期ローンから中長期ローンへの変更に関する登録義務の発生日については、新通達により変更され、従来の入金日から1年と10日とされていたところを、1年と30日に延長されました。これにより、短期ローンの借主に登録義務が発生するまで多少の猶予が与えられたことになります。

(1)管轄

 1,000万米ドル(または相当額、以下同じ)を超えるローン、および、国家銀行総裁の検討・承認対象となるドン建て海外ローンは、国家銀行本店の外国為替管理部門が管轄します。1,000万米ドル(またはその相当額)までの貸付金、および、省の国家銀行総裁の承認を得たベトナムドン建ての海外ローンは、借主の本社が所在する省の国家銀行支店が管轄します。海外ローンに関する登録、変更および報告はそれぞれこの管轄部門・支店に対して行うことになります(新通達20条)。

(2)中長期ローン契約の国家銀行への登録時期

 中長期ローン契約を締結した場合、締結日から30日以内に海外ローンの登録申請をおこなわなければなりません。短期ローンを更新して中長期ローンとした場合には、更新契約の調印日から30日以内に、また短期ローンを期限までに返済できず1年を超えた場合には、借入金の入金日から1年が経過した日から60日以内に登録申請をおこなう必要があります。ただし返済期限までに返済できなかった短期ローンについては返済猶予期間(30日)が設けられており、借入期間が実際に1年を超えてしまったとしてもこの返済猶予期間内に返済を行えば登録は不要です(新通達15条2項)。

(3)投資準備資金の海外ローンへの転換

 新通達はこのほかに、投資登録証明書IRCの付与されたプロジェクトの投資準備資金を海外ローンに転換する場合について、借主が企業登録証明書または特別法による設立・運営許可証を取得した日、PPP投資契約を締結した日、投資準備資金をローンに転換する海外ローン契約を締結した日(いずれか遅い日)から30営業日以内に申請書を提出するとする規定を新たに導入しました(新通達15条2項c号)。

(4)登録手続

 登録はオンラインまたは書面により行うことができます。オンラインを選択する場合、国家銀行のポータルサイト(www.sbv.gov.vn)からローン登録用ウェブサイトへのリンクを開くか、登録用ウェブサイト(www.qlnh-sbv.cic.org.vn)を直接訪問し、事前に貸付情報の登録を行った上で、実際のローン登録手続を行うことになります(新通達5条、15条1項a号)。オンライン登録では、登録用ウェブサイトの指示にしたがい必要な情報を入力後、データをプリントアウトして代表者サインと押印をした書類およびウェブサイト上で指定された証明書類をオンラインで提出するか、管轄当局の窓口に直接提出または郵送します。

 書面での登録をする場合には、新通達12号付録1の様式に基づいた申請書に必要事項を記入し、これに所定の証明書類を添付して当局の窓口に直接持参または郵送により提出します。

 提出書類の主なものは、①申請用紙(オンラインの場合はウェブ上の申請フォーム、書面提出の場合は新通達12号付録1の様式)、②借り手である現地法人側の地位を証明する投資登録証明証(IRC)および企業登録証明証(ERC)等のコピー、③借入金の使途説明書類(事業計画や生産計画等)、④ローン契約書のコピーおよびベトナム語訳、⑤担保・保証がある場合は担保・保証書のコピーとベトナム語訳等があげられます(新通達16条)。

 新通達は、投資プロジェクト実行のための融資について、投資登録証明書または投資方針承認決定書の提出を求める規定を新たに導入しました(新通達16条3項a号)。借入目的の判断材料として投資登録証明書などが用いられると、従来提出が求められていた借主の作成した生産・事業計画よりも借入目的が狭く解釈される恐れがあります。これにより、海外ローンの使途が制限されることが懸念されます。また、登録するローンの具体的な内容や管轄窓口によって追加書類が必要な場合もあるため、法令の定めをよく理解した上で、事前に当局に対して具体的な確認を行うことが不可欠となります。

(5)登録手続所要期間

 新規登録に要する期間については、国家銀行からの登録可否の回答は、オンライン登録の場合は原則として12営業日以内、書面提出の場合は15営業日以内に出されます。ベトナムドン建の中長期ローンについては回答の受領まで最大45営業日かかります(新通達15条3項)。回答の結果次第では、ローン契約を変更して改めて登録申請をしなければならないこともありうるため、登録完了までに想定外の時間を要する可能性があります。他方で、登録が承認されたにもかかわらず出金期間の最終日から6ヵ月を超えて借入金の出入金が実行されない場合には、登録が自動に失効します(新通達23条1項)。このようなことから、現実の資金需要を勘案して、時間的に余裕をもって登録申請に臨むことが必要です。

 

3 変更登録

 すでに登録された中長期ローンの内容に何らかの変更が生じた場合は、変更内容に応じて国家銀行に対し変更登録または通知を行わなければなりません(新通達17条1項)。基本的に、ローンの内容の重大な変更については変更登録が求められ、軽微な変更についてはWEB上で国家銀行に変更内容を通知するだけで足り、変更登録を要しません。例えば、当初計画と比べ10営業日以内の借入金の出入金時期あるいは返済時期の変更、同一県・市内における住所変更、利息及び手数料の計算方法の変更を伴わない利息及び手数料の支払計画の変更、少額の借入金の出金または元利返済などは、変更登録を免除され通知だけで足ります(新通達17条2項)。

 なお、新通達は会社分割や合併により海外ローンが包括承継された場合についての規定を新たに導入しました(新通達6条)。新通達は、会社分割及び合併による承継人が、海外ローンに関する権利義務を引き受け、借主の責任を履行すべきであると規定しており、海外ローンが登録されている場合には、上記M&Aによる海外ローンの変更に関して変更登録を行う必要があると考えられます。

           

4 ローン実施報告

 借主は、毎月、報告期間の翌月5日までに、国家銀行が設けるウェブサイト上(新通達8条)で、短期、中期および長期のローンに関するオンライン実施報告を作成しなければなりません(新通達5条2項、41条1項)。旧通達の下では、このローン実施報告は四半期に1度とされていましたが、新通達により月次に変更されました。また、このオンライン報告は、国家銀行への登録が必要な中長期ローンだけではなく短期ローンについても義務とされている点に留意が必要です。なお、Webサイト上の技術的な障害によりオンライン報告ができない場合には、書面での報告が必要となります(新通達41条1項)。

 国家銀行は、借主からのインターネット報告の受領後10営業日以内にデータベースへの保存を行い、電子メールで報告完了を借主に通知するものとされています(新通達41条2項)。報告に修正が必要な場合には、国家銀行支店は、借主に通知メールを発信し、借主はオンライン上でデータの修正を行います(新通達41条3項)。

 報告義務の違反に関しては、金融および銀行部門における行政違反に対する罰則に関する2019年政令88号が適用されます。同政令47条によれば、報告義務の遅延などの軽微な違反に対しては、500万ドンから1000万ドンの罰金が科せられます(同政令47条1項)。報告を提出しないか、報告内容が不十分な場合には、1000万ドンから1500万ドンの罰金が科せられます(同条2項)。

     

5 今後の留意点

 海外ローンの管理を強化するという国家銀行の意図は、海外ローン実施報告の期間を四半期から月次に変更した点からも窺うことができます。ただし、新通達の対象は主として海外ローンに関する手続規制に限られることから、国家銀行が描く規制強化の全貌を評価するには十分でありません。現在進められている2014年通達12号の改正が成立すれば、企業による海外ローンの新たな認可要件が明確化されます。今後の通達制定の状況に留意が必要です。

 

以上