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ベトナムの進出のための情報や、コンプライアンスや契約・紛争などの進出後の問題、基本的な規制や最新の法改正など幅広い情報を提供します。

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ベトナム企業法改正[前編]

2020/08/03  

1 はじめに


 ベトナム企業法が改正され(59/2020/QH14)、2021年1月1日より施行される。改正内容は多岐に渡るものの、主として①国営企業概念の改正、②企業情報開示に関する改正、③ガバナンスに関する改正として(i)各企業共通事項、(ii)二人以上有限責任会社関連、(iii)株式会社関連(特に少数株主権)に大別される。
 なお、投資法の改正(61/2020/QH14)も併せて行われており、ベトナム投資企業においては改正企業法のみならず、改正投資法の確認も必要となる。
 以下、2014年制定の企業法を「旧企業法」と記載し、改正後の企業法を「改正企業法」と表記する。

2 国営企業概念の改正


 国営企業の定義について、旧企業法では、国が対象企業の定款資本全部(100%)を有する企業とされており、完全に国が所有する企業のみが国営企業と称されていた(旧企業法4条8項)。改正企業法においては、国の定款資本率が引き下げられ、国が50%を超える定款資本金又は議決権付総株式を有する企業が国営企業として再定義されており、国の資本率の引き下げが行われた(改正企業法4条11項)。この改正は、国営企業の定義を旧企業法以前である2005年企業法に再び戻すものであり、併せて、株式企業の50%を超える議決権を国が保有する企業が国営企業であることが示されたものとなる。これにより、改正企業法においては、国が完全に保有する国営企業と、国が50%を超える支配率を有する国営企業の2種類が観念できることとなる(改正企業法88条1項a)b))。この区別により、国が独占する国営企業と、50%を超える支配率を有する国営企業の、区分に応じた規定が置かれることが想定され、詳細は今後の政令等に委ねられる。なお、独占国営企業の例としては、電力の送電、紙幣印刷、宝くじ等の分野が想定される。
 本改正により、外国投資企業においては、旧企業法下では参入不可能であった国営分野への参入の途が開けたこととなる。例として、各種公益サービスや社会福祉分野が挙げられる。他方で注意すべき点もあり、国営企業の定款資本等保有率が引き下げられたことにより、旧企業法下では、非国営企業として国営企業独自の規制に服することのなかった事業分野が、改正企業法においては、国営企業該当企業として独自規制の適用を受けることが予想される。自社の事業参入分野が国営企業として取り扱われる場合は、関連法令として国家財産管理法、土地・建設関連法令、国営予算関連法令等の適用を受けることが予想されるため、今後の事業運営には従前以上にコンプライアンスに注意を払う必要がある。
 なお、国営企業の範囲が拡大されたことにより、各種国営企業適用法令の改正も順次行われていくことが予測されるが、これら法令は多岐に渡るため、改正が十分に行われるまでの間、法令の適用関係に不明瞭な点が生じることが予測される。対象企業においては、担当当局との密接な連携や確認の上、各種事業に取り組むことが望ましい。
 また、関連して企業財産の国有化についても細かな修正が行われている。旧企業法においては、国による企業財産徴収について国防や治安維持等の具体的な理由が設定されていたが、改正企業法においては、これら理由が撤廃されている(改正企業法5条3項)。もっとも、国による企業財産徴収の例はほぼ見られず、事業運営上への影響は乏しいと見込まれる。

3 企業情報開示に関する改正


 ベトナム企業法上は、種々の企業情報を経営登記機関に通知する必要がある一方、当局が運営する企業ポータルサイトにおいて各種企業情報の一部につき閲覧等が可能であった。企業法に関連する企業情報として、次の表記載のものが挙げられる。改正企業法により改正が加えられたのは、これらのうち(c)企業管理者情報と(f)社印の情報である。

(1)ERC情報
 ERC(企業登録証明書)情報には改正は行われず、従前同様、これら事項に変更が生じた場合には、経営登記機関に10日以内に変更通知を要する。また、ERC情報については無料で企業ポータルサイトに公開されており、各企業は、今後も取引相手方の法定代表者の確認等に用いることができる。

(2)企業管理者
 改正企業法により、企業管理者の変更等については経営登記機関への通知が不要となる。これに伴い、企業ポータルサイトにおいて有料で取得可能であった相手企業の取締役や社長等の企業情報の開示サービスは廃止されることが予想される。そのため、相手企業の企業管理者の確認を要する場合は、企業ポータルサイト以外の方法による確認が必要となる。確認方法としては、企業側に証明書を別途発行してもらうなどの運用が考えられる。

(3)株式企業における株主
 株式企業の株主情報は、有限責任企業におけるERC(企業登録証明書)情報と異なり、ERC記載事項ではない。そのため、2018年10月までは経営登記機関に株主情報を通知する運用がなされていたが、かかる通知制度は既に廃止されており、現在では対象企業の株主情報は当該企業の株主名簿により確認する方法が一般的となっている。なお、外国株主は依然として通知が必要であるが、当該株主情報は企業ポータルで開示はなされていない。

(4)企業定款
 企業定款については改正企業法による影響はない。設立時に経営登記機関に登記すべき原始定款に加え、定款に変更が生じた場合には当局への通知を行わなければならない。留意点としては、企業定款は経営登記機関に通知を行う必要があるものの、企業ポータルでは公開されていない。もっとも、公開株式会社であり、かつ、自社ウェブサイトを有する企業は、定款を自社ウェブサイトにおいて公開しなければならない。

(5)社印
 旧企業法において、各企業は、自社で用いる社印を経営登記機関に通知し、経営登記機関は社印情報を企業ポータルにおいて公開する運用を行っている。これはいわば印鑑登録証明としての機能を果たしていた。改正企業法においては、社印の経営登記機関に対する通知義務条項が削除されており、各企業においてどのように押印の真正を確認すべきか今後の運用が注視される。また改正企業法は、従来の印鑑に加え、電子署名(押印)を自社の署名(押印)手法として認めることを明確化しており(改正企業法44条)、今年の首相決定(645/QĐ-TTg)による2021年から2025年までの電子取引市場拡大に関する国家方針との連関も窺われる。

 経営登記機関における登記に関連して、改正企業法では、従前のガイドライン等の運用を改めて法令化した。例えば、登記方法について従前行われていた、直接窓口での登記、郵送による登記、そして電磁的方法による登記の方法を明文化した(改正企業法26条1項)。

[後編へ続く]