• MEILIN INTERNATIONAL LAW FIRM

※実際の事例を基に作成しておりますが、守秘義務等の観点から、内容や業種、名称等は実際のものとは異なるものとしております。また、同様の観点から、事案のデフォルメや編集を加えております。

「DX」は商標の世界にも

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「DX」は商標の世界にも

以前、当事務所に商標登録をご依頼いただいた秋野機械金属株式会社の秋野社長が、久しぶりに事務所にお越しになりました。秋野機械金属は、もともとは工場用の金属加工機械やその部品などを製造販売しており、ロゴマークと組み合わせた「AKINO」という名前で商標を出願され、その手続きを当事務所で代理させて頂きました。

「実は、先生、最近うちと同じようなマークを使った会社が出てきまして。それで、警告して頂けないかと思い、相談に来ました。」とのことでしたので、早速お話を伺ってみると、確かにロゴもよく似た、「AKITO」という名前の会社が、AIと遠隔監視システムを使って工作機器の稼働状況のチェックや故障予測などをするサービスを展開しているとのことでした。「AKINO」と「AKITO」では、一文字違いではありますが、ロゴもよく似ているところから、十分に、秋野機械金属の商標と類似していると言えそうです。しかし、商標権行使をするには、大きな問題がありました。

商標権は、商標と、それを使用する「指定商品・役務」との組み合わせによって構成されており、商標権の「指定商品・役務」と同一または類似の範囲にしか、その効力は及びません。そして、秋野機械金属の商標は、第7類「金属加工機械器具並びにその部品・付属品」と、第37類「金属処理用及び加工用の機械及び工作機械の設置工事、金属加工機械器具の修理又は保守」を指定商品役務として出願していました。

しかし、その後、秋野機械金属社も、世の中の製造業のサービス業化やAI、IoTの波に乗って、インターネットを使った遠隔監視システムや、それをAI解析した自動制御や故障予測サービスなどを展開するようになり、さらに最近では、これらに使うプログラムやシステムの開発、そしてこのようなノウハウを活かした工場設計や運営のコンサルティング業務まで、幅広く事業を拡大しておられました。

商標権侵害の警告

本来であれば、このような業務範囲の拡張に伴って、商標権も指定商品役務も随時見直しをする必要があります。つまり、AIや遠隔監視システムを利用して、機械の使用状況を基に適切なメンテナンスや部品交換の提案をできるシステムを開発し、そのサービスの提供を開始したという場合であれば、第9類「遠隔監視システム用電気通信機械器具監視用コンピュータプログラム」や第42類「遠隔通信ネットワーク用電子計算機プログラムの提供コンピュータプログラム及びコンピュータシステムの遠隔監視」などの分野での商標登録を検討する必要が出てきます。

さらに進んで、これらのデータの集積から、企業の工場の設備や設計、運営などの提案やコンサルティングなどを行なうようになれば、今度は第42類のうち「建築物のための基本的設備の設計及びこれに関する助言・指導又は情報の提供」なども検討しなければなりません。

そして、最終的にこのサービスのみを独立してインターネット経由で全国展開し、顧客の依頼を受けてIoTシステムを顧客の工場に組み込みつつ、そこからデータの送付を受けて、これらのデータ分析と提案のみを行うというかたちから、システムそのものをフランチャイズや代理店を通して販売するということになれば、第35類「フランチャイズに関する事業の助言」、第42類「建築等に関する試験・データ解析又は計測に関する助言」などを検討する必要まで出てきます。

通常、当事務所でも、顧問先企業様などで事業内容を把握している場合には、随時こういったご提案も行っていますが、秋野機械金属の場合は、単発の出願手続のご依頼をいただいたのみであったため、その後の指定商品役務のブラッシュアップができていない状態となってしまっていたのです。

私たちも、不本意ながら、「現在の指定商品役務では、相手方に対して商標権侵害の警告をするのは難しいです。」とご説明せざるを得ませんでした。
秋野社長も、「実際に、現場でも紛らわしいとして問題になってきています。何とか有効な手は打てないでしょうか?」と大変困っておられました。

そこで、私たちの方で調査をしたところ、幸い、「AKITO」の方は、まだ商標出願をしていないようでした。そこで、私たちは、「AKINO」について、追加で、9類、35類、42類などを急ぎ出願し、早期審査を経て、5カ月程度で商標登録を完了させました。その上で、「AKITO」に対して、このロゴと名称の使用の中止を求める警告書を送ることができました。

その後、色々と交渉はあったのですが、最終的には、先方がロゴデザインを大幅に変更し、ネーミングも若干の変更を加えて、混同が生じることもなくなったため、無事に解決することができました。

しかし、もしあのとき、「AKITO」の方が先に、秋野機械金属が出願していなかった9類、35類、42類などを出願していたら、逆にこちらがAIやIoTを活用した領域では「AKINO」の名前を使えなくなり、とても困ったことになっていたかと思うと、ぞっとします。
やはり、商標は、権利化した後も、自社の事業の変遷に伴い、常にブラッシュアップしていくことが必要です。正しく使えば大きな武器になる商標も、対応を怠ると大きな脅威にもなる。そんなことを痛感した事件でした。

知的財産権の譲渡を巡る落とし穴

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知的財産権の譲渡
を巡る落とし穴

ソフトウェア制作やシステム開発をしている東岡システムズの東岡社長は、当事務所の顧問先でもあり、定期的に状況の共有もかねて、事務所にお越しになります。

いつものように月例のご来所の際に、東岡社長から、競業他社から事業譲渡を受けたというお話を聞きました。「いや、先生、当社では以前からホテルやスポーツジムなどの施設向けのクラウド会員管理システムを提供していたのですが、飲食店向けのシステムは競合も多く、新しく開発して参入するのは障壁が高いと悩んでいたところ、飲食店向けの会員管理システムを提供しているA社が、この度、事業縮小のためにこの部門を売却するということになりまして、当社が、システムごとこれらを買い受けることになりました。

長年の懸案だった飲食店向けの会員管理システムに参入することができることになって、ほっとしています。事業譲渡の契約書の案が出てきているので、これを見てもらいたいと思って、持ってきました。」と、東岡社長。

しかし、私はそのお話を聞いて、不安がよぎりました。「社長、A社は、事業縮小ということですが、縮小してどのような事業をやる予定なのでしょうか?この資料を見ると、ほぼ主要な事業が、飲食店向けの会員管理システムの提供と運営のように見えますが。」とお聞きしたところ、東岡社長からは、「いや、実際のところ、廃業のようですね。ただ、M&Aだと、負債が大きすぎて買い手がつかないようですから、事業譲渡でキャッシュを得ようということのようです。」というご回答が。
「そうすると、A社は、その譲渡資金で支払えなかった負債は、どうするつもりでしょうね?」とさらにお聞きしたところ、「そこまでは聞いていませんが、何とかするんじゃないでしょうかね。」ということでした。

こういった「お金に困っている」企業の場合、通常では考えられないことをするものです。そこで、私は、「社長、このA社は、このシステムの権利(著作権)を、御社以外の会社にも二重に譲渡しようとしている、というようなことは考えられませんか?」とお聞きしてみました。

社長は、驚いていましたが、しばらく考えた末に、「いや、ないとは言えませんね。以前から、他にも売り先は打診していたようですし、最近では買い掛けも焦げ付いたりして、かなり資金繰りにひっ迫しているようですから、そういったことがあってもおかしくはありません。こういう場合、どうしたらよいでしょうか?」とご質問がありました。

二重譲渡などの不測のトラブルを防ぐ

会員データやシステムなどのプログラム(ソースコード)は、いくらでも複製ができますので、A社は、東岡システムズ社にこれらを譲渡してデータの形で納品し、代金を受け取って、さらに同じものを別の会社(仮にB社とします。)にも譲渡し、二重に代金を受け取ることも、技術的には全く可能なのです。
この場合、A社が悪いのは間違いありませんが、同じ被害者の立場である東岡システムズ社とB社の優劣関係は、取引の早い順ではなく、システムのソースコードなどについては「著作権移転登録の早いもの順」で決まるのです。

著作権は、特許や商標などと違って、登録をしなくても自然に発生する権利ですし、譲渡などにもいちいち登録が不可欠ではありません。しかし、今回のように二重譲渡がなされた場合には、著作権移転登録の先後によって優劣が決まることになります。したがって、もし東岡エンジニアリングの方が先に譲渡を受けていたとしても、B社が先に移転の登録をしてしまうと、結果として東岡エンジニアリングはこのシステムを使用することができないということになってしまうわけです。

私たちは、そういった点を東岡社長にご説明したところ、「先生、それではすぐに移転登録手続きを行ってください。」ということになり、それから私たちも、当事務所の著作権担当者全員を動員して急ぎ準備を行い、早急に移転登録を完了させました。

また、A社との契約書にも、著作権の移転登録が完了することと、A社と東岡エンジニアリング社の連名で全会員向けに「サービス提供法人変更のお知らせ」を完了させることを、譲渡代金の残代金支払い条件としてもらい、これらを早急に終わらせることで、二重譲渡などの不測のトラブルを防ぐことができました。

実は、東岡社長が同業他社から収集した情報によると、A社は、東岡エンジニアリングに事業譲渡の話を持ち掛けるとともに、東岡エンジニアリングの競合企業でもある別の会社にも、売却を打診していたとのことでした。今回は、東岡社長の素早い決断と、著作権移転登録及び会員向け挨拶を残代金決済と連動させた契約により、最悪の事態は免れましたが、もしこれらの対応をしていなければ、A社は、本当に二重譲渡をしていた可能性も濃厚であったと言えます。なお、A社は、この事業譲渡後、社長が行方不明になり、いわゆる「夜逃げ」をしたと聞いています。

事業をしていると、色々な不測の事態も起こりますが、ある意味、いつも「不測の事態」ばかり見ている私たち弁護士にとっては、ある程度予測できるものも多いと言えます。適切なタイミングで東岡社長にご相談いただいたおかげで、私たちも適時に適切な対応をご提案することができ、本当に良かったと思います。

知的財産権で資金を調達するために

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知的財産権で
資金を調達するために

当事務所の顧問先のシステム開発会社である須藤システム研究所の須藤社長が、困り果てた様子で事務所にお越しになったのは、年末に向けて色々とあわただしくなる12月のはじめのことでした。

須藤システム研究所は、ある画期的なデータ演算システムを保有しており、その著作権のライセンス料やそのシステムのクラウドでの使用料などで、堅調な売り上げを上げている会社でした。しかし、あるプロジェクトについての読みが甘く大きな赤字を出してしまったため、経営が悪化してしまったのです。
もちろん、業界全体としてはその後も伸びることが予想されていましたし、中長期的に見れば同社の経営も問題はないと考えられていたのですが、短期的な資金繰りがうまくいかず、早ければ半年程度で資金ショートを起こす可能性が出てきていたのです。

「いやあ、銀行に融資を申し込んだんですが、不動産もありませんし、なかなか担保になるようなものがなくて断られてしまいまして。著作権や商標権に担保を設定しては、とも言われたのですが、担保設定なんかしてしまうと、あっという間にうちの経営が悪化したことが業界でも知られてしまうので、それこそ倒産確実になってしまいます。うちの取引先は大企業や官公庁も多いですから、そういう噂は本当にまずいんですよね。」と、須藤社長は頭を抱えておられました。

確かに、著作権や商標権といった知的財産権を担保に資金を借りるということは可能ですし、須藤システム研究所のように、現にその知的財産権が収益を上げている場合は、担保価値もある程度算定が可能ですので、現実的にはあり得る選択肢とは言えます。
このような知的財産権を担保に入れる場合の手法としては、代表的なものとしては質権と譲渡担保があります。質権は、自己に名義を残したまま借入れできるというメリットがある反面、質権設定の事実が原簿上で公示され資金難を疑われてしまう点、担保権実行の手続が煩雑である点でデメリットがあるといえます。

これに対して、譲渡担保は、原簿表記上は通常の譲渡と変わらないため借入れの事実は分からない点、特許を受ける権利にも設定可能という点でメリットがあるものの、名義が債権者に移転するため転売のリスクを伴ったり、そもそも名義が変わることによって取引先にも説明をしなければならず、やはり資金難の疑いを招いてしまうというデメリットがあります。

SPCを使った資金受け入れの手法をご提案

私たちは、須藤社長にさらに詳しく事情をお聞きしたところ、須藤システム研究所の技術は、業界ではかなり有名で、資金を出したいというファンドはいくつかあるとのことでした。しかし、須藤社長としては、ファンドに自社の経営に介入されるのも避けたいとのことで、どうすればよいかと悩んでおられました。
そこで、私たちは、SPCを使った資金受け入れの手法をご提案しました。

具体的には、あらたに出資を受け入れる特定目的会社(SPC)を作り、ファンドからそのSPCに資金を入れてもらって、SPCが須藤システム研究所の保有する知的財産権を買い取ります。これにより、須藤システム研究所は、まとまった資金を調達することができるため、資金繰りの悩みから解放されることになります。
その後、須藤システム研究所は、SPCからライセンスを受けて従来通りの事業を行い、その収益の一部をライセンス料としてSPCに支払います。

その後、須藤システム研究所自体は、本事業及び関連事業を強化して収益構造を強くし、一定の時期が来たら、その時点での価格でSPCから知的財産権を買い戻すというものです。そうすると、借り入れではないため須藤システム研究所の財務状態は傷みません。
また、知的財産権は譲渡されるのですが、SPCですと「知的財産権の証券化による財務強化です」という説明も可能であり、新規投資のためのスキームと理解されやすいことから、信用不安の心配もそれほど高くないと言えます。

もちろん、SPC方式の場合は、それなりに煩雑な準備や作業も多いのですが、そのあたりは当事務所とファンド側で相談しながら進めることにより、比較的スムーズに組成をすることができました。

須藤社長は、予想外に多く集められた資金を使って、関連サービスのシステム開発や、それまで課題だった「技術は良いが商品力が弱い」と言われる状態を解消するために、あらたなユーザーインターフェイスや商品の開発を積極的に行い、売り上げも拡大して、財務状態も飛躍的に改善されました。数年後には、SPCから知的財産権を買い戻して無事にエグジットができる見込みですが、このままでいくと、ファンドに対しても、当初の目論見を超える利益をリターンできそうですので、まさにウィンウィンの結果になりそうです。

「あのとき、SPC方式を提案してもらって、本当に良かったです。」
須藤社長からは、最近、お会いするたびにそう言っていただけます。私たちとしても、本当に幸せですし、嬉しいことです。
これからも、「新しい価値を創造できる法務」を目指して、私たちもしっかりと自己研鑽を続けたいと思います。

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